私は私
「ここがレベル上げに使ってもらうスポナーになっている
君らがここにいる間は一定時間毎にモンスターが出現する様にしておく
ノンアクティブだし、一匹ずつ出る様にするから危険は少ないとは思うが外に居る同種とはリンクするので戦う時は出入り口をちゃんと塞いで中が見えない様にする事
一匹ずつ戦う事。このスポナーから出る以外のモンスターは狩らない事
あと寝泊りは下の部屋が完成したらそこでしてもらって構わないがダンジョンの出入りは一日一度はしてもらいたい
あと、死んでも復活するとは言っても万が一って事もあるのであまり無茶な事はしない様に
分かったかな?」
とは言え言葉にすると長いので後で張り紙でも張っておこう。その方が後発組も分かりやすいだろう
「分かりましたっす。というかランク2モンスターに私らがやられる訳ないっすよ。心配しすぎっす!象なんかの巨大種やユニークモンスターが相手なら話は別っすけどね」
「前にユニークモンスターで通常の10倍くらいの大きさのカマキリと戦った時は3人とも死に掛けました・・・」
「結局倒せなくて逃げ出した。まじ怖かった」
「ここで修行してリベンジするっすよ!」
「うん!」
「俺はやだ。怖い」
「だからそういう所が男らしくないっすよ!」
「ぐえっ、やめ・・・ギブギブ!」
今いる二段目段差は ̄部分北側の壁に沿うようにあり、上部の幅は3メートルくらいで南側が塀、北側が壁となっている
壁にはスポナー部屋へ繋がる穴がいくつか空いており(一段目の段差や南側の段差にも同様の穴が空いている)今そのうちの一つに入ってレベル上げの説明中である
モンスターたちは下減数を下回った際にこのスポナーから生まれ、段差下の広間へ旅立っていく訳だ
一応生まれた後一日間は襲われない様に設定してあるが自分から攻撃を仕掛けた場合は相手も反撃してくるので餌を狩る際に返り討ちに遭うというケースは多く生まれたばかりの個体の死亡率は高い
同種の群れに合流できればいいのだがその前に死んでしまう事が多いのだ
ダンジョンが広がってモンスターの生息域が固まってくればその近くに同種モンスターのスポナーを配置する事で生後すぐの死亡率は下げられそうだが今の所は分かりやすさ重視でこのような非効率な作りになっている
というのは俺一人ではそこまで細かく把握しきれないのだ
生息域も時期によって変化しそうだしな
レベル上げの件もあるしスポナー管理用のモンスター配置は必須かなこれは
「え~と、じゃあ俺はコアルームに戻るけどゴリにはさっきの話の返事をしておきたいから付いて来てくれるか?ヒミカ達の付き添いはユズ一人いれば大丈夫だろ?」
「そうだな、ではユズ悪いけど頼めるか?」
「うう、分かりました」
「すぐ戻って来るよ」
「頼みますよ~」
普段は快活なユズのこの様子からもユズはヒミカに対し苦手意識を持っている様に思える
1人にするのは酷な気もするがこっちも今から重い話をするので少しでもプレッシャーは減らしておきたいんだ
悪いけど今は我慢してくれ
◇
俺たちが立ち去った後ヒミカがユズに話しかける声が聞こえる
この能力便利だけどこういうのは盗み聞きみたいでよくないよな。なんとか制御する方法はないものか。後で検索してみよう
「あの、やっぱりユズさんは私の事苦手っすか?」
「い、いえ、そんな事は・・・」
声だけだがユズの狼狽している様子は伝わってくる。ホントに何なんだろうな?
「はあ、やっぱり苦手なんすね・・・仕方がない事とはいえ少し傷つくっす」
「あ、あの!あの!」
「ユズさん、自分はママたちとは違うっすよ。私は私っす。ママたちはユズさんの事を嫌ってますが私はユズさんの事大好きっす!だからもっと普通に接してほしいっす」
「うう、ヒミカちゃんごめんね。私、ダメな人間だよね・・・ホントにごめんね。私も、ヒミカちゃんの事大好きだよ」
「ああっ全然だめじゃないっすよ!泣かないでくださいっすーー!」
◇
なんか向こうも気になるんだがこっちはこっちで大変なので集中することにする
「なあゴリ。山のダンジョンの件だが・・・」
「ん?ああ・・・」
はあ、気が重いなあ・・・
だけどいつかは言わなきゃいけない事だ。勇気を出すんだ!言うぞ、言うぞ!
「やっぱり行くのはやめようと思う。話を聞いて行ってやりたい気持ちは強まったけどそれでも眷属の命と天秤に掛けると軽い気がするんだ。ホントすまん」
言えた!
そして歩みを止め頭を下げる
オッサの事情を聞き行ってやりたいという気持ちがあるのは本当だがそれでもなお今行くのはリスクが高すぎるというのが俺が出した結論だ
だが今は無理でも力をつけて必ず山へは行ってみせる。だから今は、すまん!
俺は頭を下げたままゴリの返事を待つ。怒鳴られても文句は言えまい
うう、こええなあ・・・
だが俺の心配とは裏腹に後頭部には優しい声が響く
「うん、そうか。分かったよ、頭を上げてくれマスター。こっちこそ色々悩ませた様で悪かったな」
ゴリはそう言って笑って済ませてくれる。その笑顔には一切の演技が含まれていないのが分かる
重い気持ちが晴れていくのを感じる。こいつは本当にいいやつだよな
重しの無くなった俺は顔を上げ歩みを再開しようとした
しかしその道の先にはどうやって先回りしたのか
先程までヒミカと話していた筈のユズが道を塞ぐように立っていた
いつになく真剣な表情をして




