胸糞悪い話
「山のダンジョン初代マスターソフィアは優しく、聡明で美しい人物だったと聞く
まあ俺も噂に聞いてるだけで会った事無いんだけどな」
「そうなのか?」
「ああ、俺は初代が生きてる頃は森の都でバリバリ働いていた
風波家のサポートのある響達と違い生活の事を考えにゃいかんかったからな
なかなか都心部を離れる訳にはいかなかったよ」
まあ好きな事だけして生きていくって訳にはいかんよな
今までの話を聞いた感じだと初級冒険者の間はそれだけで食っていくのはつらい様に思える
何か他の仕事と掛け持ちでやってる奴が大半なのではなかろうか?
多分だが高ランクの人間が少ないのはその辺りにも原因があるのだろうな
「そうだな、掛け持ちというより趣味のような感覚でやってる者も多い
ランクの低い仕事はぶっちゃけ一般人でもこなせるし報酬も少ない
最近では経費削減の為に簡単な仕事は自分たちでやる業者も増えてるしな
ある程度ランクが上がるまでは冒険者稼業だけで生計を立てるのは厳しいよ」
「ほうほう」
「それに、独占を抑制する為に個人が受けられる依頼の件数も制限されてるから腕がいい者でもどうしても実入りは少なくなる
逆にそれを逆手に取ったグレーなバイトも存在する訳だが」
「というと?」
「例えば冒険者Aは依頼を10件こなせる力があるが制限のせいで依頼を5件しか受けられない」
「ふむふむ」
「そこで冒険者Bを雇い依頼を5件受けて来てもらう訳だ。
勿論その依頼はAがこなす訳だが依頼を受けて来てもらったお礼として報酬の一割を渡すといった契約をする。
Bからすれば依頼を受けて来るだけで報酬の一割を貰えるし、インチキとは言え依頼をこなした件数が増えれば冒険者ランクも上がるし悪い話ではない
まあこうやって冒険者ランクを上げた者はランクの割に実力が低いので丸わかりなんだがな
そして陰でああ、あいつバイト出身だな。なんてバカにされる訳だ」
「なるほどね~」
「このバイトのせいでな~素早く依頼を終わらせても褒めてもらえる事ってあまり無いんだよな~
これが小説とかだと「こんな短時間でもう終わらせたんですか?すごい!」ってなるんだろうけどな
早く終わらせても「ホントに自分でやったんですか?」って目で見て来るんだよな
ギルドの受け付けもさ~一応接客業なんだからそういう本音は態度に出すのはやめようぜと思う。まじで!あいつら態度悪すぎ!」
「ま、まあ落ち着け」
なんか話しながら昔の事を思い出してヒートアップしてきたらしい。あるある。あれ?なんの話してたんだっけか?
「ああ、ちょっと脱線したな。戻すぞ」
「ちょっとか?」
「ちょっとだ」
「ふむ」
「・・・」
◇
「おっさんは山の町で長年暮らす内にソフィアと知り合い恋に落ちたそうだ
その辺りの詳しい経緯は知らん。おっさんも話したがらないしな」
色恋沙汰の話は話してる当人は楽しいもんだけど故人の話となれば別だよな
「そうだな。実際ソフィアが生きてる間はおっさんは幸せ絶頂だったって話だ
響や春花が不機嫌そうに話してたのをよく覚えてるよ」
ん?実はオッサって結構モテるのか?
色恋沙汰とは無縁のイメージだったがモテ男だったのか
「おっさんはあれで結構モテるよ。って!その話もどうでもいいだろ!」
どうでもよくは無いがまた脱線してもあれなので続きを聞く事にする
「では話の続きだが、おっさんは充実した日々を送っていたがその幸せは長くは続かなかった
ソフィアが二代目へダンジョンマスターの座を譲渡したからだ」
「譲渡?」
「そうだ」
「するとどうなるんだっけか?」
「ダンジョンマスターの座を他者へ譲渡するという事はマスターの心臓ともいえるダンジョンコアを他人へ移植するという事だ。つまり・・・」
「死ぬのか・・・」
「ああ、元々は自殺する為のシステムらしい」
自殺だと?
「なんでそんなシステムが必要あるんだ?」
「ジジイが言うにはダンジョンマスターは永遠の生を生きるからこそ その長すぎる生に疲れてしまう者が多いそうだ
そういった者を救済する為のシステムらしい」
「・・・」
なんか嫌な話になって来たぞ。つまり初代は自殺したのか?
「その二代目ってのは何なんだ?そのソフィアって人がそこまでする程の人物なのか?」
ダンジョンマスターになれば永遠の命を手に入れる事が出来る
それを他人に譲渡したという事は・・・
しかしここまで考えた所でゴリは首を振りそれは違うとでも言いたげに表情を歪め質問に答える
「二代目は今でこそボロカス言われてるが事件が起きるまでは勤勉で穏やかな好人物だったと言われている
山のダンジョンとアビスの戦いにおいても義勇軍を募り自ら先陣を切り戦いに加わり、戦いが終わった後も山の町に残りダンジョンと人間の橋渡し役として一役買ったと言われる
ソフィアにとっては長年連れ添った最も信頼できる人物の一人だったろう。だがな・・・」
「・・・」
「例えば二代目の命を救うためにソフィアが自らの命を犠牲にした。とかそういういい話を期待してるんならやめておけよ。これはマスターの予想通り胸糞悪くていや~な話なんだよ」
「むぐ・・・」
「ソフィアは殺されたんだ二代目にな」
「・・・コア移植を強要されたって事か?」
「その通りだ」
「・・・」
「二代目はもういい歳で病にも侵されていた。死から逃れる為そして、永遠の命を手に入れる為の犯行だったと言われている」
ああ、そういう話か。確かに胸糞悪いわ
「でもそれって自殺を強要するって事だろ?かなり成功率は低い気がするんだが」
下手にダンジョンマスターにちょっかいを出せば眷属に殺される危険もあっただろう
逆によく成功した物だなと思う
こういうファンタジーな世界なら命を永らえさせる手段は他にもありそうなもんだが
例えば眷属になるだけでもダンジョン内限定だが寿命で死ぬことは無くなるしな
まあ、それだとダンジョンからは出られなくなるが
「う~ん、マスターには理解しづらいかもしれないがダンジョンマスターの危険度は最高ランクのSSランクに認定されている程だ
生まれた瞬間こそ貧弱だが生物としての格は俺たちにも勝るとも劣らない非常に強大な力を持つ種族であると言える
だから二代目も多少の危険を冒してでも目指す価値はあると考えたんじゃないかな」
「むぐぐ・・・」
そういうと上昇志向がある様で聞こえはいいけど、長年付き添って来た相手を殺す道だからな
胸糞悪い感は否めない
「ああ、そうだよな・・・
実際取った手段も卑劣な物だった
二代目は己の立場を利用し長年研究した魔道の知恵を用い、山の町に病を蔓延させていった
大勢の人間を総括する立場に居た上に当時は二代目の仕業だと疑う者も居なかった筈だ。実行は容易かったろう」
自分で催促しておいてなんだがもう聞きたくなくなって来た。つらい・・・
「その病は当時の医学では治せず、発病後は一か月持たずに命を落とすものだった
感染に至る原因も分からず多くの者が病に倒れていった
そして・・・」
ぐおーーー!もうやめてくれーー!
『ダンジョンに侵入者が現れました』
お、おお・・・
ナイスタイミング・・・




