◆いじめっ子との戦い その2
先ほど七海が放った『水鏡の拳』はスキル『拳』から派生する上位スキルであり魔法等の放出系の攻撃を弾く効果がある
しかし七海のそれはまだレベルが低く、魔法を弾いた反動で拳は裂け血が滴り落ちていた
「な、七海ちゃん・・・ダメだよ!逃げて・・・」
「ごめん・・・」
裂けた拳を見た響がたまらず逃走を促すが七海は首を振り男子に立ち向かっていく
まずは先ほどまで響と戦っていた主犯格の男が相手だ
◇
七海は今、響の父 陽平の教えを思い出していた
「七海ちゃんは気が弱い所があるからね、戦いで気を付ける点が幾つかある。まずは相手の声を聞かない事だ」
「声を聞かない?」
「そうだ、実戦では大声を出したりして威圧して来る相手が居るからね。気が弱い子はそれで竦んでしまいやすい。それに言葉巧みに相手の行動をコントロールしようとする敵も居る。基本的に戦闘中は相手のいう事に耳を貸さないのが正解なんだ」
「う・・・確かに大声を出されるとビックリして動きが止まっちゃうかも、です・・・」
「うん、まあそうだよね。コツとしては相手の声は自分に対して言ってないと思う事だね。自分に対して言ってないんだから関係ない。聞き流す、無視する」
「なるほど、です・・・」
「あと、相手の目は見ない事。よく相手の目を見て戦えなんて教えてる奴が居るけどそういう奴はきっと最初から強かったんだろうと思う。参考にはしちゃダメだ。気の弱い子は相手の目や顔を見るとやはり竦んでしまいやすい。だから相手の目や顔は見ずに体だけを見て戦うのがいいと思う。視線によるフェイントなんかも防げるしね」
「うう、でも顔はどうしても視界に入っちゃいます・・・」
「そうだね、これも少しコツがある。最初は出来なくて当然だ。毎日練習してちょっとずつモノにしていこう!」
「は、はい!」
◇
「七海ぃ!やんのかこらあ!」
主犯格の男が大声を出し七海を威嚇、動きを止めようとする。これも戦術の1つだ。流石に場慣れしてるだけの事はある
しかし七海は聞く耳を持たない。無言で男に近付き拳による一撃をお見舞いする!
「がっ!はあ・・・」
その拳は腹にめり込み男は悶絶し倒れた。なんと一撃で戦闘不能に追い込んだのだ
「お、おい・・・嘘だろ!」
「七海ちゃん、す、すごい・・・」
これにはいじめっ子のみならず響も驚愕の声をあげる。なんせ自分がいくら攻撃しても倒せなかった男を一撃で倒したのだ。驚くのも無理のない事だろう
七海はあえて語る事はしなかったがこれには『ペイントレード』のスキルが関係していた
受けたダメージを攻撃力に変換するスキルである
長い間いじめによる精神的、肉体的苦痛を受け続けた七海はこのスキルのレベルが5まで上がっており、肉体的ダメージだけでなく精神的ダメージや負の感情も攻撃力に変換出来る様になっていた。勿論攻撃力の上昇率はレベルが高い程上である
長期間のイジメによる精神的ダメージの蓄積と今受けた拳へのダメージ。そして何より響を傷つけられた怒りがペイントレードのスキルにより七海の攻撃力に変換され凄まじい力を発揮するに至ったのである
主犯格の男を倒した七海は残った3人の男子に向かって走っていく!
ノロノロ歩いて近付いて行ってはまた魔法が飛んでくるという七海なりの判断であった
その距離10メートル。このまま何の障害も無ければ次弾が来る前にスクロールを使う男をぶっ飛ばせるだろう
しかし、スクロールの男の前にはまだ2人の男子が居る
その内の1人は向かってくる七海に対して腰を落としガードを固めた
この男も主犯格の男程では無いが実戦経験はある様だ
このまま七海が体当たりしてくるのなら腰を落とし姿勢を固めてさえいれば体重に勝る自分の方が勝つだろう
しかし恐らく直前で止まり変化し、あの恐ろしい威力の打撃で来るだろう
あれを撃たせたらガードしていたとしても危ない。打つ前に止める必要がある
七海が止まった瞬間が勝負!そこを掴みに行く!
というのが男の作戦であったが七海は走る速度を緩めずそのまま体当たりを決行する!
男の落とした腰よりさらに低く踏み込み肘で相手の肘をかち上げて上体を浮かせそのままぶっ飛ばした!
男にとっての誤算は攻撃力という一点において駆け引きなど必要ない程七海は強かったという事だろう
ここは戦うより逃げるべき場面だったといえる
男は腰と後頭部を地面に強打し悶絶する
少なくとも数分の間は起き上がる事は出来そうにない
「な、七海!ま、待て!俺が悪かった!もういじめなんかしない!許してくれ!」
残った2人の内1人はもう完全に心が折れてしまい尻餅をつき七海に許しを請う
しかし敵の声を聞き流している七海にその声は届かない!
尻餅をついている男へ容赦のない蹴りが飛ぶ!
本来尻餅をついている相手の顔面を蹴るというのは難しい行為である
実際に蹴ってみるとなかなかクリーンヒットはしないものだ
男もこの時冷静な状態であれば七海の蹴りをまともに喰う事は無かったかもしれない
しかしこの時 七海はスカートを穿いていた
尻餅をつき下がった男の視線は七海の魅惑的な生足、そして何より見えそうで見えないその絶対領域に釘付けになってしまった
「ごふっ!」
結果尻餅をついた男は七海の蹴りをまともに喰らい意識を失った
意識を失う直前そう言えば俺も七海がやめてって言ってもやめなかったな。これも自業自得か・・・
とか白って健全でいいよなとか思ったとか思わなかったとか
男は鼻が潰れ、歯も折れて顔面は血だらけだが何故かその顔は幸せそうであった
「七海ィいいいい!調子に乗んなよこらあ!」
七海が2人の男子を倒すのに要した時間は10秒にも満たないものだったが最後に残った男が再びスクロールを使用するのには十分だった。七海に向けて炎の魔法が放たれる!
接近していたせいもあり、避ける間も無く魔法は七海に着弾し血しぶきが舞う!
そして次の瞬間その魔法はスクロールの男の元へ跳ね返った
「へ?・・・ぐふっ!」
スクロールの男は血しぶきが舞った瞬間勝利を確信し油断していた
いや、そうでなくてもこの至近距離で跳ね返された魔法を回避する事は難しかったに違いない。魔法をまともに喰らい吹き飛ばされピクリとも動かない
これでもういじめっ子側は戦える者は一人も居ない。この戦いは響と七海の勝利と言えるがこのまま気分爽快勝利!とは行かない様だ
「な、七海ちゃん・・・て、手が・・・」
見事いじめっ子たちを撃退した七海だったが、その左手の怪我を見て響は青ざめる
今現在 七海は水鏡の拳を左手でしか撃つ事が出来ない。当然最後の魔法を跳ね返したのも既に傷ついていた左手の拳だ
そしてダメージを重ねたその手の甲からは折れた骨が飛び出していたのだ
しかしそれでも七海は歩みを止めようとしない
まだ意識のある男子たちに止めを刺そうと歩を進めていく
その折れた拳が、傷付けられてきた心が、響を傷つけられた怒りが、七海に力を与えて行く。戦意を高揚させていく
積年の恨みを晴らす時が来たのだ。この時の為に厳しいトレーニングにも耐えて来た。絶対に許さない!殺してやる!
「ひっ!な、七海、悪かった!俺たちが悪かった!ゆ、許してくれ!」
「ごめんなさい!助けて、助けて~!」
「や、やめっ!やめっ、やめっやめて・・・」
七海の尋常ならざる様子にいじめっ子たちは命乞いを繰り返すが当然その声は七海には届かない!
無慈悲な一撃が繰り出される!




