◆クラン【銀色のハイエナ】
どうやら敵がやって来た様じゃ
「察知」のスキルを持つわしには分かる。数は、500人といった所か
対してこちらは50体、やはり戦っても勝ち目は無さそうじゃな・・・
転移妨害の結界を張られる前に子供達を包囲の外へ送らねばならん
「ユウ、アイ、早速だが転移でお前たちを外へ送る!
決意が鈍るといかんでな、皆への挨拶も無しじゃ!よいな?」
「うん!おじいちゃん、アイ恐いけど頑張るから!」
「俺も頑張る!絶対戻って来るから、待ってて!」
「・・・」
これ以上話してるとわしの方の決意も鈍りそうじゃ
歳を取ると涙腺が緩くなっていかんな・・・
わしは涙を堪え転移魔法を発動させる、別れの挨拶はしなかった
下手に別れの言葉でも言おうものなら涙が零れるのを我慢できないと思ったからだ
2人が転移した後、あまりのつらさにたまらず崩れ落ちた
早く外へ出て戦いに備えねばならぬというのになかなか涙は止まってくれなかった
「すまぬ、2人とも・・・」
涙を流しながらわしは家の外へ出る
そこには下卑た笑みを浮かべる人間たちが包囲を完成させつつあった
奴らの格好は様々だが、その背中には皆ハイエナのエムブレムを張り付けてある
恐らくクランの旗印じゃろう
クランとは冒険者のコミュニティで同じ志を持つ集団の事である
冒険者として活動していく際、依頼のランクが低い内はソロでも活動可能だが
依頼のランクが上がって来るとパーティを組まずにはやっていけなくなってくる
だがこのパーティを組むというのは新人には困難なのだ
その理由はベテラン冒険者はベテラン同士でパーティを組みたがるからだ
新人をパーティへ入れるとその新人に色々教えていかなければならない
人に物を教えるというのはそれなりにエネルギーを使うし自身の時間も浪費してしまう
しかもタチの悪い新人に当たると注意した際に逆ギレされたり
後々根に持たれ嫌がらせを受ける事もあるのだ
以上の理由からベテランは新人をパーティに加えようとはしない場合が多い
面倒見のいいベテランや同期の仲の良い者とパーティを組める事もあるかもしれないが、そういった例は稀であろう
そこでクランへの所属という選択肢が出てくる
クランへ所属すれば新人冒険者でもクランのメンバーとパーティを組む事が出来る
この場合クランのベテランからすれば新人を教育し、恩を売ることで
クラン内での立場も上昇するし新人が育ってくれれば自身が人手が欲しい時に助力を得やすくなる
新人も育ててもらった手前、頼み事を断りにくくなる訳だ
他にもクラン内での物資の共有や情報のやりとりなどクランに所属する事でのメリットは大きい
勿論そんな損得だけの関係ではなく ちゃんとした信頼関係を築いているクランも存在する
基本的には構成員の数が増えるほど一人一人との関係は希薄になるので
利益や効率を求めるなら大手へ所属し、仲間を求めるのなら10人前後の小規模クランを探して入るのがいいと言われている
スライム達を包囲している者達のクラン名は【銀色のハイエナ】
森の入り口付近を中心に活動するクランであり
構成員は約500名、そのうち殆どはランク2~3であるが
幹部の10人は半分がランク4であり、残り5人はランク5
頭目はランク6というAランク下位に相当するクランである
駆け出しの冒険者が中心に活動している この地域では最大規模の勢力を持っており
その活動内容は主にモンスターを討伐し、その素材を売り捌く事である
敵が皆 同じクランに所属しているという事は相手は烏合の衆では無く
統率の取れた動きが可能な事を示していた
そして、頭目らしき男が前へ出て口を開く
「お前ら、言葉が分かるんだってな?
ここにさっきまで「子供達」が居ただろ?どこへ行った?」
どうやら敵は「子供達」の事を知っているようじゃ
しかもある程度位置を補足する術を持っておる
スンスンと鼻を鳴らしている所を見ると「犬の鼻」持ちか?
転移で飛ばしたから見失った様じゃな
「子供たちはこの家の中におるが、会ってどうするつもりじゃ?」
存在についてはもはや知らぬ振りをしても無駄じゃろう
ならば ここは少しでもこちらに気を引いておきたい
2人が逃げる時間を稼げればそれでいい
「ふん、お前らスライムは何でも食い荒らすし繁殖力も半端ねえから
一般人には嫌われてるが
俺たち冒険者からすればいい金になる優秀な素材なんだよ!
食用としても使えるし、薬や魔法薬、魔導書のインクの素材なんかにもなる
インクは武器や防具、アイテムに魔法の効果を付与するのにも使える
使い道が多岐に渡る分 買い手はいくらでもいるって訳だ
特に、子供達ともなれば破格の値段で取引されるだろうよ~!」
これはスライムがあまり増えない理由でもある
繁殖力は高いが、素材として価値が高いので増えれば増えるほど乱獲される
「そうか、目的は分かった。
虫のいい話かもしれんが子供たちは見逃してくれんか?
その代わり、わしらの素材を定期的に渡すと約束しよう
子供達には無いが
わしらには「分裂」という自らの体を切り離すスキルがある
それを使えば定期的に素材を提供する事は可能じゃ
子供達も育てば「分裂」を覚えるかもしれん
今日わしらを全滅させるより
長期的に考えればそっちの方が利益は出るじゃろう?」
「ダメだ、お前らが夜逃げしないって保証は無いし
それに、お前らを狩りたがってんのは俺らだけじゃねェんだぜ?
グズグズしてたら他の奴らに取られちまうだろう?
お前らは今日!ここで!全員、死ぬんだよ!」
男はそう言って部下たちに合図を出す、と同時に敵は動き出した
100を超える敵の前衛がじりじりと間合いを詰めてくる
会話による時間稼ぎはここいらが限界か、すぐにでも臨戦態勢を取らないとまずい
わしは仲間たちに目配せをする
言葉にせずとも長年共に戦ってきた仲じゃ、それだけで意思は伝わる
皆自分から攻めることはせず、防御を固める。それでいい
「交渉の余地は無い様じゃな、だが、舐めるなよ人間ども!
わしらは山のダンジョンの生き残り!
幾多の死線を潜り抜けし我らの力、見せてくれようぞ!」
わしらはここで最後になる、少しでも奴らを足止めし・・・
そして1人でも多く道連れに連れていくとしよう




