◆同じ空の下にいる
「俺は元々山の町の出身でな。オッサさんの活躍を目にする機会は多かった。あんたらの事も遠目にだが見たことはあるよ」
「ふんふん」
「最初はな俺たちもいつかはオッサさんの様になるんだ!って一緒にバカな夢を見てくれる友達がいたんだ。そいつらと一緒に山を出た
でも経験を重ねる毎に自分の限界を感じてしまったんだろうな
俺以外の奴はさっさと諦めて分相応な所に落ち着いてるよ」
「まあそれが普通の反応だろうね。で、おじさんは?もう夢は諦めちゃったの?」
「まあ俺ももう38歳、40近いし夢を追うような歳じゃないかもしれない
バカな夢見てないで現実見ろよなんて何度言われたかは分からないよ
でもな、元々出来が良くないもんでな。なかなかバカからは卒業出来ないんだわ
バカは死んでも治らないなんて言うけどな。その通りだと思うぜ
死んだ今でもその夢はまだ諦めきれてねェよ・・・」
「ふ~ん、そっか。う~ん、どうしよっかな?」
土鏡響は腕を組みう~んと唸り何か考え込んでいる
それにしても彼女たちは俺の話を聞いてもバカにする素振りすら見せない。真剣に話を聞いてくれている
不思議な奴らだ。自分たちと比べれば雑魚同然の俺の夢など普通ならバカにするだろうに
「バカにはしないよ!だってその夢は私達と同じだしね!よし決めた!おじさん見逃してあげる!ね?春花いいよね?」
話を振られた風波春花は頭をボリボリかきながら返事をする
その何気ない動作さえも美しいと思ってしまう
「全く甘いなお前は・・・
だがまあいいだろう。私としても同じ夢、志を持つ同志を殺すのは抵抗があるしな」
「やったね!じゃあおじさんもう行っていいよ!よかったね!」
「へ?見逃す?え?いいのか?」
思わぬ展開にパニくってしまい頭が回らない
「うん、でも最後に一つだけ!町へは来ない事!せっかく見逃したのに討伐しなくちゃならなくなっちゃうからね。ああ、あとは夢を諦めない事!
それだけはちゃんと守ってね!」
「一つじゃ無いじゃないか」
「もう!春花はすぐそうやって揚げ足取る!」
「ははっ悪い悪い!ああ、七海もそういう事だからもう出て来てもいいぞ!」
「ん」
「うお!」
至近距離からもう一人少女が出て来る
なんだ今のは!こんな近くに居たのに気付かないとか怖すぎるだろ!
「ふふ、怖いだって」
「な、なんで怖いって言われて喜んでるんだ?」
「ああ、七海は普段可愛いとしか言われることは無いからな。それ以外の反応を示せば大体喜ぶ、痛た!つねるな!ホントの事だろが!痛た!やめろォ!」
「ははっ」
こうしてふざけ合ってるのを見ると普通の少女たちのように見えるが全員俺なんかぶっ殺せる力を持ってるんだよな。複雑な気分だ・・・
というか、もう行ってもいいんだろうか?
彼女たちの気が変わる前にそろそろお暇したいのだが・・・
そ~っと忍び足で距離を取りさり気なくその場を後にしようとすると、背後から土鏡響の声が聞こえてくる
どうやら別れの挨拶をしに来てくれたようだ
「おじさん、さっきも言ったけど夢を諦めちゃダメだよ!
オッサさんを目指すんならさ、アンデッドになった程度で!その程度の障害で立ち止まっちゃダメだよ!
少なくとも私たちはその程度の障害、何度も超えてきた!オッサさんも!
その程度で立ち止まる人にあの人を目指す資格なんてないからね!」
アンデッドになった程度だと?何を言ってるんだ?本気で言ってるのか?
ぐっ、もしそうだとするなら今までの俺の本気など彼女たちのそれに比べれば児戯にも等しいのでは無いか?
くそ、あまりの情けなさに自分が嫌いになりそうだ・・・
「そんな所まで似てるんだね。私たちもさ、おじさんが思ってるほど格好いい存在じゃないんだよ
何度も自分の情けなさに悲観して来たし、夢をバカにされた事も一度や二度じゃあない
最近だと心も読めるようになったせいか、余計に分かっちゃうんだよね。そういうのさ・・・
だからこそ今日、本気で夢を語るおじさんに会えて
私たちと同じ夢を持つ同志に会えてうれしかったんだ!」
「同志?アンデッドの俺がか?」
「ふふっ、種族は関係ないよ!私たちももう人間かどうかは怪しいしね!」
そう言って無邪気に笑う姿に心を揺さぶられる
同志か。こんな俺の事をそう言ってくれるのか。素直にうれしく思う
だが出来る事ならもう少し早く出会いたかった
俺はもう人間社会では生きられないからな・・・
「そうだね。それは私も残念に思う
でもさ、私は忘れないよ!おじさんに会った事!ここで話した事!絶対忘れない!
私たちの道はこれから交わることは無いかもしれない
明日にはきっと別々の雲を見ていると思う
でも、同じ空の下に居るから!おじさんも私の事忘れないでね!それじゃあ!」
声が遠ざかっていく・・・
「ああ、俺も忘れないよ・・・」
これからつらい事や悲しい事、道に迷う事があってもこの出会いを道標にして頑張って行けるだろう。そう思う
これが生前なら間違いなく号泣していただろう
だがアンデッドのこの身からは涙は流れてくれなかった
こんなに悲しいのに涙は流れてくれなかった
本当にモンスターになったんだなという実感がここで初めて湧いた
だけど絶望は無かった
彼女が俺の心に灯をともしてくれたからだ
冷たいアンデッドの体に熱が残っているのを感じる事が出来る
彼女が残してくれた熱だ
離れた後も確かにここに残っている!この温もりがあれば俺はどこだろうと生きていける!
人の心に温もりを宿せる存在。生きる力を与えてくれる存在
きっと彼女のような者を人は英雄と呼ぶのだろう
いつかは俺もそんな存在になれるのだろうか?
いや、ならねばなるまい
彼女の気持ちに、同志と呼んでくれたその気持ちに応える為にも!




