◆響vs異世界勇者 その2
「それじゃあ私たちはもう行くね!」
「あ・・・」
俺たちと響さん達は勝負の後しばらく談笑していたが会話が途切れたタイミングで響さんは腰を上げた。どうやら異世界勇者の元へ向かうらしい。
だが、ちょっと待ってくれ! 確かに勝負に勝てばここを通すとは言ったし、響さん達の強さもよく分かったつもりだ。
でも、それでも異世界勇者と戦うのはまずいんだ! 勇者の強さはダメージ無効だけじゃねーんだよ!
「ちょ、ちょっと待って・・・うぐっ!」
「無理はするな。まだダメージが残っているだろう」
「心配しないで平気だよ! すぐ戻るから!」
心配する俺に対し響さんは笑顔で手を振って応えてくれる。その笑顔はとても眩しい。ああ、でも待ってくれ! 行っちゃダメなんだって!
追い掛けようとするが腹が痛み、足にもうまく力が入らない。俺が足を止めている間にやがて響さん達の姿は見えなくなった。
くそっ! しっかりフラグ立てて行きやがった! それはこの状況で言っちゃダメなセリフだろ!
「くっ! 正! 追い掛けるぞ!」
「うん! 分かってる!」
「おい、無理はするなと言ってるだろう。はあ、全く仕方が無い奴らだな」
腹を押さえながらも追い掛ける俺を正が支えてくれる。春花さんもこうは言ってるが気持ちを汲んでくれているのか俺たちを止める気は無い様だ。
こんな時に何だが、2人の善意に若干の幸せを感じ頬を緩ませてしまう。
◇
「うひょ! よく見りゃいい女じゃねーの! こりゃあ殺すには惜しすぎるなァ・・・おい! お前ら! 分かってんだろうな?」
「分かってるよ! こんな可愛い子をただ殺す訳無いだろ? ふふふ・・・子猫ちゃん、安心してね。お兄ちゃんたちがじっくり可愛がってあげるからね・・・」
「ぐへへ・・・」
「マジキモイ! 死ね! バカ!」
「うひょー! 超可愛いんですけど! もっと言って! もっと言って!」
「ぬぐぐ・・・」
俺たちが追い付いた時には響さんは既に異世界勇者3人と遭遇し囲まれていた。
だよな! 超可愛いよな~! ムカつく奴らだがそこだけは同意するぜ。口喧嘩ではあいつらの圧勝の様だ。
それにしても間に合わなかったか。まだ戦闘には入っていない様だが遭遇してしまった以上、もう逃げる事は難しいだろう。
最悪俺と正が間に入って逃げる時間を稼げば・・・とか考えていると響さんと目が合った。
「ああ、やっぱり剛くん来ちゃったか・・・ごめんね、剛くん」
んん? 何を謝ってんだ?
「さっきはああ言ったけどさ。私、こいつらと話し合いする気はさらさら無かったんだよ。最初から殺しに来たんだ!」
「ウヒヒ! 言うねェ! 子猫ちゃん」
「殺しにって・・・ふふふ、誰かに頼まれたのかい?」
「ぐへへ・・・」
「もう! うっさいなー! 私は今剛くんと話してるの! 会話に入って来んな!」
「ウヒョヒョ! もう、ホント可愛いなあ!」
「そんなに怒っちゃ嫌だよ~! ふふ、お兄ちゃんたちがすぐ気持ちよくしてあげるからね? 機嫌直しちゃお?」
「ぐへへ・・・」
「ホントキモイ! 地獄に落ちろ!」
「「うひょー!」」「ぐへへ・・・」
ダメだ、言い返しても相手を喜ばせるだけだ。ホント口喧嘩弱いなあの人。絶望的に可愛すぎるんだよ・・・
3人と響さんはしばらく言い争っていたが、このままでは埒が明かないと思ったのか、あるいは口喧嘩では勝てないと悟ったのか響さんから動いた。
「とにかく! 確認も済んだしあんた達は黒で確定! よって今から処罰します! 行くよ!」
「お? ホントにやる気か?」
「しょうがないなぁ。お兄ちゃんが相手してあげるよ。掛かっておいで・・・はああ! 百倍コピー!」
「ぐへへ・・・」
くそっ! 百倍コピーを使いやがった!
ダメだ! 異世界勇者が油断して攻撃を受けてくれれば響さんにも勝ち目はあったが、こうなっては万が一にも勝ち目はない!
百倍コピーは相手の能力を全てコピーし、さらに百倍の性能で使う事の出来るスキルだ。響さんがいかに強くともこれでは・・・
「ふふふ、このスキルはね、その名の通り君の能力を百倍にして・・・って! なんじゃこりゃあ!」
百倍コピーを使用した勇者はわなわなと震え出した。なんだ? どうした?
「ふふ、フハハハハハ! 凄い! 凄いよ君は! ・・・ふむ、響ちゃんって言うんだね。凄いよ君は! 響ちゃん! フハハハハハ!」
百倍コピーは名前も含めコピーした相手の詳細を知る事が出来る。それを見て何が可笑しいのか異世界勇者は笑いが止まらない様だ。
「ホントに凄い! なんだこの力! 今まで出会った勇者も! 魔王も! 神も! この力に比べればゴミに等しい! 僕たち異世界勇者でさえ初手で百倍コピーを使わなければ間違いなく負けていただろう!
でも、残念だったねェ! 今僕は君の百倍の力を、究極の力を手に入れ・・・たわぶ!!」
「へ?」「ぐへ?」
「バーカ!」
百倍コピーを使用した異世界勇者は突然爆ぜた。もしここにベジー〇が居れば「へっ、汚ねェ花火だ」とでも言ったかもしれないがあまりの出来事にみんな言葉を失ってしまっている。
長年無双を続けてきた異世界勇者の一人はあっさりと死んだのだ。




