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花札の人達  作者: 染葉 楓
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一枚目

プロローグ


見上げると空は青く透き通っている。

しかし、己の心には霜が降りるほど寒く、どんより雨が降る灰色の世界が広がる。


いつこの雨は止むのだろうか。

誰にも届かないこの言葉を思い少し自嘲気味に笑った。

そして黒い無機質なものをなでた。




朝8時。

目白めじろ 火世ひよはとある看板の前で立ち止まっていた。

“松山商店街振興組合所 兼 松山探偵事務所 2F”

長い。漢字の密集度がえげつない。

これが火世の看板に対する最初の印象だった。


火世は無表情のまま階段を上がった。どこにでもあるような雑居ビルの2階に着くと1つドアがあり、先ほどのえげつない名前が書かれていた。

そのままドアノブに手をかけ

「おはようございます」

と神経質そうな声で挨拶をした。


「・・・」

しかし返事はなかった。鍵がかかってないのだから人はいるはずなのだが。まさか、泥棒がいるのか?

そう思いながらもとりあえず火世は部屋に入り、ドアを閉めようとした。

その時人の気配を感じた。

「・・・っ!」

目の前に大きな人影が現れ、かなり至近距離にいたため火世は本能的に悲鳴をあげ・・・るのではなく躊躇無く、正確に、鳩尾に一発入れた。


「ごふっぉぉ」

その大きな人影がよろめき火世は距離をとった。


「あなた一体誰ですか?さては泥棒ですか?」

先ほど鳩尾に一発入れたとは思えないほど冷静にそして鋭い口調で聞いた。

「ひ、火世ちゃん!お、俺だよ!」

「オレオレ詐欺なら電話でしてください。そして警察に捕まってください。」

「ち、違う違う!ゴホッゴホッ・・・ま、松山まつやま しょう!ここの組合会長兼社長だよ!!」



「つまり、私を驚かせようとしてドアの後ろに隠れて待っていた・・・と」

「そうそう!だから30分くらいずっと立ってたんだよねー。そして火世ちゃんが来たから今だって思って近づいたら、鳩尾にクリーンヒットしてて逆に俺がビックリしちゃったってことだな!ハハハ!」

コーヒーを飲みながら翔は呑気に笑った。

そして火世は呆れた顔をして・・・いなかった。最初と変わらない無表情だった。


「そうとは知らず、泥棒か何かの類と思い、迷い無く鳩尾に入れてしまい大変申し訳ございません。」

「いやいや、俺こそ初日からふざけ過ぎたな。ごめんごめん。じゃあこれでおあいこにしよう」

やんわり微笑み、火世に向けて言った。


「さて、改めて仕切り直すとして。俺が松山商店街振興組合会長兼松山探偵事務所社長の松山 翔だ。これから頼むね、秘書の火世ちゃん。」



ここは松山商店街。大きな商店街である。

この周辺地域は昔から〈五光の街〉といわれ五大勢力で成り立っている。その内の一つが松山家だ。この商店街の土地は元々松山家のものであったため、商店街振興組合会長は松山家が代々受け継いでいる。


そしてその松山家の現当主がこの松山 翔である。

彼の長い肩書きを短くすると“無職に近いなんでも屋”。

松山家は資産家で主に政治関係に携わる者が多いが・・・例外もある。


ある日彼は(テレビのドラマの影響により)そうだ、秘書を雇おう、ととあるCMのように思いつき、

「秘書募集中 20代の女性なら大歓迎 連絡はこちらまで」と書いたはり紙を10枚つくり商店街の様々なところに貼り連絡を待った。

それから半年全く鳴らなかった松山探偵事務所の電話についに電話がきた。その電話に一瞬で出て、

「もしもしっ!?」

「・・・こちらは松山商店街振興くみ」

「そうです!もしかして秘書希望!?」

「・・・はい、そちらで秘書をきぼ」

「君何歳?」

「・・・21歳です。」

「はい採用!じゃあ明日から来てくれる?」

「・・・はい、わかりました。」

「よかった~じゃあよろしくね~」

「あの、何時から伺えばよろし」

「あぁ、特に決まってないけど午前中なら大丈夫!」

「では朝8時頃伺います。名前は目白 火世と申します。明日からよろしくお願い致します。」

「火世ちゃんって言うんだね、わかった!それじゃあねー」


こうして弾丸スピードで火世は秘書となり、今日に至る。

なぜすぐ採用したのかというと、翔曰く

「声がかわいかったから」だそう。

そして鳩尾の初対面となった訳である。


火世は少し前に働いていたところから、不景気のせいなのか、はたまた彼女の無表情のせいなのかわからないが

「お前はもういらない」

と上司に言われクビになってしまった。

そこで途方に暮れていたところ数日前に例のはり紙を見て運良く職を見つけることが出来た。

そしてその雇用主に鳩尾の初対面となった訳である。



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