◆山のダンジョンのスライムたち
アオルソイ草原の南西に位置する森は中央大陸の7割の面積を占めており
その深部には数十年、あるいは数百年以上の歴史を持つ強大なダンジョンが存在すると言われている
無数のダンジョンから地上へ排出されたと思われるモンスター達は強力で
深部に存在するダンジョンに辿り着く事はおろか
ある一定の領域へは人類が侵入する事すら至難の業である
それらの領域は畏怖の念を込めて「魔境」と呼ばれている
人類に追われたモンスターは庇護を求め森へ入って来る事が多いが
森はモンスター達にとっても決して楽園では無い
モンスター同士で熾烈な生存競争が日々行われているからだ
森の入り口付近 浅い所でもそれは例外では無く
生存競争に敗れ絶滅する種が後を絶たない
結局森の外も内も変わらず、弱い者は喰われる運命にあるのだ
そして、今まさに絶滅の危機を迎えているスライムの集落があった
巣では無く集落だ。元は人間たちの住んでいた物に手を加えただけの物ではあるが
それは確かに知性を持つ者の仕業であった
そのスライム達は「山のダンジョン」と呼ばれるダンジョンの生き残りで
「山のダンジョン」が滅んだ後 森へ移り住んだ者達である
スライムは雑食性で有機物なら何でも消化吸収し食料にする事ができ
その上 少しの食事で何日も活動可能であり、繁殖率も高い
戦闘力も決して低い訳では無く 攻撃力は低く、動きも鈍いが
防御力は高く魔法以外の手段で倒すことは困難だと言われている
固く、省エネで繁殖率も高い反則の様なモンスターではあるが
放っておくと増え過ぎる為、ダンジョンでは繁殖を制限されている場合が多い
森の入り口付近に集落を構えるそのスライム達も例外では無く
マスターが許可した時以外の繁殖は禁止されていた
マスターが亡くなった今も その命令は有効であり
森での長い生存競争の末、徐々にその数を減らし その数は50体程になっていた
さらに追い打ちをかける様に近年 外敵の圧力は増しており
このままでは絶滅は時間の問題であった
そして今、「最後」になるであろう話し合いが行われていた
「長老、このままでは全滅も時間の問題です!」
「座して死を待つより、撃って出て奴らに一泡吹かせてやりましょう!」
本来スライム族は原始的な生き物であり知能は低いのだが
彼らは数十年の時を生き、山のダンジョンマスターの元で色々な事を学び言葉を話す程に進化していた
それ故にマスターや仲間が散った時の悲しみを
いつまでも忘れる事が出来ないのは皮肉な話ではあるが・・・
知能が高いが故に今回の事に関しても激しい憤りを覚え
血気盛んな者達は撃って出る事を主張する
「俺は死ぬのは怖くねえ!仲間たちやマスターが向こうで待っててくれてるからな・・・」
「そうね、ようやくみんなの元へ逝く事ができる・・・」
スライム達は思い出していた
山のダンジョンでの幸せな日々を、友と、仲間と笑いあった日々を
そして、マスターを、仲間を失った日の事を・・・
それは彼らにとってつらい記憶だったが、同時に大切な思い出でもあった
外敵の手に掛からずとも遠くない将来 生存競争に負け消えゆく身だ
それならば せめて最後に、自分たちの大切なものを奪った奴らに一矢報いたい
皆の決意は固まりつつあった、だがそこで長老が口を挟む
「わしらは奴らへの復讐に心を燃やし散るのはいいだろう
しかし、子供たちを付き合わせるのは忍びない
子供たちだけでも何とか逃がしてやれないものか・・・」
「・・・」
皆無言になる、子供たちとは「初代」が生きていた時に生み出された最後のスライムの子供達である
「初代」はいかなる種族も差別せず、スライムにも広い住処を与え繁殖も許してくれていた
しかし「二代目」はスライムの繁殖を禁じ 我らの事など必要無いかのように振る舞った
危険な前線へ追いやられ、繁殖も禁じられ数は減る一方
もしダンジョンが滅んでいなかったとしても、冒険者との戦いで我らは絶滅していただろう
元々汚い手段で初代を陥れた二代目など主として認めていないのは
山のダンジョンモンスターの総意であった
奴には何の恩義も感じない、むしろ初代の敵として殺意すら抱いていたが
初代は別だ、我らはダンジョンが滅んだ今でもあの方の事を主だと思っている
初代は二代目にマスター権限を譲渡する直前 力の弱いモンスターの元へ
強い力を持つ「子供」を授けた
二代目の性格を考慮し、低ランクの者を守る為の苦肉の策だったのだろう
見た目やランクはその種族の者達と変わらぬが
実際の強さはランク1つ~2つ違うほどの差がある強き子供達だ
いかなる手段を用いてそのような者達を生み出したのかは定かではないが
我らはその子供たちを主の子供のように思い、可愛がってきた
いや、実際に生まれ変わりなのかと思えるほど強く、そして優しい子供達だ・・・
こんな所で死んでいい筈がない・・・




