◆アルスvsオッサ その2
今アルスの発動した魔法は空間把握魔法
その名の通り空間把握能力が跳ね上がる魔法である
その効果は試合場全体に及び自分と相手の体がどのように動いているかを緻密に理解し、どのようなベクトルの力が掛かっているかを感じられるようになる
一見地味だが相手が打撃屋ならこれだけで完封出来てしまうほどの効果の高い魔法だ
試合の序盤はこういった補助魔法の掛け合い、あるいは潰し合いになるのがセオリーだ
相手が魔法を構築してる時点で急いで潰しに行くか対抗、解除する魔法を発動しなければならないのだが素人だとそこまで頭が回らないか
オッサは距離をつめるもののやはり自分から仕掛けようとしない
まあ一旦空間魔法を解除してから仕掛けないと攻撃も当たらんとは思うがあまりにも受け身すぎる
もたもたしてる間にアルスは2つ目の魔法を発動させる
今度は灼熱魔法
別名暖房魔法とも呼ばれ、本来暖房代わりに使用される生活魔法だが強めにかける事で戦いにも使用できる
その効果は一定空間内の気温の上昇。今試合場の中はサウナの様な状態になっている事だろう
魔法は例えば炎の魔法を使う者は炎に対して強いといった具合に自身が使う属性に対して耐性が付いてくるものである
これは恐らく自分の使う魔法で自身が傷つかない様に体が対応している為だと思われる
つまりアルス自身は気温の変化に強い為この魔法が発動している限りオッサは一方的に体力の消耗を強いられる事となる
こうなると流石に自分から攻めざるを得ないのではないか?さあ、響たちが認めるその力を見せてみろ!
◇
空間魔法に続き灼熱魔法も発動に成功する
やはり素人だな。経験者ならこう簡単にはいかない
最近の試合では開幕と同時に距離つめて魔法を潰しにいくのはセオリーになってるからな
ここ数年の試合ではここまですんなり魔法を発動できた事は無かった
無詠唱でも使えれば別だろうけど難しいんだよな~
普通の詠唱短縮でさえ動きながらだと難しいのに無詠唱となるともう神業レベルだ
使えるとすれば伝説の魔女くらいのものだろう
それにしてもこいつ動かないな・・・
威圧感に押され本気モードで始めた戦いだったが何だかイジメみたいになってきたな。このまま続けてもいいものか?
俺はちらりと試合場の外にいる響ちゃんを見る。相変わらず可愛いな~
じゃなくて!う~ん・・・特にこの男を心配してる風には見えないな。どうなってんだ?
と、ここで男から声がかけられる
「遠慮はいらん。このまま続けてくれ」
「ん?あ、ああ・・・」
少し弛緩した俺の空気で察したのかオッサと呼ばれる男は続行を促してくる
「限定された空間内での戦いに特化した戦闘方法か。奥深いものだな、総合とは・・・実に勉強になる」
こいつ!楽しんでるのか?
既に試合場は相当な高温に満たされ並の人間なら息をするのもつらいハズだが男は不敵に笑い俺の次なる行動を待っている様だ
面白い!そっちがその気ならこちらも遠慮なくいかせてもらうぞ!
「ダークスモーク!」
今度は煙幕魔法を発動させ試合場を闇の煙で満たしていく
とは言ってもこの闇は幻影魔法の一種で本物の闇ではない。この男と俺にしか見えない闇だ
ちなみに本物の煙幕を発生させる魔法は試合では禁止されている
言いたくないが格闘試合は見世物としての顔もあるからな。見えないと見世物にならないだろって理由だ
本来この魔法は冒険者たちが仲間をサポートする為の魔法でソロで使用されることは少ない
なぜなら術者にも闇が見えてしまう為である
しかし空間魔法を発動している俺に死角はない。目に見えない部分もすべて知覚出来るからだ
つまり闇が見えていても問題はない
単体では使いづらい魔法もこういった組み合わせで強力なものに化けたりするのが面白いところだよな
さて、後は打撃に徹して仕留めるのみ!行くぞ!
無音のスキルを発動させ男の側面へ周り近づく!
だが男は凄まじい勢いで体を回転させサイドを取らせない
む、こいつ見えてるのか?
そういや冒険者だもんな。暗闇や視界不良での活動経験は俺たち格闘家より上か
察知や視界確保といったそれ系のスキルが発達していると見るべきだな
闇による優位は無くなったが構わず奴の腹に突きを放つ
例え見えていたとしても空間魔法がある限り俺に攻撃は当たらない!
避けようとする動きもガードしようとする動きも分かるぞ!その隙間へ、撃つ!
ドスっ!と俺の拳は男の腹へクリーンヒットする
しかしなんだこの感触は、固い!まるで・・・うおっ!
男はラリアットの様に腕を振り回し反撃してくる!間一髪で避ける!
あぶねー!なんだ今のは!感知出来なかったぞ!どうなってる?うおおっ!
「ぐっはっ・・・」
さらに迫る男の剛腕をなんとかガードする!があまりの威力に一瞬息が止まってしまう
ただ腕を振り回し掌底を当てに来ているだけだが恐るべき威力だ。とても同じランクとは思えん!
いや、それよりも何故空間魔法が効かない!まるで動きを感知出来ていない!
「はあ、はあ・・・」
バックステップで距離を取り煙幕魔法を解除する
理由は分からんが男の動きを感知できない以上 煙幕はむしろ俺に不利に働いてしまう
くそ!ここは一旦・・・うおっ!
ここは距離を取り呼吸を整えるつもりだったが煙幕を解除すると同時に男は一気に踏み込んでくる!速い!序盤の受け身でスローな動きはこの為のフェイクか!
だが今度はキッチリ視界に収めている
空間魔法が効かなくともお前の弧を描く攻撃は俺には当たらんぞ!って
「うおおお!」
ゴスッと鈍い音が俺の腕に響く
当たってんじゃねえか!何とかガードしたが見事な右ストレートだ!畜生こいつ!さっきの素人ラリアットもフェイクかよ!きたねえ!
・・・いや、汚くはないか。勝つ為に最善を尽くす、当たり前の事だ!
「ぬおお!」
「ぬう!」
右ストレートを男の胸に撃ち返す!続けてローキック!いずれもクリーンヒットしてる様に見えるが固い!
そしてローを放った直後左の掌底によるカウンターが飛んでくる!
「ぐっ・・・」
かろうじでガード、しかし重い・・・
尋常ではない重さだ。それにこの固さ、こいつ最初から回避は捨て筋肉を固めて受けているのか?そして相打ちのカウンター狙いか?
なるほどな、こいつは冒険者でいう所の盾役って奴なんだろう
それらしい戦法だ。だが、そんな戦い方が世界2位の俺に何度も通じると思うなよ!




