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エアとグルキン

 ダンマス達が出発してから数分後、入り口2号からヒョコっと顔を出したのはエアだった。


 エアはグルキンの口車に乗り急いで旅支度を整えここにやって来たのだが、急な事だったのでまだ心の整理はついておらず冷静では無い様だ。

 今も落ち着き無く周りを見渡しソワソワしている。


「実は私も外へ出るの初めてなんですよ。やっぱり少し緊張しますね。あ、グルキンさん。この道どっちへ行けばいいんですか?」


 エアから少し遅れてダンジョンから出て来たのはグールの王グルキンだ。

 グルキンはノエルから撮影をお願いされたもののその任務に対しそこまで積極的ではなかった。

 だからマスターを追いたくてソワソワしているエアとは対照的にその歩みはゆっくりとした物だった。


「ああ、この道は南へ・・・って!」


 エアはそこまで聞くとグルキンの言葉を最後まで聞かずに猛ダッシュで南へと駆け出した。

 その素早過ぎる行動の理由としては早くマスターに追い付きたいのと、初めて外へ出てテンション上がっているのと両方だろう。


「ちょっ、ちょっとエアちゃん! ストップストップ! 冗談だって! 北! マスターが向かったのは北の道だから!」


 グルキンは慌てて眷属・・を飛ばしエアの足を止めさせる。

 何とか間に合ったがダンジョンを出て早々はぐれる所だったのだ。これはこっち・・・も目が離せないなと内心冷や汗ものである。


「もう! グルキンさん! どうしてそんな嘘付くんですか!」


 エアはダッシュで来た道を戻りグルキンに抗議する。プンプンと怒るその姿はとても可愛らしい物だ。

 グルキンは孫が居ればこんな感じなのかね? と少し思った。


 その時、エアの問いに対し反応が面白いから・・・とつい口から出そうになったグルキンだが流石に嫌われると思ったのか言葉を飲み込む。


「嘘も何もまだ話の途中だったろ? 今のはいきなり駆け出したエアちゃんも悪いと思うぜ? ていうか遠出するなら行き先の地理くらい覚えておこうぜ」


「む、むう・・・そ、それはこっちも悪かったですけど・・・そ、それより! さっきの何ですか? ハエが飛んで来て喋ってましたけど」


 これは分が悪いと思ったのか話題を変えようとするエアの問いに対しグルキンは己の手札を明かすべきか一瞬迷う。

 モンスターにとって手札を明かす行為は己の首を絞める事にも繋がり兼ねないからだ。


 しかしそれでも結局話す事にしたのはモンスターに生まれ変わって以降、初めて出来たグール以外の仲間を愛おしく思っていたからかもしれない。



「ああ、そいつは俺の眷属。高位のグールは死体や人形に生命力を注ぐ事で己の眷属を作り出す事が出来るのよ。

 そんで眷属は俺の能力の一部を使用する事も出来るからさっきはハエの眷属に俺の言葉を伝えてもらったって訳」


 説明の後、グルキンの指にハエが一匹止まる。肩にも。さらに上空を見ると何百匹というハエが飛んでいる。

 それだけでは無い。足元に居るありの群れも、遥か遠方の木の枝に止まりこちらを見ている鳥も、草むらに潜んでいる獣の様な気配からも自然のモノではない雰囲気を感じる。


 エアはその事実に戦慄する。

 これら全てが眷属なのだとしたら目の前にいるこの男は何という巨大な存在なのだろうか。

 普段はおちゃらけているこの男も確かに一種族を統べる長であり、グール族最強の王なのだと。


「こ、これに加えてライフドレインも使えるんですよね? それに少々やられても死ぬことの無い不死身の身体・・・グールって何でもアリじゃ無いですか?」


 己の能力を素直にべた褒めしてくるエアに対しグルキンも悪い気はしない。しかし、経験上己の能力の限界を知っているグルキンは調子に乗る事は無く首を横に振る。


「そうでも無いんだぜ?

 眷属は定期的に生命力を入れてやらないといけねェから分不相応な数は従えられねえし、あんま強い奴になると眷属化した時に能力が一部欠如しちまうし万能じゃねえのよ。

 まあ他の種族に比べて多芸でしぶといってのは確かにあるかもしれねェけどな。それは逆に言うとそうで無けりゃ生きて来れなかったとも言えるんだ。まあ、もう死んでるけどな! あ、今の笑うトコね!」


「いや、笑えませんよ・・・」


「そうか? グヒヒ!」 とグルキンは一人で笑い話を続ける。


「俺達グールはな、ライフドレインのせいでモンスターからも人間からも目の敵にされる。

 ライフドレインをコントロール出来る様になるまでは周囲に存在する奴らは問答無用で襲い掛かって来る。周りは全て敵だと言ってもいい。

 少なくとも俺はグールの仲間と出会うまではそう思って生きて来た。ずっと・・・一人で生きて来た。


 ・・・だが、その敵を全て相手に出来る程俺たちは強くェ。種族的に身体能力は高くねェし、ライフドレインも通常の使い方だと同ランクには効かねェ。

 だから敵の強さを見極め、逃げるべき敵からは迅速に逃げる必要があるし、弱いままじゃ生きて行けねェから狩れる敵はあらゆる手段を用いて全て狩る必要がある。


 そうやってサバイバルを続けていく内に自然とステータスでは表せない強さ、しぶとさを身に付けて行く訳よ。

 長年生きて来たグールってのはそういう強さを例外なく身に付けてんだ。まあ、もう死んでんだけどな! グヒヒ!」


「・・・」


「ま、そんな訳で俺もしぶとくはあるけどエアちゃんが思ってる程偉大な存在では無い訳よ。むしろ庶民派?

 たぶん長連中の中じゃ俺が一番弱いと思うし、そんなかしこまらずに普通に接してくれていいんだぜ?」


 自分を小さく弱い男だと卑下するグルキン。しかしエアは微笑を浮かべそれを否定する。


「いえ、やはりあなたは尊敬に値する男ですよ。今の話を聞いて余計にそう思いました。

 むしろあなたがたまたま強く生まれただけの人ならこんな思いは抱かなかったと思います。

 地獄を潜り抜けてここまで辿り着いたんですよね? その過程で人を信用出来なくなった事もあった筈です!

 でも、それなのにあれだけ多くの仲間に慕われている。信頼関係を築いている。それは凄い事だと思います!

 そして、そんなあなたに仲間だと認めてもらっている事を私は本当に嬉しく思います!」


 そう言ってふふっと笑い北への道を歩き始めるエア。

 グルキンはそれを聞いて数瞬固まった後、指で頬をポリポリと掻きその後を追い掛けた。

ゴブ太と警備員は空気を読んでエア達の事をダンマスにチクったりはしない様です。

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