三枚目
三
パトロール(食料調達)から事務所に帰ってきた。
それから頂いた野菜やらお惣菜をテーブルに並べ、翔が
「いただきます。」
と火世の目の前で朝食を食べ始めた。
「火世ちゃんも食べない?」
「いえ、朝ごはんは食べてきました。」
「じゃあせめてこのトマト食べてみ?。」
ひょいと真っ赤に熟れたトマトを勧められた。
お腹はそこまで空いてなかったが、そのトマトをじっと見つめると自然と手がのび、一口かじった。
「・・・甘い。おいしい。」
「でっしょー!俺昔トマト嫌いだったけど、ここのトマト食べてから食べられるようになったんだよ!」
と、自分の育てたトマトのように自慢気に翔が言った。
確かにそれほどのいい野菜だと火世は思った。
「最初からこのトマト食べて育ったら嫌いにならないですんだのにな」
翔は箸でつかんだトマトを見つめながらそう呟いた。
「・・・?社長はずっとここで育ったのではないのですか?」
ちなみに、勤務時間内は社長と呼べと言われたので火世は好きで社長と言っている訳ではないことを弁解しておこう。
「俺がこの街に来たのは13歳の時だよ。それまで俺は・・・児童養護施設にいたんだ。遠くのね」
「・・・そうだったのですか」
「最初来た頃は、知らない街で知らない人との接し方なんてわかんなすぎて怖かったけど、この商店街の温かさとじーさんのおかげでそんなの忘れちまったなぁ・・・」
「じーさんというのは・・・先代のことですよね。」
「・・・あぁ、そうだよ。さーて、これ食べ終わったら定例会に向けて準備しねーとな!」
「・・・」
その後火世は掃除を命じられた。そして翔は色々なところに電話しているようだった。定例会のことについてだろう。
黙々と相変わらずの無表情で火世は掃除をした。しかし元々そこまで散らかっていたわけではないのですぐ終わってしまった。
そしたら翔が「お疲れ様!じゃああとは・・・あ、そうだ、この前ジグソーパズル完成させて欲しいって頼まれたやつやっといてくれない?」
仕事の定義を見失いつつ、言われた通りジグソーパズルを黙々と火世は始めた。