侵入者の呼び込みとトイレ
「荷下ろし場は候補地が決まり次第細かい話を詰めて行こうと思う。では次の話だが・・・」
人間の子供たちの世話、ダンジョンの森林の枝打ち、庭師による景観の向上、農作業や採集、ダンジョン内の清掃など人間たちに仕事を割り振っていく
これらの仕事はモンスター達にも可能だが、長年勤務を経験している人間と共に仕事をする事でモンスター達の技術の向上を図る狙いがある
「ノルマと言う程の事も無いが、皆にこなしてもらいたい業務は以上となる。さて、その上でだが、人間のみんなには普段の仕事と兼用で行ってもらいたい事がある
それは侵入者の呼び込みだ。ダンジョンを運営、進化させていくにはDPが必要だが、これは現状いくらあっても足りない状態だ
侵入者を呼び込む事でこの不足分を少しでも補っていきたいと考えている
直接連れて来れなくてもダンジョンの宣伝をしたり、おいしい話を臭わす等どんな手段でも構わない。侵入者を増やすために思いついたことがあれば何でも試してみて欲しい」
DP収入は初期に比べればかなり増えたが、それでもまだまだ足りない。と言うか全然足りない
通路の拡張、スポナー設置、コアルームのランクアップやダンジョン施設の開放などやりたい事はいくらでもあるのだが、それらを満足なレベルまで行うのに一体どれだけのDPが必要になるのか・・・
考えただけであまりの目標の高さに気が遠くなるのである
「DPが必要なのは分かるけどよ、普通に眷属増やすだけじゃダメなのか? 侵入者を呼び込むのはリスクもでかいぜ」
トシの疑問はもっともだ。しかしこれには理由がある
「確かにこのままモンスターを増やしていけば眷属から吸収できるDP、自動吸収DPはリスク無く増やす事が出来る
でもな、限界があるんだ。現時点では自動吸収DPは99万が上限でそれ以上は増やせないんだ」
これは夢でのカンニングによる知識だ。このまま行けば99万でDP収入は頭打ちになる
もしかすると上限を開放する方法があるのかもしれないが、方法が不明な為それ以上の収入を求めるのなら侵入者頼りにならざるを得ない
ユズやゴリに聞いても上限の話は分からないとの事。ダンジョン博士ノエルならあるいはとも思うが・・・
情報が欲しい所だな。当面の目標はDP1000万貯めてダンジョンネットを繋ぐ事かな?
「なるほど、上限ね。それならリスクがあっても呼び込みを行う必要はあるか」
トシはうんうん唸って何か考えている。そして数秒後、考えがまとまったのか難しい顔をして口を開く
「う~ん、今回は無理だが次周以降って事なら俺に1つ考えがある。後で話すから意見を採用するかどうかはマスターが決めてくれ」
んん?なんだろうね。とりあえず了解とトシに返事をしておく
しかし次周って簡単に言うけど多分約5年後だぞ・・・忘れないように掲示板にでもメモっておくか
「俺達も冒険者連中には情報を流しておくがあまり期待しない方がいいかもな。銀色のハイエナが敗走したって話は近辺では有名で、低ランクの奴はビビッて来ねェだろうし、高ランクの奴はこう言っちゃ何だがここよりおいしい狩場があるしなあ・・・」
「でも遠くの町ならまだ噂は広まってないだろうし、情報を流せば来るんじゃないかな?」
「そうだな。まだ出来たばっかのダンジョンだし、情報に疎い奴なら油断して入って来るかもだな。そっち路線で行くか」
冒険者たちは悪い顔でそんな話し合いを始める。修行場って意味なら死んでも復活できるし我ながらいいダンジョンだと思うんだけどな
しかし、レベル上げの為にハイエナ連中を拷問したのがよく無かったのか悪い噂が広まっている様だ
次に侵入者が来ることがあれば拷問はせずに入り口へ送り帰してやろうと思う。うまくすればリピーターになってくれるかもだしな
「宝箱で釣るってのはどうかな?」
今度はホームレスの男がそんな意見を出す。宝箱か、確かに人が釣れそうではあるが・・・
「いいんじゃないか?ダンジョンへ訪れる人間の半分以上は宝箱目当てだと言っても過言ではないしな
客寄せとしては十分な効果は見込めると思う。安いのなら10から100DPで出せるしな」
と言うのはゴリの意見。高ランクを呼びたいのならもっとグレードの高い宝箱を当たりとして置く必要があるだろうが、今はむしろ来られると困るからな
10の箱をばらまいてたまに出る100の箱が当たりという感じで低ランク者を呼び込む作戦で行くか?
「いいと思いますよ。10の箱でも低ランク冒険者にとっては文字通りお宝ですからね」
そう言うのはユズ。聞けば10の箱でも中身は平均2~3万くらいの価値がある物が出るらしい。確かにそれなら危険を冒してダンジョンへ来る価値はあるのかな? これは前向きに検討した方がいいかもしれないね
しかしこの宝箱って奴は何度封印しても出て来やがるね。恐ろしい奴だ・・・
「あ、あの!」
俺が宝箱の脅威に戦慄していると図書委員(予定)のメガネっ娘が手を上げて俺に声を掛けて来る。なんだ? 何か思いついたのかな? と意見を聞いてみる
「い、いえ・・・そうではなく。あの、その、お手洗いは・・・」
ああ、トイレか。我慢してたのね・・・
そう言えば今までどうしてたっけ? 俺やゴブリン、ピクシーなんかはトイレの必要ない生き物だしな
ドワーフたちは・・・確かその辺の土に埋めてるんだっけか。妖精樹が浄化してくれてるから汚くはない筈だ
「ああ、トイレはその辺でしてくれれば・・・」
と言おうとすると女性陣から凄い目で睨まれた。メガネっ娘も涙目になっている。ちょ、ちょっと配慮が足りなかったか・・・
「・・・と言うのは冗談だ。え、えーと・・・」
急いでダンジョン作成メニューからトイレを探す。え~と、え~と・・・
やべェ、焦る! 見つからない! もしかして無いのか? いや、諦めるな。そうだ、こういう時こそ検索だ・・・お、あった! やった! 検索画面から飛べる! 流石検索先生だぜ!
「ト、トイレはコアルームと居住区の各階に作っておいたからそれを利用してくれ」
それを聞いてメガネっ娘だけでなく何人かはトイレへ走っていった。みんな結構我慢してたのね、言ってよ・・・
それにしてもトイレか。今までは殆ど不要の物だったが人間の眷属も増えた事だし、コアルームや居住区以外にも作っておくべきかね?
と、それで思い出したがヒミカ達やゴリ達、ノエルなんかは今までどうしてたんだろ?
「その質問には俺が答えよう」
ずいっとゴリが前に出て来る。何故かドヤ顔だ、うぜえ・・・
「まずヒミカ達だが、ゴブリンたちが作った部屋にトイレは完備されているのでそこを使用している」
「ほー」
ゴブリンたちはちゃんとトイレも作ってたのな。気が利くやんけ
ちなみにトイレには浄化の魔法がエンチャントされているので出した数秒後には排泄物は消えてなくなるらしい。下水いらずのご都合主義バンザイだ
「そして俺達だが、俺達は排泄行為をしないのでトイレは必要としていなかった」
「ほー」
『ダンジョンに侵入者が現れました』
ん?
「俺たちに限らずあらゆる生き物はランクが上がるほどに無駄が無くなっていく。完成に近付いていく。その過程でそういった行為も必要と無くなっていくのだ。つまり超人である俺たちは勿論、それに次ぐ力を持つユズもそういった行為は必要としないという訳だな」
「ほうほう」
「そしてノエルちゃんだが、彼女も超人だし、マスターも何日か一緒に過ごしたのだから今更説明は不要だろう
だが! ノエルちゃんの名誉の為にあえて言おうと思う!
ノエルちゃん、いや、ノエルたんはう〇こなどしな、グハア!!」
ゴリはそれを言い切る前に突如現れた少女の腹パン一撃で吹っ飛ばされギャグマンガの様にコアルームの壁にめり込んだ
「まったく! 久しぶりに会ったと思ったら何をバカな事を口走っているんですか!」
少女はプンプンしている。しかし俺を見つけるなりにこっと笑って振り向きこう言った
「お久しぶりです! マスターさん! ただいま戻りました!」
ノエルが帰って来た




