蘇る恐怖
ユズは通路を塞ぐように立ち俺の方を見ている
額からは汗を流し息も乱れてる様に見える
どうした?何があった?
「何かヒミカ達の事で問題でも起きたのか?」
「いえ、そうではありません。マスターさん・・・」
ユズは近づいた俺の手を取り真っすぐに俺の目を見つめてくる
「う!な、なんだ?」
握ったその手はとても暖かく俺の事を大事に思ってくれているのが伝わってくる
それと同時に伝わる息遣いや激しい鼓動は何か恐ろしい事態が進行しているのを嫌でも感じさせる
「マスターさん、そっちへ行ってはいけません!戻って来れなくなります!例え危険が待っているとしても山のダンジョンへ行くべきです!少しでも強くなれる可能性に賭けるべきです!」
そして叫ぶ様に訴える様に語り掛けてくる
ここに来て俺の中に懐かしいあの感覚が蘇るのを感じる
この世界に来たばかりの頃に何度も味わったあの感覚、死への恐怖だ・・・
「戻って来れなくなる?ちょっと待ってくれユズ、話が見えない。あと手が痛い・・・」
「あ、すいません」
ユズは興奮していたのかすごい力で俺の手を握り潰していたが離してくれた
俺はお~痛ってえ~!どういう握力してんねん!なんてふざけてみたり
手をフーフーしながら おちゃらけて見せる
しかしそうやって冷静を装おうとしても一度顔を出した恐怖心は収まることを知らずどんどん大きくなっていく
鼓動もどんどん激しさを増していく
「す、すいません。私は特殊な環境で育ったせいか死の気配には敏感なんです。今マスターさんが選ぼうとしている道の先は一方通行です。行けば戻って来られなくなります。私の勘がそう言っています」
それって死ぬって事だよな?
だが俺にはコンティニューの能力がある。例え死んでも・・・
しかしユズは首を振って俺の考えを否定する
「あまり御自分の能力を過信しないでください。マスターさんの能力は確かに強力ですがこの世界には・・・」
「いや、ちょっと待て!ユズ、お前には話していないが保険は掛けてあるんだ。例えマスターの能力行使を阻止する者が現れたとしてもおっさんがサポートする手筈になっている。だから戻って来れないって事は・・・」
ゴリはここまで話してハッとした表情を見せる
「ま、まさか・・・」
ゴリもここでいつもの軽い感じとは違う物凄く真剣な表情を見せる
これも演技ではないのが本能で分かってしまう
ああ、嫌だな。これがゴリがユズに頼んだ仕込みで俺を山へ行かせる為の演技だったらなんて少し期待していたがどうもそんな感じではない
これはまじな奴だ・・・
ユズの方も見てみるといつもの朗らかな感じではなく真剣な、それでいて俺のこの先の運命を嘆く様な何とも言えない悲しそうな表情で俺を見ていた
「マスターさん。マスターさんの能力は強力とは言え所詮『ギフト能力』です。高位の存在、あるいはそれに匹敵する力を持つ者なら簡単に引き剝がせるでしょう」
高位の存在ってのは高位生命体の事だろう
ギフト能力とはなんだ?まあ大体想像は付くが
「ギフト能力とは誰かにもらった付与された能力の事を言う。マスターの場合は先天性スキルコンティニューの事を指す」
うぐっやっぱりか・・・
「ギフト能力はな言わば付け焼刃なんだ。誰にでも与える事が出来る反面剝がすのも簡単だ。高位生命体レベルでの話だがな・・・」
ゴリは俺に説明しつつも心ここにあらずといった様子だ
説明を終えた後ブツブツと独り言を始める
完全に一人の世界に入っている様だ
「だが高位生命体がマスターの敵になるとは考えにくい。ここに来ることがあったとしても・・・なら一体誰が?他の世界からの侵略者?だがこの世界には竜姫やクロが居る、負ける事は考えられない。そもそも・・・」
「ゴリさん」
「・・・」
一人の世界に入ったゴリにユズが呼びかけるがゴリは反応を示さない
「ゴリさん」
「・・・」
「ゴリさん、聞いてください」
「・・・」
ユズの重なる呼びかけにも反応を返さないゴリだったがユズは構わず話を続けようとする
「ゴリさん、私の勘ですが敵は・・・」
「言うな!・・・それ以上言わないでくれ、ユズ・・・頼む!」
「・・・」
しかしゴリはユズのその言葉を懸命に遮る
こんなにつらそうなゴリは初めて見る。何か余程認めたくない事実があるのか?
ユズもそんなゴリの心中を察したのか押し黙ってしまう
「すまん、少し一人にしてくれ・・・頭を冷やしたい」
「は、はい。行きましょう、マスターさん」
「え?あ、ああ・・・」
ゴリの言葉に従い・・・いや、その重い空気から逃げる様に俺たちはゴリを残しコアルームへ戻ることにした




