◆格闘技
七海ちゃんのご両親は七海ちゃんに格闘技を教える事に対してあっさりと許可をくれた
どうやら七海ちゃんと響がいじめにあっていた事には気付いていたらしく、母親の方は「どうか七海をお願いします」と俺の手を握り涙を流していた程だ
思わずもらい泣きしそうになった。さぞ無念だったろうな・・・確かに任されたよ安心してくれ
◇
しかし格闘技を始めるといっても一朝一夕で強くなれるものではない
よく物語などで達人様にちょこっと技を習ったいじめられっ子がいじめっ子を簡単にやっつける話があるがあれは大嘘である
技を習ったとしても実戦で使える様になるには何か月~何年も掛かる物だからな
そしてトレーニングをすると当然ヘトヘトに疲れてしまうので、その間は少し危険と言える
しばらくの間は俺や妻が学校へ迎えに行き、ガードしてやるしかないか
◇
「もう!パパ!迎えに来ないでよ!恥ずかしいよ!」
しかし俺が学校へ迎えに行くと響は少し・・・いや、かなり恥ずかしそうにしている
ま、まあそういう年頃だもんな。気持ちは分かるがしばらく我慢してくれ
というかパパちょっとショックだよ。その態度は・・・
七海ちゃんは何も言わずに付いて来てくれている
発する空気で分かるが嫌々付いて来ているという訳では無い様だ。意外と前向きな姿勢を感じる
ご両親や響に聞いた話では七海ちゃんはあまり運動が得意な方では無い様だ
普通そういう子は「私は才能無いからやるだけ無駄です」なんて諦めている所があるもんだがこの子は違う様だ。とりあえず第一関門クリアと言っていいだろう
やはりやる気の無い人間に教えるのは難しいからな
才能というのは殆どの人間は横並びで大差無いと俺は思っている。勿論例外は存在するがそんな人間は数千人に1人位だ。そんな例外を気にして努力しないなんていうのは間違っているだろう
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家へ帰宅し、離れの道場の更衣室で2人とも道着に着替えてもらっている
さて、強くなる為に何をするかだが・・・
これが大人なら筋トレ一択だろう。半年も筋トレすればもう素人に負ける事は無いと言える
素人相手に技など不要だ
しかし小等部の子供となると話は違ってくる
子供は高負荷(重い重量)のトレーニングを行うと怪我をしやすいのだ
では技だけを教えるかと言うとこれも難しい
例えば腹筋運動が一度も出来ない子供が正しいフォームで突きや蹴りを打てるかというと答えは否だろう
となると最初は軽い負荷で体を作りつつ神経系トレーニングをメインで行くか
神経系トレーニングとはリズム、バランス、反応、変換能力、定位能力、連結能力、識別能力などいわゆる運動神経と呼ばれる能力を鍛えるトレーニングである
変換能力とは状況に応じて動作を切り替える能力
定位能力とは空間把握能力。相手や自分の位置関係などを正確に把握する為の能力
連結能力とは関節や筋肉の動きをタイミング良く同調させる能力
識別能力とは手や足、道具などを精密に操作する能力である
これらの能力は小さな子供の頃
12歳くらいまでの時期にしか発達しないものとされているが実は進化後にも成長するので始めるのが遅かったとはいえまだまだ悲観する事は無いだろう
運動神経を強化すれば同じ筋量でも強化前より遥かに強い力を発揮する事が出来るし、後々の技術の習得も速くなる
例えば利き腕とそうじゃない腕では利き腕の方が遥かに器用で強い力を出せるが実は筋肉の量はどっちもあまり変わらないのだ。利き腕の方が操作しやすいというだけの話である
運動神経を強化し、身体の操作を覚えていけば全身を利かせる事が出来る様になってくる
それがどれだけの力を生むのかは想像に難くない筈だ
また、運動神経の良い者と悪い者では戦闘の上手さ。いや、あらゆる事の上手さが変わって来る
戦いだけが人生では無いからな。そういう意味では生きていく為に真に役立つトレーニングと言えるだろう
「パパ~!準備出来たよ~!」
「よ、よろしくお願いします・・・」
そうこう考えていると2人が道着に着替え更衣室から出て来た
ちなみにこの自宅道場はチャンピオンになる以前は小銭稼ぎの為に開いていた時期もあるが、チャンピオンになった後はそこそこ裕福になったので今は封鎖している
1人稽古の時や仲のいい者を招いて合同練習をする際に使用している程度だ
普段の練習はジムで行っているからな。自宅道場を使用する機会は少ないと言える
だがこの2人の為にも同じ年くらいの子供の為の道場を開くべきかと考えている
基本的にジムなどは大人が大半で響くらいの子供となると見つけるのが大変な位だ
大人とのスパーリングなど論外である。となると今のままではいつも響と七海ちゃんがスパーリングするという事になってしまう
この同じ相手とずっと戦い続けるというのはあまり良くない。偏った戦術が身に付いてしまうからだ
強くなる為には色々なタイプの相手と戦っていく必要がある
例えばジャンケンの様にAはBに勝てるがCには負ける。しかしBはCに勝てるといった具合に戦いには相性が存在する
ならばAは相性の悪いCに永遠に勝てないのかというとそうでは無い
AはCに対抗するためにどうすればいいのかを考え、Cの技に対処する為の技を身に付けていく
そうして苦手を克服していく事でAがCに勝つ事も可能になっていく
それが格闘技を学ぶという事だ
長所を伸ばして行くより短所を消していく、弱点を失くしていくという考え方だ
そういった隙の無い強さこそが総合格闘家の強みである
つまり強くなる為には色々なタイプのスパーリングパートナーが必要という訳だ
今のままでは響か七海ちゃんのどちらかが練習を休めばスパーリングが出来ないという状況に陥るし、つらい練習へのモチベーションを維持する為にも同じ志を持つ仲間は必要だろうと思う
子供用のジムを探すという手もあるが、こんな事があった後だ。あまり他人に我が子を預けたくはない
道場の運営は気苦労も多いが我が子の為だ。頑張ってみるか




