【後半戦】高校生、赤字企業を買う
途中の話をすっ飛ばし。
忘れない内に書いておく(後で作品として肉付け予定)
日付は他の銘柄とかぶるので、最終的にはかぶらないようにずらす予定。(つまり架空の日付に置き換わる)
次の銘柄は何にしよう。
そう考えながら帰宅するオサムに声を掛ける者がいた。
「やぁ、オサム氏。今から帰宅かな。」
その声は、校内きってのゲームオタクである鶴田であった。なぜか彼は下の名前でオサムを呼ぶ。
「おう、鶴田。おつかれ。」
「オサム氏、知ってるかい、新作ゲーム情報を。」
「わからないな。教えてくれ。」
鶴田はそう言うとニヤリと笑った。鶴田はこの流れが好きなのだ。
「オサム氏は、剣と魔法のロブスターを開発した会社をご存知かな。」
「たしか・・・Timingだっけ。」
「そう、そのTimingが新作MMORPGを開発しているのでござるよ。
なんとパソコンとスマートフォン両方から遊べるという画期的なゲームなのでござる。
名前をキャラメル・ストーリーというでござる。」
「いや、へぇ、それいいね。スマホしかない人とも遊べるじゃん。面白そうだ。」
「ただ問題なのが・・・1年前に情報が公開されてから一向に情報が出てこないのでござるよ。」
「出る出る詐欺かぁ。」
「もし出たら一緒にやるでござるよ。」
「そうだな。楽しみにしておくよ。」
その日の夜、オサムはTimingを調べてみることにした。
Timing。証券コード391X。
剣と魔法のロブスターが大ヒットしたおかげで上場を果たしたが、その後はイマイチヒット作に恵まれていない。
2週間前の決算ではついに大幅赤字を出しており、株価は大きく下に落ち込んだ。
調べてみたところキャラメルストーリーは社運をかけた大型プロジェクトのようで、この作品の動向次第で株価は決まるように見えた。
「これはちょっと買いたくなるような銘柄じゃないな・・・もちろん決算の直後だから、ややリスクは低いとも言える。けれど明確なプラス材料がないと買えないな。今この瞬間キャラメルストーリーのリリースがアナウンスされれば、逆に赤字決算直後だから安心して買えるけれど、そんな都合の良い話はないしなぁ・・・。」
そう言ってオサムは就寝した。
翌日、昼休みに屋上で株価を眺めていると鶴田が慌ただしい様子で現れた。
「オサム氏!」
「な、なんだ。どうしたんだ。」
普段見ない鶴田の様子に驚くオサム。
「出たでござるよ!」
「出たって・・・何が?」
「キャラメルストーリーの事前登録でござる!!しかもβテストも開始されるでござるよ!
今日は18日だけど、βテストがなんと22日から始まるでござるよ!!」
「なに!?」
昨日言ったことが本当に現実となった。急いでスマホでTimingの株価を調べてみる。
12:20、後場の始まる12:30までまだ時間がある。
Timingの株価は前場終値の500円から、+10%の550円の値になっている。
「これは・・・行くしかない!」
昨日自分がいったことを思い出したオサムは、いっきに資産全てでTimingを購入した。
散々赤字を垂れ流し、全く良いニュースのなかったTimingが、社運をかけたゲームをついに発表した。これはβテストが始まるまでの数日の間は上がるに違いない。オサムには確信があった。
その日の引け、事前登録者数がわずか数時間で150万人を突破したことが公式IRにて発表された。
オサムにとっては完全に追い風である。
翌週の21日(月)も、株価は勢いよく吹き上がりストップ高をつける。
「よしっ!」とガッツポーズを決めるオサム。
だが、その日の引けで再びIRが出る。
クローズドβテストの延期のお知らせ。
「ま、まさかそんな・・・」と青ざめるオサムであったが、中身を読んでみるとそれは否定的なものではなかった。
それは人気が殺到しすぎたため、募集する枠を拡大するために22日(火)スタートから、29日(火)スタートにするというものであった。
「更に追い風が吹いているかもしれない。」
オサムの保有するTimingの株は24日にはついに800円を超えた。
だが、オサムは流石にここまで急な高騰に戸惑いを感じていた。
ここから更に株価は伸びるのか、それともここで終わるのか。
オサムにはそれが判断出来なかった。
オサムはここで持つべきか、売るべきか、ずっと考えていた。
だが25日(金)にはまだ判断が出来なかった。
結局28日(月)まで株価を眺めるしか出来なかった。
朝、考えながら学校へ投稿するオサムに、鶴田が現れた。
「オサム氏、いよいよ明日でござるな!」
「そうだな。」
ふとオサムは思った。ゲームマニアの鶴田にきいてみてはなにか答えが分かるかもしれない、と。
「鶴田はどう思う?キャラメルストーリーは面白いゲームだと思うか。βテストは成功すると思うか。」
「難しい質問でござるな。ハッキリ言ってわからんでござる。
だけれど今は皆が同じ方向を向いて期待しているでござる。これを祭りというでござる。オサム氏もこの祭りを楽しむでござる。祭りはいつかは終わってしまうでござる。」
ハッと気づくオサム。
「鶴田・・・今なんて言った。もう1度言ってくれ。」
「祭りでござる。」
「いやちがう。その前の話だ。」
「皆が同じ方向を向いて期待している・・・という話でござるか?」
「それだ!!」
オサムは理解した。
今はゲームの内容が全く分からないから、全員がTimingの新作に期待しているのだ。すなわち全員が買い方といっても過言ではない。
ところがオープンβ開始と共にゲームの内容が明らかになれば、そこには好き嫌いが生まれるだろう。この瞬間、全員が期待していた状況は終わる。つまり買い方の一部が売り方に回る可能性が高い。そうなれば株価は下に落ちる。
すなわちオープンβ開始日である29日(火)に、株価は落ちる可能性が高いのだ。
オサムは28日(月)の今日が最後だと思った。オサムは全ての株価を850円で処分した。550円で購入したのだから+55%となった。後はもう株価を見守るだけだった。
翌日29日(火)、ついにオープンベータテストが開始された。すると株価は一時800円を割った。
翌日30日(水)、株価は大幅に下げて、ついに750円まで下げた。
オサムはやはりこうなったか・・・と思った反面、もしゲームの出来が芸術レベルであれば株価は1000円を超えて、2000円、3000円と膨らんでいっただろうと思っていた。だが、それは淡い期待であることを知っていた。毎年多くのゲームが生まれ、そして消えていく。自分の買った銘柄が都合よく大ヒットを飛ばすということを期待してはいけない。それは投資ではなくギャンブルなのだ。
それに赤字企業ということも忘れてはいけない。赤字の拡大する企業の株を長く持てば持つほど負ける確率はあがっていく。
そして自分にとって「確実に上がるだろうと確信のある場所だけで売ること」の大切さを理解していた。
確実に上がる部分だけをつまみ食いしていけば良い。
確実に上がる部分だけを渡り歩けば良い。
それが正しい短期投資の姿だ。
オサムはそう感じていた。
資産 +50%増加




