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面接その1 ホームレス

「じゃあ一組ずつ入ってもらう感じで」

「了解。呼びに行ってくるわ」


入り口2号。つまり森側に新しく作った入り口の事であるが、そこから入ってすぐの所に部屋を作りそこで面接をする事にした

椅子などは無い。立ったままの面接になるが勘弁してもらいたい

なんせ数が多すぎるのだ


「失礼します」

「はい、どうぞ」


まず最初に入ってきたのは見るからにみすぼらしい恰好をした者達だ

その数20人はいるだろうか?その目に覇気は無い

護衛の為 傍に控えているゴブ太やエア、アーサーを見て怯えている様が見て取れる


『害意のある人はいないみたいです』

『そうか、分かった』


ユズにも確認を取りスパイが紛れていない事を確かめたら面接開始だ

というかこの時点でほぼ合格と言ってもいいんだけどな

後はこいつらがタダ飯喰らいじゃなければ迎え入れてもいいだろう


「ええと、ツンツン頭・・・トシから話は聞いてるがここへ住みたいんだって?」


トシの説得に応じここへ来たという事はそのつもりで来たのだろう

こちらもそのつもりで話を進めていく


「は、はい。私らはいわゆるホームレスという奴でして・・・

ここへ来れば住む場所と食うもんが用意してもらえると聞いてそれで・・・」


「・・・」


思わず黙り込んでしまう。つまりこいつら物乞いか?

いくら味方が欲しい状況とはいえこれは・・・


いや、いかんいかん!そういやトシが事情があるって言ってたな

偏見で物を考えちゃいかんよな。もう少し話を聞いてみるとしよう


「言いづらいかもしれないが、それぞれホームレスになった経緯を聞かせてもらってもいいか?」


ホームレスという立場に同情はするが、なった理由がギャンブルに夢中になり借金しましたとかなら受け入れるつもりはない

腐ったミカンの例え話にあるように集団の中に一人でも腐ったのが居ると他の奴まで影響を受けてしまう可能性があるからな

一旦受け入れれば長い付き合いになるだろうし、酷な様だがその辺は厳選していきたい


「は、はい!では私から・・・

私はホームレスになる前は医者をしていました

自分で言うのもなんですが長年真面目に勤務をこなし、大手の病院で出世コースにも乗っており順風満帆な人生を送っておりました

そんな私でしたが落ちる時はあっという間でした

たった一つの出来事がきっかけでそれまで築き上げてきたものは一瞬で崩れ去ってしまったのです

しかし私は後悔していません!医者として間違った事をしたと思っていないからです!」


男は当時の事を思い出したのか拳を握りわなわなと震え出す


「ある日の事です、当直だった私の元に2名の救急患者が運ばれて来ました

一人は足を骨折した患者で痛みはあるとの事でしたが命に別状は無く、もう一人は瀕死の重傷で早くに処置しないと命が危うい状態でした

私はすぐに重症の方の患者を治療しようとしたのですが、そこで院長からストップが掛かりました

院長は言いました

「骨折の患者は大物政治家の息子でうちも世話になっている。彼を先に治療しなさい

重症の彼はかわいそうではあるが、なあにその辺はいくらでもごまかしが利く

君が気にする事ではないよ」と・・・

しかし私は院長の指示に従わず重症の患者を先に治療しました

それが医者として、人として正しい事だと思ったからです!

治療は成功し重症だった彼は一命を取り留めました。彼にもその家族にも大いに感謝されやった甲斐があったと思いました

しかしその代償として私はそれ以来院長に疎まれ、身に覚えのない部下のミスからクビを言い渡されました

追い打ちを掛ける様にそのミスに対する巨額の損害賠償の請求で貯金は空に資産も没収され

新たな職場に再就職しようにも院長や政治家の手が回されていて面接すら受けさせてもらえず

家賃も払えず滞納を重ねた結果、住居は強制退去させられ

家も金も資産も失い、身一つで追い出され仕事にも就けず・・・今に至ります。ううっ・・・」


話しながら色々と思い出したのであろう。男は泣き出してしまう

こんなことホントにあるのか?っとユズに確認を取るが嘘はついていないとの事。胸糞悪い話だ


「あんたのやった事は間違っちゃいないと俺は思うよ。少なくともあんたは一人の男の命を救ってるんだ

もっと胸を張ってもいいんじゃないか?」


「そうだぜおっさん!あんたが救ったその人もあんたの泣いてるトコなんて見たくない筈だぜ!」


「うう、ありがとうございます・・・」


俺とトシの言葉に医者の男は少し立ち直り涙を拭う


人間社会ではこういう正しい人間よりもうまく立ち回る人間の方が優秀とされる節があるがダンジョンでは違う

こういう人間こそ評価され報われるべきだと俺は思っている

これからのここでの日々はこの男の正しさが報われるものにしてやりたい所だ

ここへ来て良かったと思わせてあげたい


「あんたは合格。一旦奥の部屋で待機しててくれ」

「は、はい!分かりました!」


医者の男は眷属に連れられ面接室の奥に作った待機用の部屋へ向かう

この面接が終わった後に今後について話をする予定なのだが、それを聞いても心変りが無ければ晴れて眷属の仲間入りだ


しかし、はあ・・・・

一人目でお腹いっぱいなんだが・・・これ全員分聞くの?

自分で言いだしておいてアレだがもう聞きたくない・・・話が重すぎる


『なあユズ。俺の代わりに聞いといてくれない?後で概要だけ教えてもらえればいいから』


『絶対嫌です。自分が嫌だからって私に押し付けないでください。というか私、部屋から出てていいですか?』


『いい訳ないだろ!お前がいないと嘘つかれても分からんだろが!逆に言うと俺は嘘つかれても分からんし居る意味ないだろって事だ。っていうかお前ひとりでよくね?って事だ。って訳で後は頼むわ』


『って訳で、じゃないですよー!嫌だって言ってるでしょ~!』


『ぐわっ!くそ、離せ~!』


『離しません~!』


見苦しく争う2人。しかし、そうこうしている内に二人目の話が始まってしまう


「では次は私の話を・・・

私は数年前までサラリーマンをやっていましたが、ある日の事・・・」


『ぐわ~!やめろ~!SAN値が~!削れてしまう~!無くなる~!』


どうやら思った以上につらい面接が始まってしまった様だ












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