◆ランクアップ
アオルソイ草原に到着した。見渡す限り緑色の景色が広がる美しい草原だ
ここにはモンスターが存在するが殆どがランク1であり稀にランク2が居る程度
草原の中央には国道が通っており、国道付近は冒険者の警ら隊が常に滞在し、パトロールを行っている為戦闘力の無い一般人でも安心して訪れる事のできる安全な地域である
警ら隊勤務期間中は草原内の宿舎に寝泊まりしなければならず、モンスターの討伐や賊などに対する警戒、危機に陥っている者を救助したりと大変な仕事ではあるが新米の冒険者にとってはただで泊まれる住居に加え、1日3回の食事付き
給料もそこそこ良く、なにより修行にもなるので人気の仕事らしい
むしろここで経験を積みたい者にとっては町との往復の時間が無くなってお得って感じか?
到着してからしばらくの間 俺たち参加者はする事も無く待機
冒険者達がランクアップ作業の準備をするのを見ているだけである。ランクアップ作業は警ら隊宿舎の近くで行われる様だ
参加者は指定の位置で待機、その周囲を数名の冒険者が警護する
そして挑発、あるいはノックバックと呼ばれる敵を移動させる技術を用いてモンスターを指定の位置まで移動させ、さらに麻痺や眠りの魔法を掛けてモンスターの戦闘力を奪う
既にその時点でモンスターはかなり弱っているので後は参加者がトドメを刺すだけである
しかしトドメを刺すだけとは言ってもモンスターとは言え生物を殺す事に対して抵抗はある。だがこのツアーに参加してる時点で皆その事に関しては覚悟しているだろう
人間の生活はある程度モンスターの命によって支えられている
普段喰っている肉や魚などもそうだし、医者が使う薬の材料や今俺が着てる服だってモンスターの素材から出来ている。
今まではそれを受け取る側だったのが供給する側に回るだけの話だ。綺麗事を言うつもりは無い。
冒険者を目指すのならモンスター討伐は避けては通れない試練だ。とは言え、今回倒すのは植物系モンスターだ。出来るだけ罪悪感を覚えない様にとの主催者の配慮だろう
主催者が簡単な進行の説明を行った後、すぐにランクアップ作業は開始された
使用する武器はバットの様な鈍器で、これを使用してモンスターを殴れば終了だ
数年前までは剣を使っていたらしいが空振りして自分の足を斬ったり、持ってる剣がすっぽ抜けて周囲の人間に刺さったりとした事が起きた為鈍器に変更したらしい
事故は起きて無いとか言ってませんでしたかね?
淡々とランクアップ作業は進められ、既にイケメンも3人娘もランクアップは終わったようだ。少し離れた所から残った者の作業を見物している。
見られると緊張するからあまり見ないでほしいな・・・
「次の方どうぞ!」
俺の番が来たようだ・・・
既にモンスターは捕獲されている。バットを握り深呼吸しながら歩き近付いていく
こういうのはあまり迷って引き伸ばさない方がいい、集中しろ・・・
ウェイトトレーニングで高重量を上げる際、1度迷ってしまうと何分も上げられずに固まってしまう事がある。思い切りが大事なんだ
俺はモンスターを殴れる距離まで近付いた後、止まらずバットを振りかぶりモンスターを強打し絶命させた
すると脳内でメッセージが聞こえる。
『進化の条件を満たしました。進化しますか?』
どうやら無事ランクアップしたようだ、当然イエスを選ぶ
ちなみにここでNOにしても保留されるだけで進化出来なくなる訳では無い
とりあえずここで突っ立っていると邪魔になるので無事ランクアップ出来た事を主催者に伝え見物組の方へ行き、ゆっくり能力選択をする事にした
見ると見物組の中にはまだうんうん唸って悩んでる者が大勢居る様だ。まあ気持ちは分かる、一生の選択になり得るしな
俺も早速選択することにする
『強化する能力を選び、ポイントを割り振ってください』
・STR(筋力.重い物を上げたりする力その最大値。攻撃力に関係する)
・VIT(耐久力.体の頑丈さを示す値.HP、防御力、肉体系状態異常に対する抵抗力に関係する)
・STA(スタミナ.持久力を示す値. HP、回復力、多段系スキルの最大回数に関係する)
・AGL(敏捷性.最大速度を示す値.命中、回避、あらゆる動作の速度に関係する)
・INT(知力.演算能力の高さを示す値.魔法の威力や発動速度に関係する)
・DEX(器用さ.高いほど精密な動作が可能で 命中やクリティカル率、技術習得速度に関係する)
・MID(精神力.精神の強靭さ.精神系状態異常に対する抵抗力、魔法防御、MPに関係する)
・LUK(運.色々なことに関係する)
・残りポイント3
この能力強化は単純にステータスが上がるだけでなくいわゆる資質、レベルアップの際の上昇値やトレーニングでの伸びやすさなどに影響してくる
例え1ポイントであっても後の人生に与える効果は絶大だろう
ここは勿論STR、と行きたい所だがAGLに3ポイント全振りしようと思う
俺としてはSTRに対するこだわりはあるが、これはトレーニングでも上げられるのだ。VITやSTA、MIDなども同様である
むしろそれらのステータスはこういう所では無くトレーニングで上げていきたい
つまらないプライド、こだわりかもしれないが俺にとっては大事な事だと思っている
もし神様か何かがチートを授けてくれると言ってきても俺は断ると思う
そんなズルで力を得ても意味は無いし、そんな力を使って誰かに勝った所でむしろ後悔するだろう
力というのは自分で得てなんぼなのだ
AGLを選んだ理由としては、俺は物理系前衛職を極めて行きたいと思っているのでまずINTは候補から外れる
DEXも弓等の後衛物理職を目指すなら考えるがこれも候補外、残る候補はAGLかLUKとなる
LUKは意外と重要な要素らしいのだが俺はこういう目に見えない部分はいまいち取りたいとは思わない。消去法でAGLとなる
AGL、速さというのはトレーニングでは殆ど上げる事は出来ず、先天的な才能による影響が大きいとされている
モンスターと戦う際も重要な要素ではあるだろう。ということでAGLを3ポイント強化する・・・完了した様だ。
『習得するスキルを1つ選択してください』
次はスキル選択、これはステータスとは違い人それぞれ覚えられるものは違う
その人の個性、内面に大きく影響されると言われている。俺の場合はこんな感じだ
・察知(周囲の気配を察知する能力が上がる。不意打ちを受けにくくなる)
・ステルス(周囲の風景と同化し、見つかりにくくなる。)
・イーグルアイ(空からの視点で周囲を見る事が出来る。)
・無音(音を立てずに行動することが出来る)
・山師の直感(貴重な鉱石のある位置が分かる様になる。範囲は数百メートル程度)
・きこりの直感(貴重な植物の生えている位置が分かる様になる。範囲数百メートル程度)
・チャクラ(スタミナを消費しHPとMPを回復する。効果は込めたスタミナによる)
・HP自動回復
・スタミナ自動回復
・気孔弾(スタミナを消費し気弾を飛ばす。威力は込めたスタミナによる)
・拳(拳の威力が上昇する。効果大)
・蹴り(蹴りの威力が上昇する。効果大)
・投げ(投げの威力が上昇する。効果大)
・スプリント(数秒間最大速度が上昇する。効果小)
・バーサク(狂戦士化して戦闘力を上げる。効果大 効果時間内は意識が飛ぶ)
・チャージ(力を溜めて次の攻撃の威力を上げる。溜める時間により攻撃力の増加量は変化する)
・ブラッドウェポン(与えたダメージを吸収して自身のHPかスタミナに変える。効果小)
・ダブルアタック(稀に攻撃の効果が2度発動する。)
・ペイントレード(受けたダメージを攻撃力に変換する)
いや、多くねーか?
ま、まあスキルは自力で習得できるものも多いみたいだし、そこまで悩まなくてもいいか?
とりあえず自動回復系はダメだな。トレーニングでの追い込みの邪魔になる、オンオフ切り替え出来れば取るんだが詳細が分からんしな
そういう細かい情報は鑑定ではなく『解析』というスキルが無いと見る事は出来ない
パーティを組んで行動する事を考えれば遠距離攻撃や自己回復能力もいらないかな? それらはそれが得意な奴らに任せればいい
となると俺が取るべきは近接用の攻撃スキルか
ということで『拳』を選択した。




