おらくる!!
帰宅すると、家は静まり返っていた。
女神様の出迎えを期待したのだが、可愛い姿が見当たらない。
正直な話、焦った。
夜遊び後の朝帰り、病気を貰って落ち込んでいる所に、娘達の失踪である。
もしかすると誘拐かも知れない。
いやな予感が膨れ上がり、まともな判断が下せなかった。
家の中を無意味に駆け回る。
そして、気付いた。
部屋に設置されたクローゼットが不自然に開いている事に。
躊躇う事無くクローゼットを開け放つ。
そこには天使…いや、女神様が二人抱きしめあい小さくなって眠っていた。
その顔には泣きはらした痕跡があり、疲れて眠りに落ちた様だった。
手を触れて体温を確認すると、とても冷たい。
長時間ここに隠れていた事が確認できる。
何だろう…この光景に心が傷んだ。
女神達の頬に手をあて人肌で温める。すると表情が和らいだ。
そして、一しきり頭を撫でてからベットへと運び、毛布をかぶせ暖をとらせた。
彼女達の血色が戻ってくる。それに安堵を思えた。
ただ介抱中、胸にざわめく罪悪感が晴れる事は無かった。
◇
暫くすると、女神達が目を覚ます。
部屋の中に俺の姿を確認し大声を上げた。
体全体で喜びを表現し、確認し合う姉妹。
「パ―――パ!」
「パパ!」
返す言葉がない。
駆け寄ってくる女神達を、ただ優しく抱きしめた。
「パパ、いい匂い」
「うん、いい匂い」
罪悪感がさらに刺激される。
匂いには心当たりがあった。
昨日の夜遊びだ。
この匂いが俺の匂いと思われるのに抵抗があったので、女神達を無理やり引きはがす。
その行為に、女神達が目に涙を貯めた。
本当に情緒不安定な神様だこと…
「ごめん、パパは病気なんだ。
うつすといけない。
だから離れていてくれ」
不安そうに見つめる女神達を、優しく撫でて誤魔化す。
嘘は言っていない。
しかし、彼女達は、
「病気…、パパ死んじゃうの…」
「だめ!死んじゃヤダ!!」
過剰な反応を示し、縋り付こうとしてきた。
まいったな、
子供に性病を打ち明けるのは不味いだろうし、どうしたら…
困った顔を浮かべる俺を見て、
女神達が顔を見合わせ何かを思案し始める。
そして、
「おらくる!!」
「おらくる!!」
幼い女神が俺に与えたオラクル。
それは、まさしく神託そのものだった。
ただ、おバカな俺はそれに気づく事が出来ない。
女神達の拙い言葉を理解して、
スキルの『オラクル』に辿り着くのに、しばしの時間を要してしまった。
スキル:オラクル 効果:神託を授かる。
その効果に疑問を感じた。
果たして意味があるのだろうか…取得が躊躇われる。
躊躇われるのにはもう一つ理由があった。
必要SP1000。
2万のスキルポイントを保有する俺でも躊躇われる数値だ。
ましてや、初めて取得スキルだ。
後悔だけはしたくなかった。
女神達が自信たっぷりに笑いかけてくる。
後ほど吟味の上で取得スキルを決めるつもりだったが…
俺はそんな彼女達を信じる事にした。
目前に文字が流れる。
スキル:オラクルを取得。
そして、発動『オラクル』!!
部屋の中が静まり返った。
何も起きない。
俺の頬を嫌な汗が伝う。
もしかして…地雷スキル?
その時だ。
『フフフ』
頭に直接声が響いてきた。
それは、何処か聞き覚えのある邪悪な笑みだった。