◆子供たち
撃って出る案は中止となる、それをすれば子供達も滅ぼされてしまうだろうからだ
皆 真剣に子供達を救う案を考え始める
「長老の転移魔法で子供達だけでも包囲の外へ送れませんか?」
転移魔法は一族の中で長老だけが使える魔法だ、しかし
「現時点では無理じゃな、それが出来るならとっくにやっておる
マーキングは生きておるんじゃが、転移を妨害する結界が張られておる
移動できるとしても集落の内側じゃろう」
長老は話しながら考える
仮に包囲を抜けたとしても きっと子供たちは戻って来て我らと共に死ぬまで戦うだろう
何故なら優しく、まっすぐな心を持つからだ
包囲を抜ける方法は思いついてはいるが、子供たちをどう誤魔化すかが問題だ
「包囲を抜ける方法はある
今は無理じゃが、奴らが攻めて来た時必ず包囲の輪は小さくなるじゃろう
その隙を付き転移で子供たちをその輪の外へ飛ばす
後はわしらが暴れれば十分な陽動にはなるじゃろう、問題は・・・」
「子供たちにどう説明するか、だな・・・」
やはり皆 その事については分かっているようだ
無論そのまま正直に話すのは論外
何か、子供たちが「外」へ向かう理由を考える必要がある
しかし、あまり考えている時間は無さそうだ・・・
「皆、落ち着いて聞いてくれ」
集落の外周に配置しておいた召喚獣がやられたようだ・・・
あと五分もしない内にここは戦場となるだろう
わしは急ぎその事を皆に説明する
だが皆 恐怖するでもなく、戦いへの士気を高めているようだ
頼もしい奴らだ、ランクは低くともダンジョンで幾多の戦いを生き抜いてきた友たちだ
外敵め、我らの最後の意地、見せてくれようぞ!
「子供達にはわしから話をする!皆は子供たちの家を中心に方円の陣を敷き待機!
子供達には家の外の様子が分からんようにしてくれ!
恐らくこれが今生の別れ、最後の戦いとなる、だが寂しくはないぞ!
向こうでマスターが、仲間たちが待ってくれている!
笑って、会いに行こうぞ!」
「「「おおおおおおーーー!」」」
こんな時だというのに皆の叫びに心が震える、涙が出そうだ
しかし、泣いている時間は無い。
平静を装い子供たちの家に入り、仲間たちに家の出入り口を塞ぐように命ずる
窓などは無いのでこれで外の様子は分からない筈だ
そのまま仲間たちには陣を敷いてもらい敵が来るのを待つ
後は子供たちを説得するだけだ
2人の子供達、「ユウ」と「アイ」は家でおとなしくしていた様だ
ここ最近は家から出てはいかんと言い聞かせておいた
何日も家に缶詰で退屈だったろうに不満を言うでもなく大人しくしてくれている
本当にいい子たちだ
その気になればもっと我が儘に振る舞えるだけの力を持っているというのに・・・
「おじいちゃん、どうしたの?」
「どこか痛いの?」
これがこの子たちとの別れだと思うと身を裂かれる思いだ
だが、他のみんなには最後に立ち会う事すらさせてやれなんだ
ここはわしも、男を見せねばならん
わしは必死で平静を装い、表情を崩さず2人に説明を始める
「二人とも、わしらは子供を産めず、数を増やせないのは知っとるな?」
しかし2人が?マークを浮かべていたので
ダンジョンマスターに繁殖を禁じられている事などを軽く説明した
だが2人は何の話かよく分かってないようだ、まあその辺の詳しい話は重要ではない
数を増やせないというのは分かって貰えたので良しとしよう
「そのせいでわしらは数を減らし続けこのまま絶滅するのも時間の問題じゃろう
この危機を脱するには方法は1つしかない
他のダンジョンマスターの眷属になり、繁殖の許可を頂くことだ」
「ダンジョンマスターっていっぱい居るの?」
「ダンジョンマスター会ってみたい!」
「ああ、だがそれはわしらには危険な旅になるじゃろう
それ故に分かってはいても今まで行動には移せなんだ
なにせ「魔境」を目指さねばならんからのう」
「魔境?」
「そうじゃ」
これは嘘ではない
他のダンジョンがどこにあるかはわしにも分からん
当てもなく探すよりはと確実にあると言われる「魔境」を1人で目指した事があった
結果は「魔境」付近で門番らしき魔物に見つかり、事情を話し説得したが応じてもらえず 森の入り口まで転移で送り返されたがのう
なんでも眷属化するにはマスターが直接触れねばならんらしく
そんな危険な真似はさせられない、との事だ
転移で飛ばせる距離はその者の魔力と比例しわしは1キロ以内で精いっぱい
どう頑張っても2キロもは飛ばせんじゃろう
だがその魔物は数百キロは離れた森の入り口までわしを飛ばして見せた
恐るべき力を持つ魔物であった
殺されなかっただけ 寛容な処置であったと言える
逆に言えば敵意の無い者に対しては害意を持っていない様に思える
子供達なら魔境に近付いても殺される事は無いだろう
きっとわしと同じ様に送り返される筈だ
外敵から遠ざける為にユウとアイには魔境へ行ってもらう事にする
「わしらは弱く、魔境への旅には耐えられん
2人で行って、許可が取れたら迎えに来ておくれ」
これも事実、魔境付近では強力な魔物が生息し
低ランクの者が見つかれば命は無い
わしが昔1人で向かったのも同じ理由で
低ランクの者が集団で向かえばいい的であるが少数なら姿も隠しやすい
戦うにしても逃げるにしても自由が効きやすいので旅の効率がいいのだ
そしてユウとアイの2人もランクこそ3と森の魔物の中では平均程度だが
その実力はランク4に相当する、2人が揃っていればさらに戦力を増強させる切り札もある
元々スライムは固いし ユウは感知能力に優れ アイは転移魔法や気配遮断魔法も使える
逃げに徹すれば魔境近辺に生息する魔物とはいえど そうやられる事は無いだろう
「それならアイ1人で行った方がいいんじゃない?
俺行っても転移できないし・・・」
「ユウひど~い!1人で行くの恐いから付いてきてよ!」
「お、俺だって恐いよ・・・」
それは恐いじゃろう、大人でも魔境へ近付くのは恐ろしい物だ
じゃが、優しい子供達じゃ
わしらの為を思い向かう決意をしてくれている
ユウもああは言っているがわしらを残して旅立つのが不安なのだろう
恐がりじゃが、強い勇気を持った思いやりの深い子なのじゃ
やはりこんな所で死なせる訳にはいかん
「2人で行くんじゃ、いいな?」
「「は~い!」」
どうやら説得は出来たようじゃ、魔境はここから南へ数百キロも進んだ先にある
まっすぐ向かえば外敵に捕まることもないじゃろう
ここへ戻って来た時 きっと、悲しむじゃろうが
2人なら乗り越え、強く生きていける筈じゃ・・・




