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◆剛と正

これはダンマスが生まれる3年前の話。エルフの街が異世界勇者に滅ぼされた直後の話だ。

 異世界勇者たちは今後も『勇者』として活動する者と勇者を辞めこの世界で静かに暮らしていきたいと思う者に別れた。


 その内の勇者を辞めたいと思った者達は6名。

 彼らは超隠密能力を駆使し、誰にも見つからずにエルフの街を脱出し黒薔薇団長一行を無事に人族の住む街まで送り届けた。

 街へ着いた後、4名はそのまま黒薔薇団長と行動を共にし、2名は別れ離脱した。

 離脱した2名の名はつよしただしという。



 剛と正は仲間と別れた後、人通りの少ない道を歩いていた。

 街へ着いてから別れた4名は本当の仲間と呼べる存在であり、「また会おう」と誓ったがそれが果たせるのはきっとお互いの生活が落ち着いてからになるだろうなとしばらく会えない事への寂しさも湧いて来る。


 それと同時にいけ好かない『勇者達』と決別した事と自分たちが勇者を辞めた事による解放感も2人の心を支配していた。

 もうあの勇者達カスどもに振り回される事も無い。勇者として祭り上げられる事も無い。なんと素晴らしい事だろう!


 勇者となってからはその実力が知れるとすぐに権力者や女どもが愛想笑いを浮かべすり寄って来た物だ。

 どいつもこいつも信用の置けない反吐が出る腐り切った匂いのする奴らばかりだった。


 まあそれでチヤホヤされて喜んでるバカも居たがな・・・頭湧いてんじゃ無いかと本気で思う。

 奴らは勇者に付けばおいしい思いが出来ると思っているから寄って来ているだけで俺らの事を仲間だとは思っていないだろう。

 その証拠に・・・いや、思い出すのはやめよう。気分が悪くなる。もう俺は開放されたんだ!



「ねえ剛、これからどうすんの?」


 その後も解放感を味わう為、目的も無く街を散策していると正が話しかけて来る。

 正は勇者として召喚される前からの親友で今も俺に付いて来てくれている気が置ける奴である。


「そうだな。いつまでもプラプラしてても仕方が無いし仕事でも探すか?」


「うん、住む所も探さなきゃだね。でも今までの所と違って結構文化レベル高いみたいだけど身分証とか無しでもいけるかな?

 やっぱりまだ別れずに団長さん達と一緒に居るべきだったんじゃ・・・」


「う、うっせーな! 早く自由になりたくて早まっちまったんだよ! 言うな! 今更戻れねーだろうが!」


「はは、剛らしいね。じゃあ職安でも探して相談してみようか?」

「そうだな、それでダメなら最悪冒険者ギルドか? この世界にもあるみたいだし」


「それはもうやめようよ。勇者あいつらと鉢合わせになるかもだし、これからはチートは使わないって言ったじゃんか」

「チート使うとは言ってねーよ。採集とか色々あるだろうがよ」


「あー、ちょっと君たちいいかな?」

「「ん?」」


 二人で話し込んでいると不意に背後から声が掛かる。

 振り向いてみるとそこには・・・


「う・・・」

「わあ・・・」


 2人揃って驚愕の声を上げてしまう。

 これが一目惚れという奴だろうか? 自分でも頬が紅潮しているのが分かるほど顔が熱い。鼓動が高まり心臓の音が自分でも聞こえてしまう。

 振り向いた先にはこの世の者とは思えぬ程に美しく、可愛い女が立っていた。


「君たち、異世界勇者って奴だよね? この世界に何をしに来たのか聞いてもいいかな?」

「「・・・」」


 だが続く言葉に思わず沈黙してしまう俺と正。同時に「はあ、またか・・・」という気持ちが湧いて来る。

 また勇者達あいつらが何かしでかしたのか?

 何で俺らが異世界勇者と気付いたのかは分からんが、俺らはもうチートとは決別してこの世界で静かに暮らして行くって決めたんだ。もう関係無いんだから巻き込むなよな。


 この子は明らかに俺らに対して警戒心を露わにしてる。く、あいつらのせいで俺らの印象最悪になってんじゃねーのか?


「あの、僕たちは・・・」

「あ、説明はもういいよ。大体分かったから! ごめんね! 私、心を読めるんだ」


 正の説明をさえぎり、頭を掻き謝罪してくる女。その仕草は小動物を思わせるそれで、何というか・・・めっちゃ可愛い。やばい、これが・・・萌えか!


「くす」

「な・な・み! 何に反応して笑ってるのかな?」

「ふふ、ごめん。でも、萌えって・・・フフ、あっ! ごめんって!」


 今までどこに居たのかいつの間にか現れた七海と呼ばれる少女は俺たちに話し掛けて来た女に髪をクシャクシャにされ弄ばれている。

 なんだ? この子もめっちゃ可愛いんだが!


「どうやら異世界勇者と言ってもピンキリの様だな。

 ああ、姿を隠していて済まなかった。異世界勇者は好戦的な者が多くてな、最低限の警戒はするべきだと思ったんだよ」


 さらに女がもう一人現れる。

 隠れていただと? 俺たちの感知能力にも引っかからない程の隠密能力を持ってるのか? いや、そんな事はどうでもいい。

 この女もまた美しく、綺麗だ・・・


 俺たちは今まで10を超える世界を渡り歩き、その世界で最高と呼ばれる美姫や聖女を何度も目にして来た。

 しかし、そんなものはこの3人を目にした後だと全くの無価値だと思ってしまう。

 この例えようも無い圧倒的な存在感。見た目だけじゃ無く内面までも美しい様な・・・何といえばいいのか分からないが・・・

 今まで見て来た女たちとはあまりにも違う! 違いすぎる!


 ここが上位世界だからなのか、それともこの3人が特別なのか。それは分からない。

 ただ一つ言える事は俺は最初に話し掛けて来た女。

 この後すぐに名前を知る事になるが土鏡響という女に惚れてしまったという事だろう。

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