第6話 悪魔なメイドさん
昨日の分です。
目の前の壮大な景色に我を忘れて見入っていた一人と一匹は、アリーシャに声をかけられるまでそのままだった。
「我が主、我が主」
「あっ、とすまん」
「いえ。して、どちらに向かいましょう?」
「そうだな、とりあえずは倉庫のあるとこへ向かってくれ」
「かしこまりました」
アリーシャがウィンドーを開くと、ボラル・シュロスは静かに動き出す。
「そういや、下から見られないのか?」
「大丈夫です、光学迷彩搭載ですので」
「そうか……」
ムダにハイスペックだな、と思いつつも自分はやるべきことをやるために、|《魔喚書》《ネクロノミコン》を発動する。
スキル《魔喚書》は、自身のMPを消費して、悪魔を呼び出すスキルだ。
ただし、呼び出すだけなので契約出来るかどうかとか、契約せずに何かをさせるとか、そう言ったことは黒人の自由だ。
しかも、このスキルで呼び出された悪魔は、契約に際する見返りの要求が、限りなく簡単なものになる。
そんな破格のスキルだった。
「さっそく、呼び出してみるか」
黒人が《魔喚書》を持った右手を、前に突き出す。
右手の《魔喚書》は独りでに捲れていき、黒人の前に黒と紫の混ざったような色の魔方陣を形成する。
やがて、魔方陣が完成すると黒人のMPがどんどんと吸い取られていき、魔方陣が黒色の光を放った。
光が収まったそこに立っていたのは、グラマーな体型のメイド服の女性だった。
メイド服の女性は、黒人を見ると口を開く。
「私を呼び出したのは、貴方ですか? 人間」
「そうだ、俺だ」
「何の用でしょうか」
「俺と、契約してくれ」
「分かりました」
「は? え、良いのか?」
「ええ、構いませんよ。元々、呼び出されたら契約するつもりでしたし」
「見返りは?」
「貴方の“精”を戴ければ、何も」
「は? 精?」
「えぇ、要するに。ヤらせていただきたいのです」
メイド服の女性は、顔を上気させて告げてくる。
今にも襲いかかって来んばかりだ。
「なんとも直球な……」
思わぬ要求に、驚く黒人。
その間にもグラマーメイドは、ジリジリと着実に近寄ってきていた。
このままでは美味しくいただかれる、と感じた黒人はとりあえず止める。
「待て待て待て待て待て! 待て!!」
「何でしょうか、契約しないと?」
「いや、契約はする。するけども……!」
「何でしょうか。はっ、まさか! そこの狼に私が襲われているのを見たいと?!」
「ちっげーよ!! そこじゃねーよ! ってか、人以外もアリなのかよ……!」
壮絶なボケにツッコむ黒人。
心なしか、ヴォルフも若干引いているようだった。
「では、何でしょうか?」
「まず、契約をしようか」
「そうですね、してしまいましょう」
そう言うと、更に間を詰めてくる。
「だから! 契約しようってば! 何で寄ってくんだよ!」
「何でと言われましても、契約方法が体を重ねることですので、としか」
「そうなの?! 契約方法そんななの?!」
「嘘です」
「嘘かよ! こいつサラッと嘘つきやがった?!」
グラマーメイドによって、着々とキャラを崩されているのを感じる黒人。
「ええい! 契約だ、契約!」
「しようがありませんね」
呆れたように言うグラマーメイドに、黒人は再度ツッコむ。
「てめぇのせいだろうが!」
そんなこんなで、黒人とグラマーメイドは契約を結ぶ。
互いの右手人差し指を傷付けて、少し血を出す。
そしてその右手人差し指同士をくっつけて、契約の祝詞を唱える。
「我、アクエリアスは朱崎 黒人を主とし、一生を捧げることを誓う」
「我、朱崎 黒人はアクエリアスを従者とし、その誓いを受け取ろう」
祝詞を唱え終わると、二人の体を黒色の光が包んだ。
光は、黒人とアクエリアスの胸元に収束すると、黒人の胸元には紫の魔方陣となり、アクエリアスの胸元には黒の魔方陣となった。
「契約完了ですね、では」
あっ、ヤバイと思った時にはもう遅かった。
黒人はアクエリアスに押し倒されて、ズボンを脱がされている所だった。
「ちょっ、ちょっとまて」
「ここまで来て止めるんですか? 契約違反ですよ?」
アクエリアスは黒人を上目遣いで見上げる。
その頬は上気していて、扇情的だった。
「うっ、それは」
「それに、もう私は貴方のものなんですよ?」
「それは、そうかもしれんが……」
「それとも、私ではダメですか……?」
アクエリアスは目尻に涙を溜めて、懇願するかのように黒人に問う。
「ええい、もうなるようになれ! 好きにしろ!」
黒人が自棄になったように叫ぶと、アクエリアスはさっさと黒人のズボンを脱がし終えていた。
読んで下さってありがとうございます。
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待ってまーす。
アクエリアスのステータスです。↓
名前】アクエリアス
HP】 4600
MP】 5800
スキル】 毒生成、形状変化、軽業、念話、気配遮断
称号】 毒使い、毒瓶宮の魔将、暗殺者、黒人の従者