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◆無限スライムは進路を考える

 ランク2へと進化した無限スライム達だがまだその力は弱く、森は未だ危険な場所に変わりはない。

 例えば先程の鬼熊の様に硬い敵を倒す手段は持ち得ない。いかに数が居るとはいえ、もし襲われれば逃げるしか無いだろう。


 倒せない敵が存在する以上、ここは安住の地とは言い難い。少しでも早く移動を開始するべきだ。


 周囲に生えている木々も下手に食い荒らさない方がいいだろう。この数で食い荒らせばあっという間に見通しが良くなってしまう。

 木々を残しておけば逃走の際は少しでも敵の足を止めてくれるだろうし、姿を隠す遮蔽物にもなる筈だ。


 本能は喰って繁殖したいと叫んでいるがグッと我慢しスライム達は動き出す。

 今は数を増やすよりも索敵範囲を広げ強敵の居ない場所へ移動するのが先決だろう。出来ればその道中で狩りやすい敵を倒しレベルも上げて行きたい所だ。


今度は全方位に円状に索敵部隊を先行させて周囲の状況を探って行く。

 この先行部隊は最初に放った者達と同じく敵と出会えば生きて帰れない可能性が高い。

 スライム達の足は遅いし、単体では貧弱だ。

 敵と遭遇すれば戦って勝つ事はおろか逃げる事も容易では無い。仮に逃げおおせたとしてもその鈍足で本体と合流する事もまた難しい。

 繁殖するに足る餌と時間があれば話は別であるが・・・周りが敵だらけのこの森でそれを成すのはこれまた難しいだろう。

 現状では繁殖に頼らず今いる兵だけで事態を好転させる他無いのだ。


 索敵部隊はその命を懸けて周囲の状況を探って行く。これが人間の部隊ならば恐怖に駆られ逃げ出す者も居たかもしれない。

 しかし、無限スライム達の中に任務を放棄し逃げ出す者は居ない。

 彼らはある程度全体で意識を共有している為、個人が死んでもその意思は無限スライム達の中に生き続けるのだ。

 彼らはその事を本能で理解していた。故に個人の死に対する恐怖は薄く、淡々と任務を遂行していく。



 ・・・西へ3キロ地点(先程まで自分たちが居た地点)にフォレストウルフを発見。

 一体だがフォレストウルフの様に一体で生きている種は群れの者に比べ生き抜く術に長けている場合が多い。

 戦えば負ける気はしないが、その場合は逃げられる可能性が高い。相手の足の速さに比べこちらはあまりにも鈍足だ。倒すのは難しいだろう、逆走になってしまうし西は却下か。

 

 ・・・南西800メートル地点にアイラーヴァタ4体を発見。

 アイラーヴァタは簡単に言えば空飛ぶ象だ。ランクこそ自分たちと同じ2だが戦うにはあまりにも強すぎる。これも逆走になってしまうし南西は論外だな。


 ・・・南に400メートル地点の水辺にアンヴァル12体を発見。

 アンヴァルはランク4の馬モンスターで水の上も地上と同様に走る事ができ、その脚力から繰り出される蹴りは同ランクの人間なら即死する威力を持つと言われている。

 こいつも強すぎるし足の速い敵とは基本相性が悪いので却下だ。

 しかしこちらから向かいはしないが近いので注意が必要だ。やはり一刻も早く移動を開始した方がいいだろう。


 ・・・北西には鬼熊。これはさっきの奴だ。今の所こちらへ近付いて来る様子は無いが要警戒。見張りは続けて欲しい。


 ・・・北1200メートル地点にヘルフラワー10体を発見。

 ヘルフラワーは花びらが鋭利な刃物の様になったランク3の花びらモンスターだ。足は遅いが戦闘力は高く、10体も居るとなれば苦戦は必須だろう。

 しかし、犠牲は出るが倒せない事は無さそうだ、保留。


 ・・・東に一キロ地点にはランク3モンスター、オルトロスが6体。

 オルトロスは双頭の犬型モンスターで巨大な体に強力な牙を持ち、動きも俊敏だ。

 性格も凶暴で東へ向かった者たちは残らず狩られてしまった様だ。こいつも強いし追い詰めても逃げられそうで割に合わない。出来るだけ近付かない方がいいだろう。


 ・・・南東に1500メートル地点にはランク4モンスターのアルラウネが約50体。

 アルラウネは植物系の女性型モンスターで上半身は女性、下半身は植物の形をしている。

 美しい女性の姿で獲物をおびき寄せ、強い幻覚作用のある花粉で虜にし捕らえる事を得意技としている。

 こいつは相性としては最悪に近い相手と言える。

 通常ならこちらの数は力だが、幻覚を見せられ同士討ちなどを始めると敵以上に厄介な存在となってしまう。下手すれば全滅もあり得るだろう。こいつには絶対に近付かない様にしたい。


 ・・・北東一キロ地点に遺跡を発見。

 遺跡とはダンジョンマスターの居ないダンジョンの様な物でいわば自然発生したダンジョンである。

 洞窟の様なタイプもあるが、その多くは城跡やゴーストタウン、地下水道など人の居なくなった人工物の後にできる事が多い為、総称して遺跡と呼ばれている。

 遺跡内部には多種多様なモンスターが生息しており、その強さは外部環境の者より一段上というのが普通だ。

 北にある目的地の様に魔力に満ちたいい匂いもしない。将来的な餌場としては候補に挙がるが現時点では近付くべきで無いだろう。



 ここまでの経験で分かった事がある。一つはやはりこの森は危険に満ちているという事。

 むしろ周辺には倒せる敵の方が少なく、デビルポイズンフラワーを倒し進化できた事は幸運だったと言える。


 そしてもう一つは草食のモンスターは植物や肉食と違い、こちらを見つけても襲って来ないという事だ。

 過信は禁物だが、緊急手段としてその近くへ身を寄せるのもアリかもしれない。

 だがそれはあくまで緊急手段であり、ずっと草食モンスターに守ってもらう事は難しい。


 今は飢えていないので問題ないが腹が減ればこちらも栄養を摂らなければ生きていけない。

 そしてモンスターが狩れないのであればその食欲は必然周囲に生えている植物に向かうだろう。大所帯故にその消費量も半端ではない。

 己の餌場を荒らされても草食モンスターが自分たちに牙を剥かないかと言えば怪しい所だろう。


 それに現状では草食モンスターの居る地点は南方向だ。基本的に森の南へ向かう程に生息するモンスターは強くなると主人は言っていたし目的地の北とは逆方向だ。

 もっと言えば今自分たちがこうして自由に動き回り状況を選べるのは森のモンスター達に自分たちの存在が露見していないからである。


 もし捕捉されれば倒せないモンスター達から襲撃を受け続けるだろう。弱く、数が多く、足の遅い自分たちはいい餌だ。

 常に周りのモンスターから狙われ、逃げ回りながら北を目指すのは容易で無いだろう。

 そうなる前に動く必要がある。このまま時を浪費すれば確実に状況は悪化する。

 今は目の前のリスクを恐れ立ち止まる時で無いのだ。リスクを恐れず戦う時なのだ! 強くなる為に前進するべき時なのだ!


 スライム達は覚悟を決め北を目指す。狙うはランク3モンスターヘルフラワー。ランク2へ進化したばかりの無限スライム達にとっては格上の敵である。

 しかし生き残る為に強くなるために避けては通れぬ敵である。


 



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