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◆異世界勇者

「そんじゃおじさん一緒に行こうか? この街を出たいんだろ? 俺らもこの世界に滞在する事にしたからさ、付いて行ってやるよ」


「うん、その代わりにこの世界の事を色々教えてくれると助かるよ」


 異世界勇者の中にも少数だが我々に協力的な者も居る様だ。

 この者達は最初からこの世界に残るつもりだった様で元の世界へ帰る素振りすら見せていなかった。

 しかし押しの弱い大人しい性格の者が多いのか一部の者達が声を大きくして騒いでいる間は話しかけても来なかったのだ。


 そして話しかけるタイミングをうかがっていたのか。他の者たちがこの世界の話で盛り上がっているのを見て今のうちにと話しかけてくれた訳だ。その結果6名が同行してくれる事となった。


「よろしくお願いします! それでは早速ですが出発しましょうか? 急いでいるようですし」


「あ、ああ・・・すまないな。ご協力感謝する」


 異世界勇者の実力はまだ未知だがこの者達の自信を見るに我々に対して何の脅威も感じていない様に思える。

 同行者は6名と心許ないが他の者と交渉しようとした際に「あいつらはやめておいた方がいいです」と同行者に止められたのだ。

 私も先程までのやり取りから彼らに対しあまりいい思いは抱いてなかったのもあり、同行者たちのこの自信を信じ、交渉は取り止めもうこれ以上は関わるまいと足早にこの場を立ち去ろうとした。


「おいおい、お前らこのおっさん手伝うの? 真面目だね~!」


 だが勇者の一人が立ち塞がり我々を、いや、同行者たちの事をバカにしたような目で見下してくる。


「うっさいな~。俺たちはお前らと違って今までの世界はあんま居心地良くなかったんだよ。だからもう勇者なんかやめたの! ほっといてくれよ!」


「そうそう! どいつもこいつもゴマすりながら近づいて来てさ~! いい加減うんざりするってのよ!」


「僕ももう戦うの嫌だし、勇者だって事は隠して田舎でスローライフでも送りたい」


「俺は田舎は勘弁だけど他は大体同意。普通に暮らせりゃそれでいいよ。勇者はもう勘弁」


 それに対し次々と反論する同行者たち。勇者も一枚岩ではない様だ。当然反撃も飛んで来る。


「はあ? お前らスローライフに夢見過ぎじゃね? 底辺層なんか上にこき使われるだけだし何がいいのよ? せっかくチート貰ったんだぜ? 使わなくてどうすんのよ!」


「そのチートが嫌なんだよ。こんなん自分の力じゃねーし、こんなの使って何かを成した所で虚しいだけだろが! 幸いこの世界ではまだ勇者として名が売れてないしな。俺はもうチートは使わん。自分の力で1から努力して生きて行きたいんだ。まあお前には分かんねーよな」


「分っかんねーよ! 努力しても結局才能ある奴には勝てねーじゃん? そんな無駄な事する位なら最初からチートに頼った方がマシだわ。逆にどんなに努力している奴でもチート使えば簡単に蹂躙できるし? 無駄な努力ご苦労さんだわ」


「ふん、やはりお前とは一生分かり合う事は無い様だな。話すだけ無駄だ。団長さん、もう行きましょう」


「あ、ああ・・・」


 なるほど、やめておいた方がいいとはこういう事か。立ち塞がっている男だけでは無い、周りの者達の反応を見るにチートを使わないというこの同行者の考え方の方が勇者の中では異端なのだ。

 そのチートを頼りに呼び出した私が言えた義理では無いが、チートに頼り切っているその考え方は酷く醜い物に思えるし正直反吐が出る。

 同行者たちもきっと同じ気持ちで一緒に行動したくないからああ言ったのだろう。


 彼らをここへ残していくのは心配ではあったが、帰還させても自力で戻って来るだろうし行動を縛る為の契約を結ぶのも無理だろう。

 後ろ髪を引かれる思いはあったがこれ以上ここに居ても自分が出来る事は無いと思い部屋を後にした。



「ちっ! あいつら、ぶっ殺してやろうか・・・」


 黒薔薇団長たちが部屋を去った後、立ち塞がっていた男は舌打ちをする。

 チートを振るい現地人を蹂躙する事に喜びを感じている男はその生き方を否定された事が面白くない様だ。


「やめとけやめとけ! 勇者同士で戦っても決着はつかねえよ。ダメージ無効と状態異常無効は勇者なら常時発動してるからな。知ってんだろ?」


「『強奪』も勇者には効かねえしな。ま、そんな事よりみんなこれからどうする? 俺はまた冒険者でもやってみようと思ってるけど」


「お前も好きだね~! ま、気持ちは分かるけどよ。俺は今回はちょっと趣向を変えて陰の実力者プレイするわ。普段は実力を隠してるけど本気出せば凄い! みたいな?」


「絶対途中で隠さなくなる奴だろそれ・・・」


「はは! そうかもな! で、お前はどうすんだ?」


「俺はいつも通りのチート無双ハーレムを目指すよ。やっぱおれtueeeは気持ちいいじゃん? 女にもモテたいし」


「俺は勇者パーティを追放されて云々かんぬんプレイ」


「はは、なんだそれ?」


「知らないの? 今流行ってんだよ?」


「ハハハハハハ!」


 この勇者たちは勇者の中でも熟練者といえる存在で今まで10を超える世界を渡り歩き、その度に新たなチート能力を得て今この場に立っている。その中には『不老』の能力もあり、歳も見た目通りの歳では無い。

 当然こういった事態には慣れている為、緊張感のカケラも無くバカ騒ぎを始めてしまう。

 


「俺は今回は魔王プレイするぜ。さっき超鑑定で見たんだけどよ、俺らを呼び出したあのエルフのおっさんすげえ量の経験値持ってたんだわ。まあ生意気にも手出しできない様に細工してやがったから見逃してやったけどな」


「ああ、確かにすげえ経験値だったな~。ここが上位世界だからなのか、あのおっさんが特別なのかは分からんけど人類を狩る価値はあるかもしんねーな~。俺も魔王側に付くわ。正義の味方側だと人類には手を出しにくくなるしな」


「そうか、でもかち合った時はどうする? さっきも言ったけど勇者同士だと決着つかねーぞ?」


「そん時はゲームでもして勝敗決めればいいだろ」


「そうだな。勇者側が勝てば元魔王軍の将官、勇者パーティに加わる。って感じか。

 逆に魔王側が勝てば元勇者、堕ちて魔王軍に加わるって感じか。どっちも面白そうだな」


「ハハハ! だろ?

 じゃあ俺たち魔王軍は手始めにこの街を制圧するぜ! 魔王軍に加わりたい奴は俺様に付いてきな!

 あっ、それ以外の奴らはさっさと街出ろよ! ガハハハッ!」


 彼らは熟練であるが故にこういった事態に慣れすぎ飽きていた。

 その為に魔王プレイなどと暴走する輩も出て来るのだがしかしそれを止める者もいない。

 ここに残った者達は他者の命など何とも思ってはいないのだ。幾つもの世界を渡り歩く内にそういった気持ちなど抜け落ちてしまったのだ。


 異世界勇者はゲーム感覚で現地人の命など簡単に奪う。

 その事を文献では知っていたが良識のある人間である黒薔薇団長はその様な人間が実在する事を信じようとはしなかった。この様な事態に陥るとは想像すらしていなかったのだ。

 それは黒薔薇団長の最大の誤算であったと言える。そしてその誤算は後々まで彼を苦悩させる事となる。

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