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◆正しく生きる

「あれ?もう終わりなの?技の練習とかしないの?」

「ぜえ・・・ぜえ・・・」


今日は初日という事で軽く一時間程トレーニングをして終了とする予定だったが、響が技を教えてくれとねだって来る

響はまだまだ元気だな。七海ちゃんはもう死に掛けてるが・・・

思った以上に2人には体力差がある様だ。これは別メニューをやらせた方がいいか?

いや、それは七海ちゃんが可哀想か

どうせ数週間もすれば同じレベルまで追いつくだろうしそれまでは響に我慢してもらうか


「ダメだ、今日はこれでお終い。最初は続ける事が大事なんだ、あまりハードにやらない方がいい」

「え~?まだまだ平気だよ~!」

「お前は平気でも七海ちゃんはきつそうだろ?」

「う・・・」


ちょっと卑怯かな?

七海ちゃんを引き合いに出すと響は言葉に詰まり気まずそうに七海ちゃんを見た後 意外とあっさり折れてくれた


「うん・・・そうだね、分かった。今日はやめておくよ!強くなるなら七海ちゃんと一緒の方がいいもんね!」

「はあ、はあ・・・響ちゃん・・・ごめんね」

「な、何で七海ちゃんが謝るかな~?今のは私が悪いんだから謝るならこっちだよ~!」

「ううん、ごめん・・・足手まといになって・・・」

「そんな事思ってないったら!」


なんか謝り合いが始まってしまった

どうも七海ちゃんは気が弱い所があるようだな。今後こういう事のダシに使うのはやめておこう少し反省


しかしこれで私1人だけでも教えてとか言って来たらどうしようかと思ったがどうやら分かってもらえた様で何よりだ

上達の為には効率を求めたり競争意識を持つ事も大事だがそれはある程度上達してからでいい

最初の内はそういう事に囚われる事なく大切な者と一緒に歩んでいく素晴らしさ、楽しさを学んでもらいたいと俺は思っている


「響は男に一番必要な義侠心がある。それだけは大したものだ」


我が娘ながら友を想うその優しさに感銘を受けたので素直に褒めたつもりだったのだが、これがまずかったらしく響はプクッと頬を膨らませ俺に迫って来た


「だけって何よ!大体男じゃないし!もうパパなんか知らない!」

「そ、それは言葉のアヤってもんだろ?それに女にも義侠心は大切な物だぞ?」

「だから女にもって何よ!もうパパなんかホントに知らないからね!」

「悪かったよ・・・お、おい!どこ行くんだ?」

「もう終わりならお風呂入って来る!七海ちゃんも行こう!」

「う、うん・・・」


ああ、響がねてしまった

俺は男社会で生きて来たせいか、つい男なら~とか男には~とか言ってしまうのだ

これは口癖の様な物で悪気があっての事では無いのだが響はそれが気に入らないらしくよくこうやってへそを曲げてしまう


「はあ・・・」


思わずため息をついてしまう程度にはショックである。俺は親バカなのだろうか?

響と七海ちゃんは一度更衣室へ着替えを取りに行き、本宅の方で風呂に入る様だ

ちなみに本宅の方では妻が食事と風呂は用意している

浄化の魔法でも汗などの汚れは落とせるのだが、疲労回復の為には風呂へ入って体を芯から温めた方がいい

食事もトレーニング後30分以内には摂った方がいいので七海ちゃんも食事と風呂は我が家で行うという事になっている

特に食事内容は大事なので本来なら三食全て俺が管理したい所だが人様の子供相手にそういう訳にも行かないだろう

とりあえず夕飯だけは俺が内容を管理し、後は寝る前と朝起きた後に飲む為のプロテインを七海ちゃんには渡しておく

これでも結構裕福な方なのでその程度の負担は屁でも無いからな


2人が更衣室から出て来た。着替えは風呂に入ってからするのか道着のまま道場を出て行こうとしている

響はまだ機嫌が悪いらしくプンプンしながら俺とは顔を合わせようともせず道場を出ようとしてるが、七海ちゃんは俺の前で立ち止まった


そして上目使いで俺を見つめ(身長差があるのでそんな風に見えるだけ)質問をしてくる

元々の器量がいいだけあってなかなかの破壊力である

多分いじめられてる理由もその辺にありそうだ。好きな子に意地悪する的な・・・


「おじさま、義侠心って何ですか?」


と、どうでもいい事を考えているとそんな事を聞かれる。モジモジしていて可愛い

俺の勘違いで無ければこの子は響を尊敬している。その思いから来た質問の様だ


「義侠心っていうのは義。つまり人助けの心だよ。人は仁義礼智信の五つの徳をやしなわなければならないとされている

仁とは施しの心、優しさだ。礼とは礼儀、礼節の心。智とは善悪を真に理解できる知恵だ。信とは信頼されるような人になる事

ははっ、まだ七海ちゃんには難しいかな?」


好きな話題だったのでついつい聞かれていない事まで力説してしまう


「はい、難しい・・・です。でも、何となく分かります。要は正しく生きろって事ですよね?」

「うむ、その通りだ。七海ちゃんは正しく生きられるかな?」

「は、はい!私、それだけは自信があります!」


しかし意外にも七海ちゃんのウケはよかったので俺は気分を良くしてさらに話そうとするが、響がそれを止める

恐らくこれは長くなるなと感づいたのであろう。道場の外から声が飛んでくる


「七海ちゃん!何してるの?早く行こうよ~!もう汗べとべとで気持ち悪いよ~!」

「う、うん。ごめんね響ちゃん。今行くから」

「だから謝らないでよ~!」

「うん、ごめん・・・」


そして最後にぺこりと礼をして七海ちゃんは道場を出て行った



本来ならこういう道徳の話は最初にしなければならない話である

悪人に格闘技など戦う術を教えてしまうと凶器となってしまうからだ

だが俺は響や七海ちゃんならそんな事は教えなくても大丈夫だろうと思っていた

2人とも他者を思いやる心を持っているし、イジメを受けた経験があれば弱者の気持ちも分かるだろう

安易に暴力を振るう人間にはならないだろうと勝手に判断し、そういう話はすっぽかしてしまった


だが、今にして思えばもっと真剣に考えるべき事だった

今更仕方のない事だが、あの時もっとそういう話をしておけばと激しく後悔している






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