第7話 魔将十二宮
今日の分です。
ボラル・シュロス本体にある城の外、悪魔なメイドのアクエリアスを呼び出した黒人は、契約を交わし、その後美味しくいただかれていた。
「ふぅ、ご馳走さまでした」
やけにツヤツヤした様子で、アクエリアスは唇に手を当てながら黒人を見上げる。
「それにしても、凄かった……。正に、夜の帝王」
行為の事を思い出しているのか、頬を上気させてトリップしている。
「思い知ったか、てか戻ってこーい」
どや顔でふんぞり返った後、アクエリアスの目の前で右手を振る黒人。
「はっ、すいませんご主人様。戦力の増強ですよね、でしたら他の魔将十二宮のメンバーも呼び出しては如何ですか?」
「可能なのか?」
「可能だと思います。私が手を貸せば」
「なら、やるか」
黒人は、再び《魔喚書》を構える。
そして、魔方陣が輝き、そこに立っていたのは、和装で腰辺りから大きな蠍の尻尾を生やした、浅黒い男だった。
「うーん? あれあれー? 呼び足したの君ー?」
「おう、俺だよ」
「貴方ですかスコーピオン。しぶといですね、ゴキブリ並みに」
「うっはー、久し振りに聞いたよ。アクエスちゃんの毒舌」
「その気持ち悪い呼称で呼ばないでください」
「可愛いじゃないか、アクエスちゃん」
「そっ、そうですか?」
「あぁ、可愛いと思うぞ」
「ご、ご主人様なら、呼んでも良いですよ?」
「いや、お前が嫌なら止めるけど」
「そんな、嫌だなんて、そんなことありません」
「そうか? ならよろしくな、アクエス」
「はい、ご主人様」
自然と甘い雰囲気を作り出し、スコーピオンを置き去りに二人の世界に浸る黒人とアクエリアス。
「ちょっとー、俺のこと忘れてなーい?」
「死ねば良いのに」
「ひどっ?! それはひどくなーい?」
「いいから契約。見返りは?」
「うーん、ないかなー」
「ない?」
「うん、アクエスちゃんが居るしさ」
「そうか、それでいいなら俺も楽でいい」
「でしょ? 契約しちゃおー」
黒人は、その言葉に頷き、右手人差し指を切りつける。
スコーピオンも同じく。
そして、契約完了。
スコーピオンも黒人の従者となった。
「次にいきましょうか」
「おう」
二度、魔方陣が輝き、そこに立っていたのは、3mは優に有ろう、筋骨隆々の偉丈夫だった。
「おろ? おで、たしか山で……」
「あ、タウっちだー」
「タウロスですね」
「あ、アクエリアスとスコーピオン?」
「貴方は私の主に呼び出されたのですよ」
「おでが、呼び出された?」
「えぇ、契約をするために」
「ほらほら、タウっちの夢も叶うかもよー?」
「おでの、夢が?」
「お前の望みは何だ? タウロス」
「おで、おでの夢は、おでが殴っても一発で弾けない奴と戦いたい」
「俺と来れば、その夢も叶うかもしれんな」
「なら、契約する」
タウロスとも、無事に契約完了。
次の悪魔を呼び出すべく、《魔喚書》を構える。
そして現れたのは、純白のワンピースの15歳程の少女だった。
「バルゴ、貴女ですか」
「ふぇ? ここどこ?」
「バルゴっちー、ここは人間界だよ。そんで、この人が僕たちの主」
「ふぇぇぇぇ?! に、人間界?! あ、主?!」
「俺と契約してくれるか?」
「け、契約しないと襲ったり……」
「しない、しない」
少し苦笑しながら否定する黒人と、その言葉に目に見えて安心するバルゴ。
「アクエスお姉ちゃんが居るなら、私も……
「そうか? 俺としては嬉しいが、見返りは何だ?」
「えっと、見返り、えっと……。週に2回はアクエスお姉ちゃんとお風呂に入って、一緒に寝れれば良いかな」
「そんなんで良いのか?」
「あぁ、私がご主人様と過ごす時間が……」
「そんな顔するなよ、週に5回は一緒に風呂入って寝れんだから」
最初は拒んでいたと言うのに、早くも態度が軟化している黒人だが、アクエリアスは意外と可愛かった。
理由はそれだけだ。
「はい、次ー」
三度、現れたのは、下半身が馬で上半身が人の艶やかな黒髪ロングヘアーの黒い弓を持った男だった。
「サジタリウス……」
「あぅ、サジタリウス小父さん」
「めんどくさいのが来ましたね」
「めんどくさい?」
黒人がアクエリアスの言葉に疑問を持っていると、唐突にその理由が分かった。
「はっ、バルゴの匂いがする! そこにいるのはバルゴだな?! バルゴォ~!!」
バッと馬の足で飛び上がり、バルゴに抱き着かんとするサジタリウス。
しかし、タウロスが胴体を掴み、スコーピオンが地面を操作して足枷を作り、アクエリアスが首に毒で出来た短剣を添える。
黒人の外套の裾をキュッと掴み、後ろに隠れるバルゴ。
目の前の出来事に唖然とする黒人だが、事態は更に推移する。
「離せお前らっ、私はバルゴの下へ行かねばならんのだ!」
3人の力づくの制止を振り切って、サジタリウスが黒人へと蹄を叩き付けようとしたその瞬間、サジタリウス自身が地面に叩き付けられた。
「ぐはっ」
「自重して、サジタリウス。ご主人様の前よ」
まだ開いていた《魔喚書》の魔方陣のから現れたのは、胸元に天秤が描かれた法衣のような服を着た女性だった。
「ぬっ、これはこれは。我は誇り高き射手、サジタリウスなり!」
「えぇ~」
「何だその目は! 信じていないだろう!」
「だって、ねぇ」
同意を求めるように皆を振り返ると、他の魔将たちも頷いていた。
「ならばっ、我と契約して、それを証明してやろう!」
「頼むよ」
「私はライブラですわ、ご主人様」
「ご主人様?」
「見た瞬間にビビっと来たのですわ、この人だ! と」
「そ、そうか。まぁ、契約してくれんなら良いけどさ」
「はい、末長くお願いしますわ」
ここまでで契約したのは、毒瓶宮のアクエリアス、魔蠍宮のスコーピオン、金剛牛宮のタウロス、処女宮のバルゴ、魔馬宮のサジタリウス、重操宮のライブラの6人。
全部で12人なので、あと6人だ。
「どんどん行こう、次々行こう」
とのことで現れたのが、羊の角にモコモコの羊の毛のようなピンク色の服を着た女性だった。
「ふわぁ~ぁ。あ、誰ぇ? 君」
「黒人、お前を呼び出したんだ」
「んー、何でー?」
「契約をしたくて」
「うん、いいよー。その代わり寝床は用意してねー」
「そのくらいはお安いご用だ」
「ありがとー。おやすみー」
彼女は、倒れるようにして眠ってしまった。
「誰?」
「援羊宮のアリエスです」
「ふぅん、ま、次行こう」
次に現れたのは、山羊の角を生やして、ドクロを象った杖を持ち、燕尾服の執事然とした爺だった。
「おや、これはこれは。アクエリアスではないですか、ふむふむ。ほうほう。どれ、契約しようじゃありませんか」
「良いのか? 見返りは?」
「そうですね、アクエリアスの仕事ぶりを見させてもらうことですかね」
「そう、か。なら良いのだが」
「では」
「知り合いか?」
「私のメイドとしての師匠です」
「なるほど」
あと4人、そう思い自らを奮い立たせる。
そして現れたのが、銛を持って鮫の尻尾を生やし、両腕に鋭いヒレのようなものを持ち、青いズボンに黒のピッチリとしたタンクトップを着た男性だった。
「ふぅむ、お前が呼んだのか」
「あぁ、契約をしてくれるか?」
「見返りは、俺っちとたまにで良いから戦ってくれることだ」
「そんなことでいいのなら」
「契約成立だな」
「おう」
次に出てきたのは、ドレッドヘアーで上半身裸に巨大な鋏を背負ったサングラスの男だった。
「ミーはキャンサーだゼ! ヨロシクゥ! ユーは、誰だイ?」
「テンションたけーの出てきたな。俺は黒人だ」
「見返りは、切らせてくれるこト」
「何を?」
「なんでもいいゼッ」
「そうか、分かった契約をしよう」
あと二人! と意気込んで次を呼び出す。
現れたのは、10歳くらいの男の子と女の子だった。
男の子は髪を短く切り揃えた活発そうな感じで、女の子はカチューシャで髪を纏めていた。
「「僕はジェミニ! よろしくね!」」
「お、おう。よろしく」
「それでそれで?」「どんな」「「楽しいことするの?」」
「うーん、世界征服?」
「何」「それ!」「「楽しそう!」」
「だろー? 一緒にやるか?」
「「やるやるー!」」
「よーし、よしよし」
そう言って二人の頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めていた。
次に呼び出したのは、最後の1人だった。
金髪金眼、黒の肩当てに黒い手甲に脚甲の格闘家っぽいやつだった。
「ぬ、お前が呼んだのか」
「そうだ……」
黒人は、目の前の男から計り知れないほどのプレッシャーを感じていた。
「この小僧なら、鍛えれば或いは……」
「契約をしてくれるか?」
「見返りは、我を殺す事だ」
「は?」
「今は無理だ。それは分かるだろう。だから鍛えてやる。その後、殺せ」
「何で?」
「いい加減に飽きたんだ。数千年を、生きるのは。親しくなった奴の最期を看取るのは、嫌なんだ」
「そう、か。分かった」
魔将十二宮の全員を呼び出した黒人は、地面に倒れ込み、右手を空に翳す。
「あー、疲れたー」
描写はないけど、所々で魔力回復薬を飲んでますねww
いつも読んで下さってありがとうございます。
感想や誤字脱字などありましたら気軽に教えてくださーい。
待ってまーす。