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死の先をゆく者達

ハイピクシー視点の話です

 マスターと別れてコアルーム前まで戻って来た。ゴブ太も一緒

 マスターはノエルさんと話をしながらダンジョンをゆっくり散策してるからここまで帰ってくるのは遅くなると思う

 私はゴブ太と話したい事があったからゴブ太に声をかけて早足でここまで帰って来た。ゴブ太も何か、私に話したい事があるみたい


 ゴブ太は無口で必要な事以外あまり喋らない

 でもそれで空気が重くなる訳でもなくて、うまく言えないけど心地いい沈黙っていうか傍に居るとホッとする感じがするんだよね


 ゴブ太の方を見ると何か私に話しかけようとしてる

 けれど、切り出し方が分からないのか途中で言葉を引っ込めてしまう

 ああ! じれったいな~! 私から話しかけようとしたのだけど喋るのが得意でない筈のゴブ太が頑張ってくれてるんだからここは我慢するべきだと思う。じっと言葉が掛かるのを待つ。



・・・30秒ほど待った所でようやくゴブ太の声が聞こえた


「お、お前、さっきの話聞いてどう思う?」

「さっきのって、スキルの話?」

「そうだ。」


 どう思う? と聞かれても色々なスキルがあるんだね、としか思わない。

 戦闘力に関しては他に比べてマスターは劣っているのかもしれない

 だけど戦闘力が低くても、私にとって最高はこのダンジョンのマスターだ

 私がどう返そうかと悩んでいるとゴブ太は続きを話し出した。


「俺たちは、きっと・・・他のダンジョンのモンスターより弱い」

「そ、それは生まれたばかりだし! 仕方無いよ!」

「違う!」


 違う?・・・そうか、先天性スキルの話か


「資質で俺たちは劣っている。スキルの効力差分、劣っている」

「・・・」


「兄貴は少し、他のマスターの事うらやましいって思ってたと思う。そんな顔をしていた」


 うまく返す言葉が見つからない。無口はどっちだって話だよ!


「俺は弱い自分が許せない! 兄貴にそんな風に思わせる弱い俺が許せない!」


 それは違うって言ってあげたい!でも、私のしようとしていた話もそういう話なのだ。ここで否定はできない


「だから俺は強くなりたいと思う。そんなスキルの力、才能なんかに負けないように! あれが俺の弟分だぜ、すげーだろ! って

兄貴が、誰に対しても自慢出来る様なそんな強い男に・・・俺はなりたいと思う」


 少しの静寂の後、ゴブ太は言葉を付け加える


「だからよかったら、協力してくれないか? 回復魔法のあるなしで訓練の効率は違ってくる」

「・・・」


 ゴブ太はいつになく饒舌だ、きっと先天性スキルの話を聞く以前から強くなりたいと考えていたんだろう。『心当たり』はある



「返事をする前に1つ聞かせて。ゴブ太、あなた『死の先をゆく者』の称号を持ってる?」


「え? あ、ああ・・・俺は、兄貴と会うのは今回・・が初めてじゃないからな」


「そう、やっぱりね・・・私も、持ってるのよ。その称号・・・もっとも私は『1回目』の記憶はほとんど無いけどね」


「そうか、あの時の100体の中に居たんだな」

「うん・・・」


 そう、私はツンツン頭に殺されて一回目は終わった。


「正直また・・・冒険者に殺されて終わりかと思ってた。私たちに時間を稼がせて、このマスターは転移で逃げるんだろうなんて汚いことも考えてた」


 いや、それが普通なのだ。私たちはマスターが生き残るための駒。そう考えていた、あの時までは・・・


「でもマスター、私たちを庇ったじゃない?」


「・・ああ」


「その時 思ったんだ。マスターは私たちの事を大切に思ってくれてる。だから私も! マスターの事を大切にしようって! 死なせたくないって! ホントに、そう思ったの!」


「ああ」


「それに、私たちが死ねばきっとあの人は悲しむよ! だから強くならないといけない! マスターを悲しませない為にも! あの人を守る為にも!」


「そうだな」


 ゴブ太は返事は素っ気ないけど、ちゃんと話を聞いてくれている。気持ちは同じだと伝わってくる・・・

 嬉しい! 上辺だけの関係じゃなく『魂が繋がっている』仲間が居る

 こんな嬉しい事があるだろうか? 協力してくれないか、ですって? 最初から答えは決まってる!


「勿論協力するよ! 共に鍛え、強くなりましょう!」

「ああ!ありがとう・・・」


 ゴブ太は嬉しそうだ。私も、嬉しいよ!



 気持ちが熱い内に早速トレーニングに行こうかと思っていると横から声が飛んできた


「あの~、2人だけで格好付けるのはやめてくれませんか?」

「そうだぜ! 俺らだって気持ちは同じだっつーの!」


 ランク2のゴブリンとピクシー達だ。ゴブ太が返事を返す


「いや、訓練は楽しい事ばかりではない。兄貴はお前たちを俺の下に付けるとは言ったがそれは有事の際に意思を統一させる為に頭が必要なだけであって、俺はお前らを対等の仲間だと思っている。もし俺に気を使っての事ならやめておいてくれ」


 ゴブリンとピクシー達はそれを聞いてお互いの顔を見て、そして笑った。

 その後、彼らが放った言葉を私は一生忘れる事はないだろう。


「・・・実は俺らも死の先をゆく者なんですよ」

「え?」


 一瞬、何を言ってるのか分からなかった・・・


「不思議ッスよね~? 俺ら生まれたばかりなのに・・・」

「そうだよね~! でも、みんなが同じ夢を見たって訳でもないと思うよ!」

「そうだな、この称号が何よりの証拠だ」


 え? 2周目なの? でも、あの時ピクシーは私しか居なかったはず・・・まさか!


「召喚される時にね、声が聞こえたんですよ」

「うん!」

「俺も聞こえた・・・」


「私たちの残ってる力、少しだけどあなたたちに託すって!」

「うん、マスターを守ってって・・・」

「それに・・・」

「ああ・・・」


「付き合いは短かったけど、俺たちの仲間を」

「あの2人の力になってあげてって・・・」

「そう言ってた・・・」


「うそ・・・」


 涙が止まらなかった・・・

 あんな短い付き合いで、しかも私は彼らを、彼女たちを守ってあげられなかったそれなのに! それでも彼らは、私の事を仲間と呼んでくれるのだ・・・


「俺は、あの人達の事、格好いいと思う。これから死ぬというのに、自分の事では無く仲間を事を想い死んでいく」


「ああ、俺も死ぬときはあんな風にありたいと、そう思う」

「俺もだ」

「私も!」

「俺もだ!」

「あの人達の願い! 俺たちで叶えてやろうぜ!」

「おお!」

「勿論よ!」

「おおお!」

「おおおおおお!」

「うおおおおおおお!」


 ゴブリン達はともかく、ピクシー達は普段は大人しく大声を出したりするのは見た事がない。でも、今はみんな大声を出して叫んでいる!

 叫ばずにはいられないのだろう! 叫ばずにはいられないのだろう!




・・・どの位叫んでいただろう、声が収まるとゴブリンとピクシー達は再び顔を見合わせ「せ~の!」 っと息を合わせてこう言った


「我ら19人の『魂繋がりし者達』! 偉大なる初代の意思を継ぎ! マスターの守護を! そして、2人の友と共に生涯戦う事をここに誓う!」


「まっそんな訳で、勿論訓練もついていきますよ!」


 ゴブ太はそれを聞いて泣きながら笑っていた・・・


「馬鹿、21人だろ?なあ?」

「・・ん・・・」


 ゴブ太が相槌を求めてくるが涙でまともに返事が出来ない・・・

 人は死んでも、それで終わりではないんだ。そう、信じてもいいんだ・・・

 そう思わせてくれる奇跡がここにあるんだから・・・





「何泣いてるんですか?」

「いや、だってあいつら・・・」


 散策を終えて帰ってくると あいつらが集まって話をしていた

 なんとなく出るタイミングを失って盗み聞きしてしまった


「俺、あいつらに何もしてやれなかったのに・・・」


 そう、あの19人は俺の考えが甘かったせいで犠牲になってしまった。恨まれこそすれ、慕われる覚えは無い・・・

 そんな事を思っているとノエルは俺の顔を見て言う


「きっと、死んだ後も見ていてくれたんでしょう」


 そんな事があり得るか? と言いたい所だが実際見てしまったしな・・・

 もし、まだ見てくれているというのなら情けない所は見せられない。俺は涙を拭い、先ほどの発言を撤回する。


「さっきさ、コンティニュー選んで後悔してるって言ったけどあれ嘘だからな!」

「ほ~」


 ノエルはジト目で俺を見る。むぐぐ・・・だが、負けてはならない。


「あいつらはもう既に現時点で自慢の仲間たちだ! きっと、コンティニューが無ければ出会う事はなかっただろう! 強くなんてなくてもいい! 俺は、あいつらと出会わせてくれたこの力を! あいつらを守る為のこの力を! 選んで良かったと心から思う。」




































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― 新着の感想 ―
[良い点] え、、泣いた、、、(割とガチで)
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