第3話 迷宮入りて踏破する②
ーー《魔狼の森》第二十五層ーー
ダンジョンの中で一夜を明かした黒人は、翌朝も一角狼の肉を焼いて食べると、今日は鞭剣を使おうと思い、倉庫から鞭剣を取り出すと、ヴォルフと共に歩いていった。
ーー《魔狼の森》第三十層ーー
二十五層から一気に下って行き、三十層にまで来ていた。
その黒人とヴォルフの目の前には双頭の狼が1匹、立って黒人たちを睨んでいた。
「中ボスってか。殺るぞ、ヴォルフ」
「ウォォォォォン!」
ヴォルフは一声、大きく鳴くと双頭狼に向かって一気に駆け出した。
その後ろには、|《魔導書》《グリモアール》を発動した黒人が、タイミングを狙っていた。
「グルゥアァッ!」
双頭狼は上から降り下ろされたヴォルフの爪の一撃を、右に跳んで避ける。
「穿て、|《火槍》《ファイアランス》!」
ヴォルフの一撃を避けた双頭狼が着地する瞬間を狙って、黒人の火槍が飛ぶ。
しかし、双頭狼は両の口をガパッと開くと、炎を吐き出して火槍を打ち消した。
「なら、闇だ。掴め 汝を止めるは 闇の触手|《束縛する闇》《ダークネスバインド》」
本来なら詠唱は要らないのだが、雰囲気的に、等のよく分からない理由で詠唱を行っている。
何もない虚空から出現した、真っ黒い手の形をした触手が双頭狼の体にまとわりついて、その動きを止める。
その首筋にヴォルフがここぞとばかりに噛みつく。
噛みつかれた双頭狼は、壮絶な悲鳴を上げてヴォルフを振りほどこうとする。
「ヴォルフ、時間を稼げ! 一気に決める!」
「グォゥッ」
ヴォルフは双頭狼に噛みついたまま、喉の奥で吠える。
「フゥッ、称号《朱と黒の王》発動」
称号の中には、発動することで効果を発揮する様なものもある。
黒人の《朱と黒の王》がそれに当たり、発動するとLV.5を越えた火魔法と闇魔法を使えるようになる。
上限を越えたそれは、俗に《禁呪》と呼ばれ、絶大な威力を発揮する。
《朱と黒の王》を発動した黒人の右手の甲には、黒い二重の魔方陣が現れ、腕には黒い線が走り、左手の甲には赤い二重の魔方陣が現れて、腕には赤い線が走っていた。
そして、黒人の体からは黒と朱が混じったような色のオーラが立ち上っていた。
「爆ぜるは爆炎 顕すは炎刃 彼方より降りて 此方に堕つる。爆炎に焼かれ 己が原罪を悔い改めよーー|《断罪の天剣》《ネメシス・クライム》」
黒人が魔法を発動すると、魔導書の紙が100枚ほど一気に燃え散った。
双頭狼の頭上には、煌々と燃え盛る炎の剣が三降り出現し、双頭狼の頭上をグルグルと旋回していた。
「ヴォルフ、離れろっ!」
黒人の命令を聞き届けたヴォルフは、一瞬の内に双頭狼から距離をとる。
双頭狼はそんなヴォルフを追おうとするが、束縛する闇がそれを許さない。
そうこうしている内に、頭上の《断罪の天剣》が双頭狼に突き刺さる。
炎の剣が突き刺さると同時にそれは爆発し、双頭狼の体を爆裂四散させて焼き焦がした。
炎と煙が晴れると、爆発の爪痕と1つの宝箱が残されていた。
「うん? 宝箱?」
「ワフッ?」
少し警戒しながらも宝箱に近付き、その蓋を開ける。
するとそこに入っていたのは、持つ部分に大きな青い宝石があしらわれた1m程の大きな鍵が入っていた。
「なんだ、これ」
「ウォン?」
「まぁ良い、行くぞ」
「ウォン!」
不思議な鍵を倉庫に仕舞って、黒人はヴォルフと共に階下へと歩いていった。
ーー《魔狼の森》第三十八層ーー
三十層で中ボスらしきものと戦って勝利した後は、特筆大書すべき事もなく、順調に降りてきていた。
鞭剣の扱いにもある程度慣れてきたところに、そいつらは現れた。
ーー話し声……。冒険者か。
ヴォルフも気付いたのか、話し声のする方向へ顔を向けて牙を剥いて唸っている。
ーーどうするか、殺しても構わないんだが……。よし、殺そう。
早々に殺すことを決定した黒人は、右手の鞭剣をしっかりと握り、歩き出す。
「おっ、こんなところまで一人でーーっ?!」
黒人に話しかけようとした軽鎧の男は黒人の後ろのヴォルフを見て言葉を失っている。
その男のパーティなのか、一人の男と二人の女も同じように言葉を失っていた。
計四人、簡単に殺せそうだな。等と考えながら黒人は笑顔を絶やさない。
「どうしたんですか?」
「う、後ろっ、うしっ、後ろのそれは、な、なななななんだっ?!」
「ははっ、俺のペットにそれとか言ってんじゃねぇぞ、くそ野郎。それと、教える必要はない。もう、死ぬからな」
「はひぇっ?」
なんと返そうとしたのだろうか。
首と胴体が泣き別れしてしまった今となっては、もう知ることは出来ない。
一瞬で殺された男を見て、他の三人も顔を青くして怯えている。
「お前らも、死ね。《返す返すは三連刃》」
黒人が鞭剣の技を発動して、死の刃を冒険者三人へと振るう。
まず一番近くに居た軽装鎧の女の首へと向かっていって、それを落とす。
そして鞭剣はその近くに居た男に向かって進み、心臓を一息に貫くと、抜かれることはなく更に進んでいった。
最後の一人となった女は、頭を鞭剣の切っ先に抉られて絶命することとなった。
黒人が魔力を込めて右腕を引くと、カチャカチャカチャカチャンッと音をたてて一降りの剣に戻った。
心臓を貫かれた男は、鞭剣を引き抜かれたことにより、支えを失って地面に倒れ込む。
黒人は首なしの死体二個と、心臓を貫かれた死体一個、顔を抉られた死体一個を眺めて、血臭に眉を潜めながら返り血を外套の袖で拭っていた。
「特に何とも思わないな……。まぁいいか、一々殺す度に吐いてたんじゃキリがないからな」
黒人は冒険者たちの装備を剥ぎ取って倉庫に仕舞うと、火弾を発動してその死体を燃やした。
「ほら、行くぞ」
「ワフッ」
退屈だったのか、道の端で丸くなって寝ていたヴォルフを起こすと、更に階下へと進んでいった。
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