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真っ赤な女の話

作者: 國本丹

 東ダイングのレイドという町では赤い花が採れ、それで赤く色づけされた物が特産品でした。衣服から調度品、化粧の紅に至るまで、様々な物がレイドで採取された花で美しい赤に染め上げられていました。

 またこの美しい赤色はレイドの女にとっては非常に重要な色でした。この町では女が十五歳になると、一年間毎月のように仮面舞踏会が開かれ、十六歳になると、婚約のための舞踏会が開かれるのが習わしでした。そのとき女の美人の証として、特産品である赤色の似合うことが条件でした。赤と調和する流れるような美しい金色の髪、赤いドレスと赤い仮面、そして仮面を外したときに口につけている赤い口紅の映える白い肌、これが美しいことの条件でした。


 レイドの町の下流貴族に双子の姉妹がおりました。二人とも流れるような金髪を持ち、色白で、赤の似合う美しい女でした。加えて姉は整った顔をしていて文句のつけどころがありませんでした。しかし妹の顔はやぼったく、姉と並ぶとそれはそれは劣った顔立ちをしていました。二人が十五歳になり、毎月のように仮面舞踏会に参加すると、いよいよそれは明白でした。

 仮面舞踏会の後半、参加した女たちが一列に並ぶと、踊った男たちが良いと思った娘の前に跪きます。姉も妹も舞踏会の踊りをきちんと教わっていたので、赤い仮面をつけ、顔の分からない状態では、踊りの点だけ見れば二人は同じくらい美しかったので、姉妹とも同じくらいの人数の男に思いを寄せられていました。さてその後、一列に並んだ女たちは順々に仮面を外し、目の前に跪く男の中から一人を選んでさらに踊ります。隣に並んだ姉妹はまず妹から仮面を外しました。美しい金髪にドレスから覗いていた白い肌、白い顔に赤の口紅が差してあり、評価は可もなく不可もなくといったところです。しかし次に姉が仮面を外すと、その美しさに男たちは一斉に姉の前に移り出しました。ただでさえ美人である姉の隣に劣った顔の妹が並んで、それはまるで美しさを引き立てるかのようにいるのですから、他の女たちも、引き立て役の妹もたまったものではありませんでした。

 このようなことが十六になるまで何度も繰り返され、男たちは姉の前にばかり並び、妹は仮面を外したときの引き立て役のために参加しているようなものでした。


 とうとう明日が十六歳になるという日。夕食後、父親が二人を呼び寄せ、姉と妹にそれぞれ豪華な赤いドレスと赤い口紅、そして真っ赤に塗り重ねられた仮面を渡しました。明日は町一番の大金持ちの上流階級の息子がやってくるので、彼に見初められれば家は安泰になります。そのために父親は奮発して豪華な衣装と仮面を用意したのでした。父に礼を言い、自室に戻った妹は真っ赤な仮面を見つめて言いました。


「姉さんばかり褒められて私は醜いばかり。いっそのこと、これが熱く熱された仮面になって、姉さんの顔面に張りつけばいいのに」


 次の日の夜、普段より一層華やかな仮面舞踏会が開かれました。式が始まり、妹と他の貴族の娘たちは会場に出ていきました。式はもうとっくに始まっているというのに、姉の姿はありませんでした。妹に踊りを申し込む男たちは優雅に踊りながら、姿を見せない姉のことばかり妹に尋ねてくるのでした。


「赤のよく似合う、金髪で色白の美しいあなたの姉上様はどちらにいらっしゃいますか」


 聞かれるたびに妹は分かりませんと答えました。


 しばらくしてようやく姉が姿を現しました。しかしなぜか全身が震え、奇妙な足取りで階段を下りてくるのです。誘われて踊る踊りもぎこちなく、仮面からフューフューと息をもらし、どこかおかしな様子でした。けれど、男たちは姉の美しさを一年かけて見てきたので、今晩の踊りが下手でも気にしませんでした。

 一通りの踊りが終わり、いよいよ婚約が始まります。男たちの半分は一斉に姉の前に跪きます。先頭に跪いたのは、町一番の大金持ちの貴族の息子でした。他の娘の前には少なくても一人は男が跪いていたというのに、姉の隣に立つ妹の前には誰もいませんでした。

 女たちが次々仮面を外し、妹も仮面を外しました。他の女たちが婚約を決めた男と手を取り会場の中央へ歩いていく中、姉はなかなか仮面を外そうとしませんでした。赤い口紅のついた口を動かし、妹が姉に外すよう促しますが、それでも姉は仮面を外しません。痺れを切らした町一番の金持ちの息子が仮面を外そうと触れると、仮面は火であぶられたかのように熱く熱されていました。それでも無理やり取ろうとすると、仮面に顔の皮膚が張りついていたのか、メリメリ音をさせながら顔面の皮が引きはがされ、血だらけの顔がさらされました。


「なんと醜い! こんな真っ赤な顔ではレイドの赤が似合わないじゃないか!」


 金持ちの息子が叫びました。姉の顔は皮膚が剥がされたために全面真っ赤で、赤い口紅を差したところで何も分からないほど焼けただれていました。するとどうでしょう。隣に立っている妹の金色の髪、白い肌、そして赤いドレスと赤い口紅のよく似合うこと。途端に妹が美しく見え、姉の前に跪いていた男たちがみんな妹の前に並びだしたのです。先頭には上流階級の大金持ちの息子が来ました。

 妹はうれしくなって、先頭にいた大金持ちの息子の手を取り、その後舞踏会で婚約成立の踊りを踊ったのでした。

 その後、妹が金持ちの息子と結婚したことにより、家は安泰になりました。

 一方の姉は、顔が焼けただれ無くなってしまったことが大変悲しかったらしく、髪の毛が生え際から泥のように汚らしい色になり、白い肌もくすんでぼろぼろになり、すっかり赤い色の似合わない女になってしまったのでした。おしまい。

                


あとがき

こんにちは。しゅんこです。

『真っ赤な女の話』を読んでくださり、ありがとうございます。

童話独特の残酷さを表現しようと、とても淡々と書きました。

子どもに読み聞かせるにはちょっとハードな童話風物語でしたね。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 玉の輿に乗って幸せになったシンデレラ のお話の対になったような暗黒面 姉妹間の嫉妬もまた然り ドロドロした恐怖がまとわり付くようです 本当は恐い童話の見本みたいな作品ですね ハッピーエンド…
[良い点] 昔話のようなこの幻想的な物語運びにはやはり独特の面白さというものがあります。ご都合主義的な強引なところも、その不可思議さをより一層強調する効果を生み出しているようでした。 [気になる点] …
[一言] 『真っ赤な女の話』拝読いたしました。 こわい話は苦手なのですが、淡々とした口調のおかげか、最後まで読めました。童話のように、読み終わっても印象に残るお話だったと思います。
2017/11/11 17:42 退会済み
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