◆風波誠一
この世界、この時代における大人物の1人『風波誠一』
彼は大学卒業後22歳で10人にも満たない友人と共に小さなクランを設立
そこからたった一代で竜姫護衛団、海藤一派と並ぶ世界3大クランの1つ風波グループを築き上げた偉人である
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誠一は学業に対しやる気が無かったがその事に弱音を吐く度に両親は「大学くらい出ておけ」と言って誠一を叱咤した
普通なら反発する所だが、両親は学業の事以外は誠一が何をしようと口出ししてこなかった
それなりに愛情を持って接してもくれた
だから誠一も弱音は吐きつつも学業を投げ出す様な事はせず、親への義理として大学を卒業する程度の思いはあった
しかし学業というのはそれなりに苦痛である
高学歴を目指す場合、小さな子供の頃から勉強漬けは当たり前
特に遊びたい盛りの小~中等部の頃に友達と遊ぶ事が出来ないというのは誠一には大きなストレスとなっていた
もっと自由に生きて行きたい
今は無理でも大学を卒業したら・・・大人になったら・・・
いつの頃からかそんなことばかり考える様になった
そして、高等部に入学した頃から自由に生きる為の道を模索し始める
勉強も長年続けていると効率よく行う為のコツがつかめて来るものである
高等部に入るまでは平日でも一日平均3時間以上、休日などは10時間近くも机に向かっていたが高等部に入ってからは休日を含めても机に向かう時間は一日平均1時間半程度にまで短縮に成功
流石に少し勉強の成果は落ちたが、目には見えない程度そして高等部に入学したばかりなので成績の低下は目立たない
しばらくはこのペースを維持し、大学受験数か月前からスパートを掛ければ受験に受かる程度なら十分だろうと誠一は考える
そして余った時間をアルバイトに費やした。両親も成績が落ちなければいい。むしろバイト経験があれば大学受験で有利になるという考えであっさりとアルバイトの許可を出してくれた。計画通りである
ちなみに18歳未満のアルバイトには両親の許可が必要であったが、基本的には同意書を提出するだけであり両親と顔合わせする事は無い
その事を知った誠一は親の筆跡を真似る事で幾つものアルバイトを掛け持ちする事に成功する
こうして勉強以外の時間はほぼアルバイトをするという日々が始まった
今までほぼ勉強しかして来ていないもやしっ子の誠一にとってバイト漬けの日々はかなりハードな物であったが反面、生まれて初めてとも言える自由を味わえる楽しい物だった
自由に生きて行く為にはまずは金だ
だが金を得る為に誰かの下で働く。これでは自分の目指す自由とは離れてしまうだろう
今は仕方ないが将来は自分が頭になって生きて行く道を選びたい
誠一は大学卒業後にクランを設立する事を考える
勿論一人の力では不可能だ。世の中はそんなに甘い物では無い
例えばある人が大型車の運転免許を取ったとしてその人がすぐに大型車の運転手になれるかというとそう簡単に事は運ばない
職業にもよるが普通は業務経験の無い人間を雇ってくれる会社は存在しないからだ
でも雇ってくれないと経験積めないだろという話になるがそれはその通りで本来ならそこで詰みである
ならどうすればいいのかと言うとコネクションを利用するのである
分かり易いのが学校を卒業する事。これにより新卒というコネが手に入り、学校が後ろ盾になる事により就職がし易くなる
逆に言うといい学校を卒業しないとロクな仕事に就けませんよと暗に言われてる様な物で一度レールから外れると底辺人生が待っているなどと言われる所以である
学校は勉強しに行く場所では無くこの「新卒」というコネや「学歴」という資格を手に入れる為に行く場所だと断言する者も居る程だ
学歴社会という歪な社会を生み出している元凶とも言える学校だが、国の経済を支える上で重要な役割を果たしている(簡単に言うと金になる)のでこの制度が変わる事は無いだろう
コネは他にもある
それはいわゆるお偉いさんに紹介してもらう方法だ
極論を言えば親が一流企業の重役ならその子供は義務教育以上の学校へ通う意味は学歴という見栄以外は皆無だろう。親のコネで入社してしまえばいい(資格試験の際に前提として学歴を求められる場合もあるので職種にもよる)
だが大多数の人間はそうもいかず、学校を卒業せざるを得ないのが現実である
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誠一は考える。このまま大学卒業後クランを立ち上げてもロクに仕事を取れはしないだろう
無名のクランに頼むよりすでに経験と信頼のあるクランに頼んだ方がいい。そう考えるのが普通だからだ
経験は今から簡単な事なら学んでいけばいい。とは言え学生の身で出来る事は限られているが・・・
まあ金さえあれば設立時に経験者を雇って教わるのもありだろう。何とかなる
となると今からする事は人脈、コネクションを作って行く事か
誠一がアルバイトの掛け持ちを始めた理由は資金確保の為もあるが、様々な方面へ顔を広げる為でもあった
幸い誠一のコミュニケーション能力は高く、アルバイト先、あるいは学内や趣味の世界でもこれはと思った人間に声を掛け、繋がっていく事に成功する
大学合格後は勉強に時間を取られる事も減りその動きは加速していく
あらゆる分野の上層部の人間と顔見知りとなり、さらにその関係も良好
誠一自身もまた幅広い世界の人間と付き合う事で人として成長を遂げていた
そして大学を卒業する頃には誠一の作り上げたコミュニティは1クランのそれと呼べる物では無く、もはや全世界に根を張る大企業のそれと同じレベルに育っていた




