◆いじめっ子との戦い
響は男子たちに向けて一直線にダッシュして行く!
まさか向かってくるとは思っていなかったのか男子たちの動きが止まる
無理もない。実戦慣れしている者でも自分に向かって駆けて来る者は恐ろしい物だ
響はダッシュのスピードを緩めず動きを止めた男子に体当たりを喰らわす!
当たる瞬間姿勢を決める!頭、肩、肘が男子にめり込む!
「ぐええ!」
先頭を走っていた男子は2メートルもぶっ飛ばされ地面で肌を摩り下ろされる
「ぐうう・・・痛ェ・・・痛ェよォ・・・」
子供の喧嘩にしてはやりすぎだとも思える傷を負い先頭を走っていた男子は悶絶する。もう戦えはしないだろう
そしてその様子を見て1人は臨戦態勢に、3人は響から距離を取り後方に下がり、1人は竦んでしまう
竦んでしまった男子と後方へ下がった男子は元々戦意が低かったと言っていいだろう
集団というのは主犯格以外は付いて来てるだけという事も多い。それに今回は一方的なイジメのつもりだったのだ。今まで反撃らしい反撃を受けたことすら無いのだから
響は竦んだ男子に容赦なく攻撃を加える
まず抱き付いてから相手を持ち上げ地面から浮かす
「うお!ちょっ、待って!」
そしてそのまま地面へ叩き付ける!
「ぎゃっ!」
横向きに倒れた相手の腹や背に蹴り下ろしを喰らわせる!何度も!何度も!
「このっ!」
臨戦態勢に入っていた男子がここで倒された男を助けようとするが、響は倒した男子の体をうまくバリケードとして利用しその周囲を回りながら蹴りを加えていく
「げえっ・・・や、やめ・・・」
たまらず亀になった相手の後頭部を一度蹴り、相手の意識が後ろへ向いたところで横面をサッカーボールキックする!
「や、やめて・・・やめて・・・許して・・・」
男はついに泣き出してしまう
響は陽平の訓練を受け動きは俊敏になり格闘には慣れたが力はまだまだ貧弱である。男の受けたダメージも実はそれ程大きなものではないがこの場合は響の剣幕、殺気に当てられたと言っていいだろう
容赦のない急所への攻撃、そして何より殺意のこもったその表情が男の精神に大きなダメージを与えるに至った
「ふう・・・ふう・・・」
まだ興奮冷めやらない様子の響。その側面から6人の中で一番体格の大きな男子が響に襲い掛かって来る!
男はいじめの主犯格の1人で素人だが学年でも喧嘩の強い。慣れている部類の人間だ。響が向かって来た時いち早く臨戦態勢に入った事からも場慣れしているのが窺える
「響ちゃん危ない!」
七海の声で側面から来る男子に反応し振り向く響
男はしかし慌てず響の鳩尾を殴りに行く!
ここで響がガードしても体格差があるのである程度のダメージは受けるだろうし、ガードした腕も痛むだろう
「なに!」
しかし響は男の殴りに来た腕をパーリングで弾く!そして間髪入れず反撃の一撃を男の顔面に喰らわせる!
「ぶっ!」
男は一旦距離を取りガードを固める。響も少し疲れたのか深追いはしてこない
顔面を殴られたダメージは大した事は無い。しかし男は驚いていた。パンチを流されるなど初めての経験だったからだ
「このっ!」
顔面の痛みが治まる頃 男は再び距離を縮めガムシャラに腕を振り回し響に殴りかかるが当たらない
男は顔を歪める。パンチを流されたのはまぐれでは無かったのだ
ここ数か月の特訓で響の運動能力は主犯格の男のそれを遥かに上回る程に成長していた。もう並の人間では触れる事すら難しいだろう。事実男は何度も掴み掛かろうとするが全て躱されている
だが響の攻撃も男に通じているとは言い難い。打撃の痛みはあるだろうが倒すには至らない
組み技も体格差が大きいので難しいだろう。下手に寝技なんかになってしまうと後続の3人に加勢されて手も足も出なくなる可能性もある
結果戦況は硬直状態になる。響を追う主犯格の男とその攻撃を躱し効果の小さい打撃で戦う響
このまま時間が経てば恐らく響が勝利しただろう。体格が大きければそれだけスタミナの消耗も激しいし、元々のスタミナも普段から運動をしている響の方が素人の男よりは上
いずれ男の方のスタミナが先に切れ、そこへ一撃入れれば響の勝ちだ
スタミナが切れれば防御力も著しく低下するからだ
しかしここで横槍が入る!
「あっ!・・・ぐう・・・」
後方に退いていた男が魔法のスクロールを開封し炎の魔法を響へ放ったのだ
魔法のスクロールは魔法の効果が付与された巻物で開封する事により一般人でも魔法の効果を発現させる事が出来るアイテムである
格闘に集中していた響は突然の魔法に反応しきれず炎の魔法をまともに喰らってしまう
なんとか立ち上がるが、もう足はフラフラでまともに立っていることも出来ない。戦いを続行するのは難しいだろう
しかしこの魔法の使用はいじめっ子側も予想外だった様で放った当人以外は困惑の表情を隠せていない
「お、おい・・・やべえよ。魔法は喧嘩で使っちゃいけないって先生が言ってただろ!」
「お、おれ知らないからな!」
後方へ下がっていた3人の内2人はあまりの事態に完全にビビってしまっている
「おい!タイマンの途中だったのに何で邪魔しやがった!」
そして響と戦っていた男は勝負の邪魔をされたのが許せないのか魔法を放った男に食って掛かる
「ふん、うるさいよ。元々いじめに来たんだろうが!大体あのまま続けてたらお前やられてたぜ?助けてやったんだから感謝してほしいくらいなんだがなあ?」
「なんだと!」
「おお怖い怖い!で、響ちゃんどうすんの?もう動けないみたいだけど降参しちゃう?それならごめんなさいすれば少しイジメるだけで許してやるけど?」
響は男の言葉に歯を食いしばるが動けない。悔しいが、もう立っているのも精いっぱいなのだ
しかし心までは屈すまいと言葉を振り絞る!
「お、お前みたいな下衆に・・・頭を下げる位なら・・・はあ、はあ・・・死んだ方がましだ!やれるもんならやってみろ!バカ!死ね!」
「こ、このガキャーーー!」
男は二つ目の魔法のスクロールを開封し響へとどめの魔法を放つ!
放たれた炎の魔法は無慈悲に響へ迫る!しかしその魔法が響へ着弾する前に1人の少女が割って入る!
「水鏡の拳!!」
七海は響を庇う様に前に立ち、飛んできた魔法を拳で弾き飛ばした
「「「なっ!」」」
これにはいじめっ子たちも驚愕する。なんせ七海は大人しい子で運動も苦手だった筈なのだ
それが見るからに恐ろしい威力の拳を振るったのだから
「ふう・・・ふう・・・」
事実七海は泣いていた。膝も震えていた。恐いのだ・・・
しかし退こうとはしない。強い意志を持っていじめっ子たちの前に立ちはだかる!
それを見て響は目頭が熱くなるのを抑えられないでいた。この感情が何なのかは響にはうまく説明できない
だが、この思いを一生大事にしていこうと思うには十分な感情だった




