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無限スライムとの戦い その10

「その日突如現れた魔王軍を名乗る異世界勇者たちはエルフの街を蹂躙して回り、一夜にして滅ぼしたと言われています。

 黒薔薇騎士団もその時ばかりは白薔薇と手を取り抵抗したそうですが、勇者の力には敵わず共に壊滅。ルーのご両親もその時に亡くなっています。

 結局その日生き残ったのは勇者の奴隷として生かす価値があると思われた者達と事前に街を抜け出していた黒薔薇団長とその一味、そして私の元へ辿り着いたルーだけでそれ以外は逃げようとした者や降伏した者も含め皆殺しにされたらしいです」


「・・・胸糞悪くなる話だな」


 まさに鬼畜の所業と言える。築き上げた物を壊されるその無念は俺も体験している為、他人事とは思えない怒りが湧いて来る。


「はい。私もその話を聞いた時はすぐにエルフの街へ向かい勇者どもを八つ裂きにしてやろうかとも思いましたが、ルーに止められましてね・・・」


「・・・」


「仇は自分で討ちたいとそう言うんですよ。あんな小さくて優しい子が・・・ぐっ!」


 神父は当時の事を思い出したのか目に涙を浮かべ拳を握りしめている。


「あの子は私の元へ辿り着いた時、憔悴して死ぬ寸前でした。特に精神は弱り切っていて毎日泣いてばかりで、生きる希望を失った状態でした。正直このままでは長くないとさえ思っていましたよ」


 それまであった日常を全て奪われたのだ、無理もない反応だと思う。


「そんなあの子がある日泣くのをやめて言ったのです。

 お父さんとお母さんの、みんなの仇を討ちたい。どうすればいいのかと・・・

 あの子はね、ホントに心優しい子なんですよ。そんなあの子がその言葉を絞り出すのにどれ程の覚悟がいった事か、どれ程の涙を流した事か・・・目を真っ赤にはらしてバカな事を、そんな事は私の様な人間に任せればいいものを・・・」



 神父さんは言葉に詰まってしまう。

 だがなるほど事情は分かった。つまりあの子は復讐心を糧にかろうじて心を保っているといった所か。

 話している感じからすると神父さんは今でも自分の手で勇者をという気持ちはあるのだろう。


 だがそれをしないのはそれをするとルーの生きる目的を奪ってしまうから。それがいい事ではないと分かりつつも容認しているのだ。そこにはきっと複雑な葛藤があったのだろう。


 そしてあの子は今その目的に近づくためにあそこに立っている。

 勇者を討つ為に、その為の力を付ける為に無限スライムと対峙しようとしているのだ。しかしそれにしても・・・


「あの子が迷宮区に居る事情は分かったけどさ、ホントに大丈夫なのか?」


 そもそも何故こんな話をしているのかと言うとこっそり迷宮区に侵入していたルーを俺がカメラで見つけ連れ戻そうとしたのが原因だ。

 俺がその命令を出そうとすると神父さんが「許してやってください。あの子にも理由があるのですよ」と事情説明を始めたのだ。

 それを聞いた単純な俺としては協力してやりたい気持ちはあるのだがその事とこの事は別問題だろう。


「エルフの天才児だって話だけどあの子まだ10歳くらいでランクもまだ1だろ? やっぱり今からでも連れ戻した方が・・・」


「そう言うと思ってこっそり行かせたんですけどね。ふふ、まあ心配はいりませんよ」


 く、こんにゃろー! やっぱりお前も共犯か~! 確かに正面からお願いされても行かせなかっただろうけどさ。ライフドレインもあるしさ。

 というか迷宮区はライフドレインが働いているのにあの子が何故無事なのかも謎だ。


「精神論では無く、あの子は見た目よりずっと強いんですよ。例えば異世界勇者たちは何故あの子を逃がしたと思いますか? 親バカかもしれませんがあの子、可愛いいでしょう?」


 いや、あんた親じゃないだろ。というツッコミは無しにしておくか。今は実質親みたいなモンだしな。


 それで可愛いか可愛く無いかと聞かれれば正直可愛いと思う。俺はロリコンでは無いが可愛いと思う。

 と言うよりあの子を見て可愛く無いと答える人はよっぽど捻くれてる人以外は居ないんじゃないかなと思う。それ程に愛くるしい容姿をしている。


 となると何故あの子が勇者の奴隷にされずに逃げられたのかは謎だな。

 あれほどの容姿だ。ロリコンで無くとも傍に侍らしたいと思う者は居たと考えるのが自然だ。


 奴隷になった者以外は逃げようとした者も全て殺されたって話だ。包囲網が緩かったって訳でも無いだろう。何故あの子だけ助かったんだ? う~ん、分からん・・・


「ふふ、分かりませんか? 簡単な話ですよ。

 ルーのやる気を削ぐ事にもなりかねませんのでこの事は内密にしてほしいのですが、ルーはね、恐らく現時点でも勇者より遥かに強いのですよ。だから殺されることは無かった」


「え? でも、それなら・・・」


「ええ、そうですね。言っても仕方のない事ですがもし最初から今程の力を持っていればエルフの街は滅びずに済んだでしょう。しかし皮肉な事にルーが力を得たのは街が滅んだおかげでもあるのです」


 神父はカメラを指さし言葉を続ける。


「例えば今ルーに召喚されて一緒に歩いているリビングアーマー。彼? は召喚者の受けたダメージを肩代わりするという能力を持っています」


「ほうほう」


 なるほど、だからライフドレイン受けても平気なんだな。


「この様に召喚獣はただ戦うだけでなく、契約を結んだ召喚士を強化するものが多いのです」


「ふむふむ」


「そして召喚獣が仕える相手は契約者1人のみ。つまり契約した人間が死ぬまで他の者に仕える事はありません。

 あのリビングアーマーも元々はルーのものではなく、ルーの父親が使っていたものでした」


「・・・」


 なるほど、話の流れが読めてしまった・・・


「ルーはあの容姿故に殺されることは無く、放置されていました。

 勇者たちは彼女を守ろうとするものを全て排除した後、悲しみと無念に震えるルーをいたぶり辱めるか、奴隷にするかなんて考えていたらしいですよ。ルーの話から察するにですが・・・」


「ホント胸糞悪いな」


「はい、しかしそこに勇者たちの最大の誤算があったのです。あの日あの街に在った召喚獣。

 その中でも星付きと呼ばれる最強レベルの召喚獣たちは契約者が死ぬと同時に全てルーの身に宿ったのです。

 それによりルーを倒す事の出来なくなった勇者たちは倒す事は諦め、追放するのがやっとだったのだと思います。

 周りの者達を先に殺してしまった故に起こった勇者たちにとっては悲劇とも言えるでしょう」


 異世界勇者でさえ匙を投げる強さって事か? あの見た目だしとても信じられないが・・・今日は信じられないもの結構見たしな、耐性がついてしまってるのかもしれん。このまま見ててもいいかなという気になってしまっている。


 最悪コンティニューを掛けてれば死ぬ事は無いし、神父さんの自信を信じてここはルーに任せてみるか。





「ルー。もうすぐ接敵する」

「は、はい! 分かってます!」


 迷宮区を歩くリビングアーマーとルー。

 リビングアーマーの注意を促す声にルーは全身を震わせ緊張を露わにする。


「・・・まだ迷ってるんじゃないのか? なあ、無理にルーが前に出る必要は無いんだぜ? 後方から命令さえ出してくれれば俺たちが・・・」


「ダメです! それはダメです!」


 ルーは首を大きく横に振りリビングアーマーの意見を否定する。まだ体の震えは止まっていない。


「ルーが自分でやるって決めたんです! それなのにみんなにだけつらい思いをさせて自分は知らんぷりなんてそんなの嫌なんです! そんな卑怯な人間にはなりたくないんです!」


「し、しかしだな・・・」


「いいんです。ルーが間違っていたんです。ルーがもっと強ければみんな死なずに済んだんです。

 お父さんとお母さんも死なずに済んだんです。強くなる為にもっと努力しなければいけなかったんです。

 それなのに私がモンスターを殺すのを躊躇っていたから・・・ルーが、もっとしっかりしていれば・・・ぐすっ」


「ルー・・・」


 ルーは今にも泣きそうだが必死に涙を堪え言葉を続ける。



「ルーはね、復讐の為もあるんですが強くなりたい理由はそれだけじゃ無いんです。

 神父さんや神父さんが攫って来た子供たち。みんな、ルーの大切な仲間なんです!

 みんなルーが落ち込んでいる時、元気づけてくれたんです! ルーはそれがすごく嬉しかったんです! だから・・・」


 ルーは眼前に迫る無限スライムの群れを見据えながら歩き出す。もう体は震えていない。


「だから、今度こそ大切な物を無くさない為に強くなるんです!

 お父さん! お母さん! みんな! 見ていてください!

 来い! スライムさん達! 私は白薔薇騎士団5代目団長ルー! 白薔薇騎士団はまだ無くなってはいない! まだ、私が居る! まだ私たちは負けていない!

 みんな、ルーに、ルーに力を貸してください! ああああああああ! いでよ! 108星! こいつらを! 倒せええええ!!」



 ルーの叫び声と共に108体の召喚獣が一斉にその場に顕現する。

 中にはその身が大きすぎ顔や腕の一部しか出て来れないものもいる様だがその力は圧倒的だった。

 あっという間に蹂躙されていく無限スライム達。その全てが動かなくなるまでにそれ程長い時間は掛からなかった。

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