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◆異世界勇者と土鏡響

「なるほど、君たちの事情は分かった。

 そういう事なら君たちがこの世界で暮らしていく為に協力する事はやぶさかでは無いよ。勿論、君たちが良ければの話だが」


 3人の女と出会った後、俺たちはお互いの自己紹介も兼ねて自分たちの今までをこれからどうしたいのかを軽く説明した。

 その結果、3人は俺達に協力してくれるという話になったのだ。ホント助かる。無計画で飛び出して来ちまったからな。


「是非お願いしたいです! ね? つよしもいいよね?」

「あ、ああ・・・」


 ただしはいつになく積極的だ。正は何事にも動じない女に対しても態度は変わらない冷静な男だ。

 だが、今のこいつは誰が見ても分かるほどに冷静さを失い、この春花という女に入れ込んでいる。

 長い付き合いだがこんなにのぼせ上がったこいつを見るのは初めてだ。こいつ、さては惚れたな?


「そうか、では君たちは私に付いて来てくれ。身分証とあと、住む場所も必要だな。しばらくは拘束される事になるだろうがそこは我慢してくれると助かるよ」


「と、とんでもないです! こっちこそ助かります! ありがとうございます!」


 やっぱやたらテンション高いなこいつ。

 だが俺も人の事は言えない。さっきからチラチラとあの響という女を目で追わずにはいられないからだ。

 しかし直視出来ない。チラ見するのが精一杯だ、自分でも情けない。ウブな草食系男子か俺は!


 俺は今までそういったナヨナヨした草食系男子をバカにしていたが「ごめん、俺が悪かった」と心の中で謝っておく。お前らの気持ちはよく分かったよ・・・

 俺は今まで女とは何度も付き合って来た。だが、こんなのは初めてだ・・・

 本当に惚れちまうと臆病になってしまう物なんだな。今の俺はきっと誰が見ても分かるほどキョドっている事だろう。


 はあ、本当に情けねえ。正と一緒で実は俺もかなりテンション上がっちまってるんだよな。

 こうして付いて行く事であの響という女と縁が切れずに済んだ事に喜びを感じずにはいられないからだ。

 はあ、ホントやべェ・・・


「じゃあ2人は春花に任せてもいいかな? 後の事は私と七海でやっとくからさ」

「そうか? ではそっちは任せるが一応気を付けろよ」


「大丈夫だよ! 嫌な予感はしないし。ね? 七海」

「うん、こっちは任せて」


「あれ? 響さんと七海さんは一緒に行かないんですか?」


 どうやら3人はこの後別れて行動する様だ。あの2人はどこに行くんだろう? という疑問は緊張してロクに喋れない俺に代わって正が聞いてくれた。


「あ、ああ・・・それはだな」

「?」

「・・・」


 しかし何故か言い淀む春花さん。なんだ?

 こら! 正! 見惚れてボーっとするんじゃない! 確かに困った顔の春花さんもいいけどよ。


「春花、やっぱり話しておくべきじゃないかな? 決別したとは言っても相手は2人の元クラスメイトなんだしさ」


「ああ、そうだな。2人ともすまない。これから響と七海は戦いに行くんだ。君たちの元クラスメイト、異世界勇者とな」

「はい?」


「ちょっとこの先に異世界勇者が現れたって情報が入ってさ。立場上放置も出来ないし、これから会いに行く所だったんだよ!」


「勿論話し合いで済むのならそれでいいんだが、恐らくそうはならないと思う。

 聞けばエルフの住んでいた街は奴らに滅ぼされたらしいしな。場合によってはその場で始末する事になるだろう。

 2人には悪いが私たちもこの街の秩序を乱す者に対して容赦する訳にはいかないんだよ」


「「・・・」」


 絶句する俺と正。

 いや、あんな奴らどうなろうが知った事じゃ無いんだが響さん達が会いに行くってのはどう考えてもマズい! あいつらがこんないい女を前にして何もしない筈が無い。きっと死ぬより酷い辱めを受ける筈だ。


「わ、悪いがそれは許可できない。あんたらは多分かなり強いんだろう? だけどダメなんだ。勇者の持つチートってのはそんなのを超越した所に存在するんだよ」


「そ、そうだね。そういう事なら行かせる訳にはいかないよ」


 響さんと七海さんの進路を塞ぐように立ち塞がる俺と正。

 それを見て響さんは困った様な顔をする。やっぱピンと来てないよなこの顔は・・・


「俺たちは異世界勇者としてそれなりにキャリアがある。

 最初に転移した世界ではまだ力が成熟していなかった事もあって苦戦もしたが、2つ目の世界でダメージ無効を覚えてからは苦戦どころか傷1つ負った事は無い。物理も魔法も全て無効化しちまうからだ。

 色んな世界で魔王や勇者、神って呼ばれる奴らも倒して来た! それでも傷1つ負わないんだ!

 今ではどんな相手だってワンパンで倒せる。拘束や追放も超転移があるから効かねェ! 時間さえ止められる! それが異世界勇者って物なんだ!

 あんたらに勝ち目は一つもねェ! 行かせらんねーよ!」


 これだけ言えば分かってもらえるだろうと思った。

 だけどやはり響さんは困ったような顔をしている。まるで子供の拙い理論を聞いているかのような、そんな顔だ。

 くっ! この女、これだけ言っても分かんねーのか?


「まず私たちの心配をしてくれてる事に対しては素直に嬉しいよ。ありがとね。

 でも心配はいらないよ。剛くんの言葉を借りるけど私たちもそれなりにキャリアは積んであるからね。異世界勇者も何度もやっつけてるんだよ! だから心配しないで平気だよ!」


 なるほど、その妙な自信は実際に異世界勇者を倒した事のある経験からか。

 だが、分かってねェ・・・俺たちはそこらの異世界勇者とは違うんだよ。

 今までの世界でもデカい口叩く奴らは何人も居た。でも誰とやっても同じなんだ。結果は分かり切っているんだ。なんで分かってくれねーんだ!


 その後も「平気だよ!」「ダメだ!」の平行線の話し合いは続いた。

 このまま行けばやがて根負けして諦めてくれるかなと思っていた矢先、響さんがキレた。


「もう! 分かった! そこまで言うんなら剛くん、私と勝負してみようか? 君に負ける様なら私も行くのは諦めるよ! その代わり、私が勝ったらそこを通してもらうからね! それでどう?」


 むう、そう来たか。

 それにしても、気の強そうな顔も、怒った顔もホント可愛いな。もう反則だろこれ・・・



 はっ! いかんいかん! あまりの可愛さについ精神がトリップしていたぜ・・・恐るべき響さん。

 しかしちょっと予定と違うがこれはいい展開だ。

 ここで力の差を思い知れば変な自信も無くなり諦めるだろう。もうチートは使わないと心に決めていたが、惚れた女を守る為だ! 仕方無いよな!


「いいぜ! その勝負、受けた!」


 こうして異世界勇者達と響の戦いは幕を上げた。

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