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花札の人達  作者: 染葉 楓
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二枚目


「じゃあまずパトロールに行こうか。」

「パトロール・・・ですか?」

「せっかく秘書になったんだから商店街の人達に挨拶回りしなきゃね。それに、火世ちゃん最近ここら辺に引っ越して来たんでしょ?案内も兼ねて行こう。それにもう冷蔵庫に何もないからなぁ」

「はぁ・・・?」

最後の一文を理解出来なかったが、とりあえず初仕事のパトロールをすることとなった。

火世は元々住み込みで働いていた。しかしそこをクビになったので新しく商店街の近くのアパートに引っ越してきた。前の職場と少し離れているため、まだここの場所については知らない。


朝早いから人が閑散としてる・・・というわけではなく、開店準備がもう始まっているのか人の気配と動きを感じる。


松山商店街は南北に長く、およそ1㎞弱続いている。そのためその長さの分店の数も多い。

松山商店街振興組合所兼松山探偵事務所は(以下松山事務所と略)北の端っこに存在する。北のゾーンには割と古株の店が多いらしい。


翔はその趣のある店の人達に挨拶回りをする。

「おはようおっちゃん!」

「おぅ!松山の坊主じゃねーか!今日は活きのいいマグロとブリが手に入ったから両方分けてやるよ!」

「おぉ!ありがとう!!さすがおっちゃん!太っ腹!」


「おはようおばちゃん!」

「あらあら翔ちゃんじゃない!そぉだ、昨日おかず作り過ぎちゃったからよかったらもらってくれない?」

「ホント?いやーおばちゃんの料理は絶品だからぜひちょうだい!」

「いやだわ翔ちゃん、相変わらず口が上手いんだから!ホホホホッ」


これは本当にパトロールと言うべきなのか、否、これはパトロールの皮を被った食料調達である。

魚屋に八百屋、豆腐屋等々の挨拶回りはお土産をたんまりともらいながら進んだ。

翔は今までの子供っぽいような、オヤジくさいような言動では推測しにくいが、28歳という意外と若いような、そうでもないような年齢である。

しかし、商店街の古株の人達にとっては息子や孫みたいな存在で翔の人懐っこさも相まってみんな慕っていることは間違いなさそうだ。自分には出来ないことだなと火世はいいにおいのする手荷物を見て思った。


そして火世も翔に続いて挨拶回りをすると、

「無理矢理秘書にされたのか?」とか

「何か弱みでも握られたのかい?」とか

「困ったらうちで働きな!」等心配なコメントを頂いた。

仮にも松山商店街組合会長の肩書きをもつ彼だが、さすがに威厳というものは存在していないらしい。


次に来た店は割と新しい建物で可愛らしい雰囲気の花屋だった。もう食べ物調達は終わったのか。そう思いながら翔に続いて火世も店の中に入った。

すると中にはこのお店の雰囲気に合う小柄で可愛らしい天使のような少女が花を持ちながら動いていた。

「・・・!」

「おはよう子規しきちゃん、今日も元気そうで何よりだ」

翔はその少女に頭をぽんぽんと撫でた。

するとひまわりのような笑顔を翔に向け、そして後ろの火世に気づき、目を大きくさせて首をかしげながらこの人は誰?というかのような表情をした。

「この子は目白 火世ちゃんっていって、今日から俺の秘書なんだ!」となぜか誇らしげに言っていた。

「目白 火世です。今日からよろしくお願い致します。」と火世が挨拶すると、まわりの花がかすむほどのまぶしい笑顔を火世に向け、こちらこそよろしくね!というかのような表情で握手を求めた。

火世も心なしか表情が少し緩まったようなそうでもないような表情で握手した。

「じゃあ子規ちゃん。いつもの花束頼むよ」

花束?食べ物ではなく?と火世は思いながら、子規ちゃんは了解です!というような表情でせっせと花束を作った。


百合がメインの花束をもらい、子規に感謝と別れを告げた。

「とりあえず午前中は次で最後の店だよ。」

そう言われて少し歩くと和風の建物の前に来た。

「ごめんくださーい」と引き戸をコンコンと叩いた。

電気はついていなかったため店は開いてないが、中から「はーい」という女の人の声がした。

ガラガラっと引き戸が開き、目の前に着物姿の美人が現れた。

「おはよう、あやめさん。はい、これいつもの花束。」

「あらおはよう翔さん。ふふっ、いつもありがとう。ところで、後ろの可愛らしい子はだーれ?」

そう言いながら翔の後ろを覗き込んだ。火世と目が合い、少し火世が固まったが相変わらずの無表情で

「目白 火世です。今日から松山事務所の秘書になります。これからよろしくお願い致します。」と挨拶した。

「あらぁ、この子が秘書さんね。翔さんずっと欲しがってたから。私、ここの小料理屋“八ツ橋”の女将をしてる、あやめっていいます。これからよろしくねぇ火世ちゃん。」

妖艶に微笑まれ、火世は無表情のままだが鼓動が速くなった。

「あやめさん、火世ちゃんの歓迎会兼ねてそろそろ定例会開きたいんだけどいつ大丈夫?」

「いいわねぇ!なんならもういっそ、今日の夜とかどうかしら?」

「火世ちゃん今日の夜予定とかある?」

「いえ、特にありませんが、急に決めて大丈夫ですか?」

「それなら気にしなくて平気よぉ。翔さんここの常連さんだし、何しろ定例会があれば優先してここを使えるわ」

「定例会?」

「後で説明するよ。それじゃあ他のメンバーにも声かけてみるからあやめさん準備よろしく。あと、魚屋と八百屋でブリと大根もらったから今日はブリ大根がいい」

翔はあやめにブリの切り身と大根を渡した。

「はいはい、リクエスト承知しました。ほなまたおこしやすー」


翔とあやめは優雅に手を振るあやめに見送られながら事務所に戻ることとした。翔もあやめに手を振り、二人はしばらく見つめあっていた。

この様子やブリ大根の会話は、なんだか夫婦みたいだな、と火世は密かに思った。



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