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◆土天と白い少女 その4

 明らかに表情を曇らせた白い少女を見て土天は胸が痛むのを感じていた。

 何が起きても動じそうに無い、明るく快活なこの少女がこれ程悲しそうな顔をするとは思っていなかったからだ。


「実力だけあっても成功なんて出来ませんよ・・・人間の世界ではね、出る杭は打たれるんです。寄ってたかってね・・・」


 余程酷い仕打ちを受けて来たのか、それを思い出したのか少女は今にも泣きそうな顔をしている。

 土天はその様子を見てそれをおこなった者たちをぶち殺してやろうかと思う程度には頭に来ていた。


 弱肉強食の世界に生きる土天は純粋に上を目指し生きて来た。だからこそ自分に挑んで来る人間たちには敬意を払っていた。

 生物としての格は土天の方が上であり、命を懸けて格上に挑むその姿勢は尊敬できるものだと思っていたからだ。


 土天は目の前の少女にも過去自分に挑んで来た人間たちと同じ匂いを感じていた。形こそ違えど、この人間は上を目指し生きている。

 錬金術を極める為に今の技術を身に付ける為にどれだけの物を犠牲にしたのか、どれだけの時間を費やして来たのか想像に難くない。人生の全てをそれに賭けているのだ。尊敬するべき相手だろう。


 その尊敬するべき相手が弱者どもに虐げられるだと? 笑えん冗談だ! 強き者は素直に称えるべきであろうが! 土天は憤りを隠しえない。


 白い少女は自分の為に怒ってくれている土天を見て泣きそうな顔をしながらも口元だけは少し微笑んで話を続ける。



「上が求める人材は秀でた力を持つ者じゃなくて均一化された人材なんです。その方が使いやすいですからね。

分かってはいるんです、社会が求めているのは従順に動く歯車であって自分で考えて動くような部品は必要とされていないって。

でも私はどうもその均一化っていうのが苦手でして、自分を捨てて周りに合わせて生きるよりは誇りを持って自分らしく生きて行きたいと考えているんです。

だから頑張りました! 誰よりも真面目に仕事をして! 誰よりも努力して! 誰よりも実力を身に付ければきっと、その内誰かに認めてもらえると思って・・・

ふふ、バカですよね・・・そんなので分かってもらえる訳・・・無いのに・・・」


 白い少女はついに泣き出してしまう。


「お、おい・・・もうはなさんでいい。泣くな」


「ううっ・・・えぐっ!」


 しかし白い少女は泣き止まない。


「お、おぬしはまだ若いしこれからじゃろう? おぬしを酷い目に遭わせて来た心無い連中の事なんか忘れい! 世の中そんな奴らばかりでは無い。おぬしの事を分かってくれる者もこの先現れる。きっと現れる!」


「ううっ・・・そんな人はいませんよ!」


「いや、居る・・・少なくともわしはおぬしの実力は買っとる」


 土天のその言葉を聞いた後、白い少女は一瞬固まる。そして・・・


「ううっ・・・うえ~ん!」


 大泣きを始めてしまう。


「泣くなと言うとる」


「ううっ・・・今のはドラゴンさんのせいですよ!」


「はあ? なんでわしのせいなんじゃ?」


「だ、だって、ドラゴンさんが・・・ドラゴンさんが・・・」


「?」


 白い少女は何かを言おうとしているが嗚咽が邪魔をして言葉にならない様だ。土天は仕方なく少女の方を見る事はやめ、泣き止むのを待つ事にした。


 しかししばらく待っても反応が無い。寝ちまったんか? と思い少女の方を振り向くと少女は慌てて顔を隠した。


「おい、何で隠すんじゃ? 見せてみい」


「わ~! まだダメですってば~!」


 土天が少女の顔を覗き込むと少女の涙はまだ止まっていなかった。しかしその顔は笑顔と呼べる物に変わっていた。



 それから土天は何となく放っておけないというのもあり少女の元を幾度となく訪れる。一応目立たない様に地中からだ。

 最初の頃は土天がモグラの様に地中を進み訪れていたが、それを見かねた少女が錬金術で土天の住処と繋がるトンネルを作ってからは行き来も容易になった。


 土天は暇さえあれば少女の元を訪れる様になっていたが特に何をするでもなく、基本的には雑談なんかをしながら少女の研究を見ているだけだ。


 少女が必要とする物があれば取って来たりもする。戦いの様な刺激も無い何でも無い様な日々。

 しかしそれは土天にとって今まで感じた事の無い幸せな日々だった。




 




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