◆ゴリアテ
しばらく人間世界の話になります。
なかなかまとまらず思ったより長くなってしまいました
人間世界の話は頭に◆をつけようと思います
男は生まれつき体が小さく、とても力が弱かった
本人もその事を気にしていて必死に体を鍛えた
しかし、スタミナはついても、やはり力は弱いままだった
男が中等部3年の時、クラスのレクリエーションで腕相撲を行ったがクラスの男子20人の中に男が勝てる相手は1人も居なかった
幼い頃から必死に鍛えているのに素人より力が弱かったのだ
クラスの男子は男をバカにした
「お前体力はあるけどパワー関係は向いてないよ」
「そうそう! 体壊すだけだからやめときなよ」
「人には向き不向きがあると思うよ?」
「もうパワー系は捨ててさ、持久力を活かした方向へ行けばいいじゃん!」
だが男は頑固な性格だったし、己の努力が無駄だとは思いたくなかった
今はダメでも鍛錬を続けていればきっと力も付いてくるだろうと思っていた。根拠は無かったが・・・
「おいお前、こいつと腕相撲やってみろよ!」
まだバカにし足りないのか今度は女子の、恐らく一番弱かった者が連れて来られた。クラス最弱決定戦という訳だ
両者が位置につき、審判がスタートの合図をする
「レディー、ゴー!」
勝負は一瞬でついた
男は空気を読まずに女子相手だったが全力全開で勝利した
流石に負けたくは無かったと言うのもある
一応の面目は保てたと思ったのだが、その後その女子に言われた言葉はショックなものだった
「まさかゴリアテ君に負けるとは思わなかったよ、凹むわ~」
「・・・」
ゴリアテはショックを受けた
確かに自分は貧弱で力は弱いだろう
だが、俺が必死に努力し体を鍛えているのをみんな知っているはずだ
それなのに、そこまで俺の事をバカにするのか?
お前らなんて、たまたま強く生まれて来ただけの癖に!
努力の量など関係ない。結果が出せない者、実力の低い者に対して世の中は厳しいのだと言う事をゴリアテは学んだ
この世界はゴリアテが思っていた程、綺麗なものでは無かったのだ。
そしてこの出来事は元々持っていた己の弱さに対する劣等感を何倍にも大きくするものだった
それから数か月後の事だった
高等部受験が終わり、なんとか高等部へ進む事が出来た
親は高等部に入ったらバイトをしていいよと言ってくれたので少しフライング気味に中等部卒業前からバイトを始める事にした
前々から欲しいトレーニング器具があったのだ。体も小さいのでいっぱい食べてでかくなりたい。
ちなみに中等部3年の冬の時点で身長は140cm、体重は32キロしか無かった
鍛える為にはお金も必要なのだ。だが、そこまで親に甘える訳にもいかない。家は決して裕福とは言えないからだ
そういったバイトを始めた動機を休憩時間中にバイトの先輩に話した
話した後、少し後悔した。また、バカにされるだろうなと・・・
お前みたいなチビで痩せが鍛えても無駄だろなんて聞きなれたセリフだ
だが、その先輩は俺の事をバカにしたりはしなかった
「体を鍛えるのが好きなら俺の通ってる道場来るか? 学生だし半額いや、初任給出るまでは俺がお金出すからさ」
「え?」
「嫌か?」
「い、いえ!行ってみたい・・・です」
「そうか、じゃあ今日仕事終わったら一緒に行くか?」
「は、はい! お願いします!」
そう言われ仕事が終わった後、先輩に連れられ道場へやってきた。恐る恐る道場の扉を開け中へ入る。
道場へ通うのは考えた事はあったが情けない話、1人で道場へ入るのは恐かった。あまり気が大きい方では無いのだ
だが、もっと早く来るべきだったと後悔した
何故ならここの人達は俺の事を見下すような態度を取らないのだ
それどころか親身になって色々教えてくれる
ここは俺が今まで見て来た『汚い世界』とは違う世界の様だ・・・
「ここの人達は俺の事、バカにしないんですね・・・」
自然と言葉が口から出ていた。返事を求めた言葉では無かったが、先輩はそれを聞いて何か思い当たる事があるのか言葉を返してくれた
「じゃあお前は自分より力の無い奴が必死に体を鍛えてるのを見たらバカにするのか?」
ちょっとムカッとした! 俺をあんな『汚れた』奴らと一緒にしないで欲しい!
「そんな訳ないでしょう!」
「だろ? まあそういう事だよ」
先輩は続ける
「よく筋トレしてると背が伸びないなんて言うだろ? そんなのは迷信だ、と言いたいところだけど実際道場で鍛えてる人は背が低い人が多いだろ?」
そう言われ周りを見てみると確かに平均身長より低めの人が多い様に思える
「だがそれは逆なんだよ」
「逆?」
「ああ、筋トレしてるから背が低いんじゃなくて元々体が小さくて、力が弱かった。そういう劣等感を持ってるからみんな体を鍛えているんだ
最初からデカくて力もあればこんなしんどい事しないだろって話だよ!」
「・・・」
「だからチビッこくて貧弱な奴が居ても笑ったりしねーよ! だってそれは、過去の自分の姿にそっくりなんだからな!」
「・・・」
「ましてや、それが必死に頑張ってる奴ならなおさらだ」
ゴリアテは感銘を受けた。人生の目標を見つけた様な気がした。俺もこの人達の様になりたい、と・・・
いつかは自分も誰かに目標としてもらえる日が来るのだろうか?
俺が頑張る事で、強くなる事で、誰かの励みになるのなら、「弱者」の励みになるのなら、俺の人生はそれだけでいい。他には何もいらない
この男が後に歴史上10人も存在しない『超人』となる事をこの時点で想像した者は誰もいないだろう




