高校生、意思を表明する
オサムが登校するとちょうど昼休みであった。
午前中は体調が優れなかったと学校に説明済みである。
昼休み、中庭のイスに座りながら株アプリを触るオサム。
「次はどこを買うべきか・・・。」
次に思いついたのはソガサミーであった。
オサムは以前Play Start Onlineが好きで遊んでいた。
100万円のうちソガサミーを95万円分購入してみる。
株価のチャートはまだ上にも下にも動きそうにない。
じーっとチャートを眺めていたが誰かが近寄ってくる気配を感じた。
ふと顔をあげると、そこにはサクラがいた。
オサムは慌てて携帯の画面を隠した。
「体調大丈夫?」
体調不良と説明してためサクラが心配してくれたようだ。普段あまりしゃべった事のない二人なのだが、体育館裏の一件以来ほんの少しではあるが会話するようになっていた。
「大丈夫だよ。そっちこそ大丈夫? 井上にまた何か言われてたりしない?」
「うん、大丈夫。」
「あのさ・・・」
オサムはイスから立ち上がり、サクラの目を見つめる。
「俺、500万円集められないか頑張ってみるよ。」
「えっ」
予想外の言葉に困惑するサクラ。
「そんなことしなくていいよ。私は大丈夫だから。」
「俺もう決めたから。来年の3月までに500万用意してみせる。」
「でも・・・」
「もし、俺が500万円貯められたら・・・お願いがあるんだ。」
オサムは、半年前、バスで登校中の出来事を思い出していた。
ある日、いつも通りバスに乗っていると、途中からおばあさんが乗り込んできた。
おばあさんは足腰が悪いのか、席を譲って欲しそうにしていた。だがその日は運悪く柄の悪い大学生達が席を占拠していた。
誰もが心の中では大学生達に敵意を向けていたが、直接席を譲るように促した人物は一人だけだった。サクラである。サクラは席を譲るように大学生に促したが、それによって車内に険悪な雰囲気が流れた。
オサムは勇気もなくただ傍観していたが、しばらくするとサッカー部の吉田トオルがサクラと大学生の間に入った。
背が高く、顔立ちも整い、スポーツ万能な吉田トオルが上手く大学生をなだめると、サクラに吐き捨てるように悪態をついて大学生達は降りていった。
オサムはトオルの姿を見て「自分にも勇気があれば・・・」と自分の心の弱さを痛感していた。
サクラは緊張の糸が切れたのか、その場にしゃがみ込み泣き始めた。
おばあさんが泣いているサクラに感謝し、サクラをいたわっていた。
後日この件は学内で噂となった。噂では、サクラとトオルがこの一件で距離を縮めて付き合うのも時間の問題というになっていた。オサムは、心中穏やかではなかったが、自分はチャンスを逃したのだから仕方がないと諦めていた。
だが、しばらくしてトオルがサクラに振られたと言うニュースが流れた。「好きな人がいる」と言う理由で。その時に、ホッと胸をなでおろしたのをよく覚えている。
500万円貯められたら、あの時誰が好きだったのかを教えて欲しい。そして今誰を好きなのかを教えて欲しい。それがオサムの望みだった。オサムは井上のようになりたくないと思っていた。500万円を貸す代わりに交際を強要すればそれは自分が井上と同類になると思っていた。
「お願いって?」と聞くサクラ。
「いや、500万必ず貯めてみせる。そのときに言うよ。」
「うん。わかった。」と言うとサクラはそのまま教室の方向へと歩いていった。そろそろ予鈴がなる。
携帯を眺めるオサムに、サクラとアオイの会話が少しだけ聞こえてきた。
「サクラ、今日何かいいことあったんでしょ。久しぶりに笑顔見たかも」
さてと株の方を頑張りますか。オサムは再び株のアプリを開いた。
先ほど購入したソガセミーの株価は会話の間に下落し、95万円の株は90万円へと目減りしていた。
「くそったれ・・・本当に何とかなるのかよ」
バイト代に換算すると何時間分失ったのか・・・計算したくない額のお金が失われていた。
【資産】約100万円 -> 約95万円(-5万円)
ポイント
・この取引、何がまずかったか分かりますか?
・なぜオサムが損をしたのか、オサムがどのような取引をすべきだったのか説明できない人は下手くそです