誰1人として死なせはしない
スライム兄妹はよく眠っている。余程疲れていたんだろう。
聞けばまだ10にも満たぬ歳で身内を皆殺しにされたんだ。よく絶望せずここまで辿り着いたものだと感心する。
もし俺がゴブ太やハイピクシー達を失ったとしたら、同じ事が出来ただろうか?
正直、自信ない・・・ホントに強い子供達だなと思う。
「ゴブ太、怪我まだ痛むだろ? それでも参戦するのか?」
ゴブ太はユウの攻撃で鎖骨が折られていた。
その傷は回復魔法で塞いだが骨折とまで行くと芯にダメージが残りその痛みはすぐに完治とはいかない
本調子に戻るまでは何日か掛かるだろう。
「ダメージはあるけど戦わせてほしい。こんな傷で怯んでいたらあの子たちに笑われる」
「そうか・・・分かった。たぶんすぐに出番が来るから指定の位置で待機しててくれ」
ゴブ太は軽く頷き移動を始める。
すげーやる気になってるな。2人の話を聞いて頭に来てるのは俺だけじゃ無い様だ。
ユウとアイが来てから3時間程経っただろうか。千里眼カメラを見るとダンジョンの外に続々と人が集まって来ている。
すごい数だ。400人はいるか? ほぼ間違いなくスライム兄妹の言っていた連中だろう。
2人が言うには途中まではうまく移動の痕跡を消せていたらしいが最後に落下した所を多くの人間に見られてしまった様だ。ドジッ子か?
離れた相手と通信する手段のある世界だし情報が行き渡るのは早いよなそりゃ・・・外の会話を拾ってみる。
「ここって例の幼女が出入りしてるダンジョンですよね? やばくないですか?」
「大丈夫だ。確か今は山の町に滞在してるって話だ。すぐにここへ戻って来るって事はねェだろ」
「うまくすればダンジョンコアも一緒に狩れるし、むしろおいしいんじゃないか? へへへ・・・」
「そうだな、ここには前から目をつけてたんだが例の幼女が滞在してたんで手が出せなかったんだ。
やっと出て行ったと思ったら今度はゴリ達が来やがったからな。
なかなか手を出す機会が無かったが今は厄介なのがどっちもいねェ。見逃す手は無いと思うぜ」
「そうっすね、あのスライムのじじいには手こずったけど子供たちはランク3って話だし、あんなに苦戦する事は無いっしょ。
ダンジョンは出来て間もないし、どっちも攻略にはそんな手間は掛からないでしょ。サクッと行って終わらせましょう!」
「「「おおーーー!」」」
どうやら入って来る事に決めた様だ。
しかしあれだけの人数だと一気には入れないな。長蛇の列になってしまっている。今のうちに目ぼしい奴は鑑定しておくか。
『スキル:鑑定のレベルが2から3に上がりました。』
地味に鑑定のレベルが上がってステータスを少し見られるようになったが今はどうでもいいな。
敵は大将っぽいスキンヘッドがランク6で他はランク5が4人、ランク4が5人って所か。
他は全員は見てないがランク2~3ってところだろう。
最近強い奴は雰囲気で大体分かるようになった。強い奴をいっぱい見て来たからかな?
とりあえずランク3~5の奴と敵の大将はすぐ位置が分かるようにチェックを入れておく。
それにしても こいつら子供たちに苦戦しないとかマジで言ってんのか?
ランクも3じゃなくて4だし、実際の戦闘力はランク5以上あるだろあれ・・・
『ダンジョンに侵入者が現れました』
おっと、着いちゃったか。
どんどん入って来るが奥へは進まず全員揃うまで待つつもりの様だ。なかなか慎重だね。
◇
しばらくして全員揃った後、敵の大将らしき男がカメラに向けて話し掛けてくる。
「ダンジョンマスター、見ているのは分かっている。話を聞いてほしい。
俺たちはこのダンジョンを攻略しに来たんじゃ無い。
数時間前、ここにスライムが2体逃げ込んで来たろう? そいつらを狩りに来たんだ。出来れば引き渡してもらえねェか?
引き渡してくれるのならばその後は大人しく出て行くと約束しよう」
あほかこいつ、俺は外でのお前らの会話聞いてんだよ! 俺の事も狩る気満々の癖に何言ってんだ!
戦力を分散させて攻略を楽にしようって魂胆か? 舐めんな!
無視してもいいのだが、俺も今回の事に関しては冷静ではいられない部分もあるのでマイクをONにして返事をする事にした。
「断る。スライム達は俺を頼ってここへ来てくれた。それを裏切るような真似は出来ない」
「チッ!」
男は忌々し気に舌打ちをする。そして、馬鹿にした様な口調で話し始める。
「スライムどもに同情してんのか? よく考えろよ? お前とスライムどもは今日会ったばかりの他人だろう? 他人の為に自分が戦う事になるとかバカバカしいと思わねェのか?」
「他人じゃねェよ」
何も分かってない奴だ。
「会ってからの時間なんて関係ないんだよ。俺はあいつらの事を大切に思っているからな。相手の事を大切に思えるんなら、もうそれは他人とは呼ばねェよ」
どうもノエルのもう止まらない病が移ったかな?
「それにこれは後悔を残さない為でもあるんだ」
止まらない
「ノエルっていう俺の友達がな、スキルを鍛えるなら2つか3つに絞って鍛えろって前に言ってたんだ。
人は使わない能力は劣化するから万能を目指すのは現実的で無いって理由だ。
そう、人は万能になる事は出来ないんだ。
だからこそ自分がどんな人間になりたいのか、どこを目指すのか、どんな生き方をしたいのか目標を持って生きていく必要があると思うんだ」
止まらない
「そのノエルって奴は俺が困ってる時、まいってる時、幾度も助けに来てくれた。元気づけに来てくれた。
あいつが居なければ俺は今ここに居なかったかもしれない。本人の前じゃ照れくさくて言えないんだけどな、ホントに感謝している」
もう止まらない!
「俺はな、あいつみたいになりたいんだよ。
誰かが困ってる時に助けてやれるような、元気づけてやれるような、そんな人間になりたいんだ。
ここでお前らにビビッて子供達を引き渡す様じゃ俺の目標から遠ざかっちまうだろう? 俺の中に、後悔を生んでしまうだろう?
それは俺にとって死ぬよりもつらい事なんだよ。だから、子供達は渡せない。」
言葉を放った後、少しの間 静寂が支配していた。
これがノエルの放った言葉なら少しはこいつらの心にも響いたかもしれない。
だが、こんな事言った所でふつうは引き下がったりしないよな。俺にはあんなカリスマは無い。単なる自己満足だ。分かっている。
案の定、スキンヘッドの男は兵を退くどころか怒りに顔を歪ませ威圧してくる。
「はっ! 理想を掲げるのは結構だがこれはてめェだけの問題じゃねェぞ? てめェの仲間も大勢死ぬ事になるぜ?」
「それはどうかな? この世界へ来たばかりの頃ならともかく今の「俺たち」はそこそこ強いぜ? いいか、よく聞け」
ダンジョンのみんなもよく聞いとけ!
「子供達はな、もう俺の仲間だ。
あいつらが俺の事をどう思ってるかは知らん。でも、少なくとも俺はそう思っている!
そしてお前ら人間が何匹 集って来ようが俺の仲間は・・・」
古より伝わる伝説のセリフだ! 一度言ってみたかった!
「誰一人として、死なせはしない!!」
カメラを見るとゴブ太やハイピクシー達が拳を握りしめて笑っているのが見えた。
気持ちは同じようだ! うれしいぜ!
「かかってこいや! 人間ども!」




