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底辺作業員と上司

結局アリスの提案に眷属全員が乗っかる形になり現在みんなで打ち合わせ中である


最初はアドリブでいいだろと話がまとまりかけたが、どうせなら新規メンバーも含めた全員でやりたいとゴブ太やエアが言い出したので初期メンバーが新規メンバーに説明している様だ


俺はもう何だか気が抜けてしまい、コアルームの壁に背を掛け床に体育座りで皆が話し合う様子をボケーっと見ていた


「マスターさん、隣いいかい?」

「ん?ああ、どうぞ」


そう言ってボケーっと座っている俺の横に腰掛けたのは先程面接した人間の男だ

トシ曰く底辺作業員だっけか?

あいつも毒舌だよな。いや、仲がいいからそういう言葉が出て来るのかな?


コアルームには既に神父一行やホームレス達も入って来ている

まあ彼らについては残るだろうなと予想はしていた


人間が攻めて来ると言っても来るのは何年も先の事だ

その間、住む場所と食事が手に入れば御の字だろうし、最悪その時が来ても俺たちを置いて自分たちだけ逃げ出す事も可能だろう

同じ人間同士何とでも言い訳は効きそうな気がする


しかしこの底辺?の男がここへ来るのは意外だった

底辺と言うからにはそんなに裕福ではないのだろうが神父たちやホームレスの様に住処が欲しいという訳でも無いだろうし、切羽詰まっている事も無い筈だ


「あんたはここへ残ってくれるのか?」


どうしても疑問が晴れなかったので思い切って聞いてみた

すると男は迷う素振りすら見せず「ああ、残るよ」と即答し笑った


「悪いけど理由を教えてもらってもいいか?」


正直思いつかないんよな

底辺とは言え仕事はしてる筈だ。ゴリ達みたいにここへ住んで仕事場まで通うっていうのは転移魔法でも使えないと厳しいだろう

一番近い町でも二時間は掛かるって話だしな


ここへ残るのなら人間社会での生活はある程度捨てないといけない筈だ

そこまでしてここへ残る理由があると言うのか?


「理由は、ちょっと言うの恥ずいんだけど言わなきゃダメかね?

まあいいか。俺がここに残る理由はあんたらのさっきのやり取りに・・・か、感動したからだ。く~!我ながら恥ずいぜ!」


男は照れながら続ける


「あんたも元人間なら分かると思うが俺ら人間は綺麗な状態で生まれて来る

生まれてすぐの頃はみんな純粋で綺麗な心を持っている

だが、歳を重ね社会で揉まれるにつれ段々とそうじゃなくなっていく

何故なら人間社会は汚れきっているからだ

あらゆる場所に汚れがあり、その汚れに触れる度に自身も綺麗では無くなっていく

気が付けば自分も汚れた存在になってしまっている」


男はそこまで話した後ふうっとため息をつき眷属たちを見つめる


「だけどあんたの眷属たちは綺麗なままだろう?

俺ら人間の汚れに何度か触れる機会はあった筈だ

普通ならもっと汚れていてもいい筈だ。なのに、みんなして目をキラキラさせやがってよォ・・・

それを見て思ったんだ。トシのバカの口車に乗る様でしゃくだがよォ

俺もあんな風に綺麗になれるかなって、こんな薄汚れちまった俺でもまだ間に合うかなって・・・そう思ったんだ

うまく説明できないがそれがここへ残ると決めた理由だ

俺はお前らみたいに綺麗になりてェ、お前らと共に歩みてェ

下らねェ人間社会での生活を捨てるには十分な理由だろう?

俺は付いていくぜ!例え人間すべてを敵に回すとしても俺だけは付いて行ってやらあ!」


男の心が燃えているのが分かる

しかし眷属たちはともかく俺はそんなに綺麗じゃないんだがな

男の言う所の汚れがもう結構付いてしまっている気がする


だが、せっかくやる気になってくれているのだ。水を差す事もあるまい

一緒に汚れを落としていくのもアリだ。共に頑張って行きたいと思う


「すいません、私も一緒に連れて行ってもらっていいですか?」


気が付けばいつの間にか俺たちの周りには人が集まっている

どうやら聞き耳を立てていた様だ

しかしこの底辺の人たち全員ここに残るの?マジで?

まだ一人もダンジョンを出て行ったアナウンス聞いてないし、俺の記憶が正しければこれで面接した者は全員揃っている

セイレーンの言った通りまさかの脱落者一人も無しか?

う~ん、そんなうまい話があるんだろうか?と疑問に思ったのでそれぞれに話を聞いてみる事にする



「理由と言われても、何から話せばいいのか・・・

そうですね、まず人間社会では上の人間は下の人間に対し何をしてもいい、何を言ってもいいという風潮があるんですよ

特に私たち底辺は人間扱いすらされていません

殴る蹴る罵倒は日常茶飯事の当たり前。少しでも反抗すれば集団で何倍もの仕返しが返ってきますし下手すればクビです

一週間で100時間以上働かされる事もよくあります

勿論サービス残業でそれを命令した上司は部下に全て丸投げで自分は定時には帰っちゃうんですけどね」


どこの世界でもブラックはあるんだなと思いつつ話の続きを聞く


「ですので、基本的に社内で仲間と呼べる者は同じ底辺の人間だけで上司などは仲間とは思っていません

と言うかそれ以下、敵です

まあ彼らは業務会などのみんなの目に留まる場所では「皆で力を合わせて頑張って行こう」なんてほざきますがね、屑としか言いようが無いです」


実はこの手の話は底辺企業に限らずどこででもよく聞く

例えば一流と呼ばれる企業へ入ってもそこでの底辺はやはり存在し、似たような目に遭っている者は存在するのだ

特に社内政治に長けていない者はこういった被害に遭いやすい

いわゆるストレス解消の道具兼、面倒な事を押し付けられる役割という訳だ


「ですが、先程の皆さんのやり取り・・・

あなたの眷属たちは皆、上司であるあなたの事を大事に思っている

あなたの為に頑張ろうと心から思っている。その様子を見て深い感銘を受けました

それを見ただけであなたという人を信頼するには十分ですし、私もどうせ働くならあなたの様な部下に慕われる信頼できる上司の元で働きたいとそう思ったのです」


「俺も似たような感じかな。付け加えると今の所で働き続けるよりこっちの方が生活も充実しそうだしな

生活費でカツカツで貯金も貯まらないし、何よりストレスが半端じゃないからな人間社会は」


「分かる、セクハラも酷いんだよ!あのハゲおやじ死ねばいいのに!ここで強くなったらぶっ飛ばしに行ってやるんだ!今までは立場もあったから出来なかったけどさ!」


「分かるわ、色々思う所はあっても後の事を考えると結局泣き寝入りしちゃうんだよね。私の場合はそういうしがらみから逃げたいってのもあるかな。現実逃避って笑う奴はいるだろうね。でも人間、逃げる場所は必要だと思うんだ。私はここを逃げ場のない人たちの居場所にしたいって思ってる。ね、マスターさんダメかな?」


祈るような目で見て来る底辺の者達

なるほど、残りたい理由は分かった

気持ちは痛いほどよく分かる。重い理由が無いとか思ってごめんな


「話は分かった。皆の事を受け入れるのは問題ない

でも、居場所云々は攻めて来る敵を何とかしないと難しいと思う

ぶっちゃけ今のままだとダンジョンの存亡自体怪しいしな

俺たちが負ければ職を失い路頭に迷う事になるんだし、もう少し慎重に考えて決めた方がよくないか?と一応忠告はしておく」


居場所を作ってやりたい気持ちはあるが、それを守る武力が無ければ全て砂上の楼閣だろう

俺的にはいつになるか分からんが戦いの決着が着いてからにした方がいいんじゃないかと思う


見れば冒険者で無い一般人も居るみたいだし、流石にここまで言えば出て行くかな?と思いつつ皆の反応を待つ

するとそんなの考えるまでも無いとばかりに最初に話した男が威勢よく立ち上がり俺を見下ろし言った


「俺は付いていくぜ。さっきも言ったが俺は綺麗になりてェんだ、ここで逃げ出しちゃ綺麗になれねェだろ?

それに人間どもにお前らが汚されるのは許せねェ

お前らには綺麗なままで居て欲しいんだ。汚れた連中と戦うのは既に薄汚れてる俺みたいな奴の仕事だろ?任せとけっての!」


「私も行きます!人間と戦う事は出来ないかもしれませんが、これでも弓道で国体へ出場し3位入賞した事があります!技術指導なら任せてください!」


「俺も戦いは自信無いが建設工事なら20年は経験がある。何なりと言いつけてくれ」


「僕は物流の仕事をしていますので物資の運搬、搬入はお任せ下さい!」


「俺は林業を長い事やってる。枝打ちや伐採、森林の管理については任せてくれ」


「僕は庭師をやっていますのでダンジョンの景観をよくする事は出来ると思います!」


その後も私も!私も!と攻めて来る敵の事など眼中にないとばかりに皆が名乗りを上げる



俺の召喚した眷属たちは進化やダンジョン内貨幣での購入によってスキルや知識が習得可能だ

しかしそれは言ってみれば専門学校で知識だけ習った様な状態であり、現場でのそれとは少しずれている場合が多い

こういった実際に現場で働いていた技術者が眷属に加わる事により、そういうズレの修正を行えるので加入は実はありがたい


でも本当にいいのかね?戦いの事なんか頭から抜けてるんじゃないか?ともう一度注意を促そうとするとその動きを手でスッと遮られる


「大丈夫ですよ、戦いの事についてはみんな納得済みの様です。恐いけど、それでもここへ残りたい気持ちの方が大きいみたいです」


「は?なんでよ?」


意味わからん。疑問を投げ掛けるとユズは一瞬困った顔をするがすぐに笑って切り返してくる


「何でと言われても言葉で説明できませんよ。きっとテンション上がってるんでしょ」


「ああ、なるほどね~って!なんじゃそりゃー!」


「だから甘いです!」


「ぐお!ギブギブ!」


テンション上がってるなら仕方ないな。ユズにヘッドロックされつつそんな事を思う


こうして底辺作業員たちが仲間になった














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