プロローグ Two
「初めまして、勇者様方。トルヴェン王国第一王女、フェリーナ・ルルス・トルヴェンですわ」
そう言って、フェリーナはドレスの裾を摘まみ、華麗に一礼して見せた。
その姿に悠哉たちは見入っていたが、黒人は覚めた目でフェリーナを見ていた。
「そ、それで、フェリーナ、さん? ここは、何処なの?」
「フェルで宜しいですわ、勇者様。ここがどこかにつきましては今から説明させていただきます」
そして彼女は、説明を始めた。
要点をまとめると、ここは異世界で、黒人たちは魔王を倒すために召喚されたこと。
しかし、すぐには無理なので最初は特訓をしてもらい力をつけてもらうこと。
住むところは、王城に住んで貰うこと等々。
ここから出ていく黒人には関係のないことだった。
「異世界ってことは、もとの世界に帰れる?
「それは、」
黒人は、一瞬だが、フェリーナの顔が曇ったのを見逃さなかった。
「今は、無理です」
「それは何故?」
「送還魔法を知っているのが、魔王だからです」
「魔王を倒せば帰れるってこと?」
「はい」
ーー嘘だな。
黒人は早々にその言葉が嘘であることを看破していた。
実際に嘘であり、召喚魔法は一方通行であった。
要するに、拉致だ。
「そっか、じゃあ何がなんでも魔王を倒さなくちゃな」
「はい、お願いします。それと、これから国王陛下にお会いしていただきたいのですが……」
「謁見、ってこと?」
「はい」
「じゃあ、案内お願いしてもいいかな」
「はい、着いてきてください」
悠哉が一国の姫に対してタメ口で話をしても、回りの兵士たちが熱り立った様子がないのは、フェリーナにきちんと言い含められているからだろう。
召喚された部屋を出ていくフェリーナの後を追って、悠哉、結香、久留美、信太郎、黒人の順で進んでいく。
しばらく入り組んだ廊下を進んでいくと、一際豪華で大きな扉の前に着いた。
フェリーナがその扉の前で止まると、兵士がコクリ
頷き、大きな扉に手をかけ、押し開く。
ギギギギィ、と軋んだ音をたてて開いた扉の向こうには玉座に座る壮年の男と、玉座へと伸びるカーペットの両側に立っている幾人もの臣下だった。
玉座へと向かっていくフェリーナの後ろを黒人たちは着いていく。
玉座の近くへと近づくとフェリーナは悠哉にここで止まるように言って、自分は玉座の隣へと立った。
「良く来たな、勇者たちよ。我はトルヴェン王国国王、トゥラファ・リグズ・トルヴェンだ。そなたたちには、この世界を救ってもらいたくて、喚んだのだ。どうだ? 手伝ってくれるか?」
「その前に、質問しても良いですか?」
「うむ、何でも聞いてくれ」
「勇者って、何ですか?」
「おぉ、そうだな、そこからだな。取り敢えず、ステータスと念じてみてくれ。そこの称号欄に勇者とあるだろう?」
「はい、ありました」
「わ、私も」
「あたしも」
「俺もあった」
「朱崎は?」
黒人が黙っていると、悠哉が話しかけてきた。
「ない」
「ない、だと?!」
黒人の返答を聞いて、トゥラファが声を荒らげた。
しかし、慌てて冷静なふりを取り繕う。
「本当にないのか?」
「あぁ」
「ううむ、困ったな」
再度、黒人の返答を聞いて、トゥラファが唸った。
「何か不都合があるんですか?」
「ある。勇者でない者は、いくら異世界人とは言え、HPやMPが低いだろう。それではダメなのだ。ちなみにそなたはHPやMPはいくつだ?」
トゥラファは悠哉に向かって話しかける。
「えっと、HPが5000でMP2500ですね」
「なんと、それほどか!」
トゥラファが悠哉の言葉に大袈裟に驚いて見せる。
当の悠哉はドヤ顔だ。
国王を驚かせたのが嬉しいのか、ステータスが高いのが嬉しいのかは分からないが。
「して、そなたはいくつだ?」
トゥラファが黒人へと向き直って問う。
「HPが800でMP500だ」
嘘である。
桁1つ程誤魔化して伝えた。
「ううむ、やはり難しいな」
「俺は一人で行く」
「何?」
突然の黒人の宣言に驚くトゥラファ。
それに構わずに黒人が立ち上がり、出ていこうとすると、悠哉が話しかけてきた。
「なぁ、朱崎。何も一人で行く必要はないだろう? 俺たちと一緒に戦えば安全じゃないか?」
「何でお前たちと戦わなければならない?」
「その方が安全だからだろ」
「そもそも、お前は勘違いしてないか?」
「何がだ?」
「俺は、この世界がどうなろうと知ったことではない」
「なっ、お前は目の前で困ってる人がいるのに見捨てるのか?!」
「ふざけるなよ、俺はお前たちに巻き込まれたんだ。それに勝手にこんなところに拉致されて。その当事者たちのために戦えだと? 謝罪されこそすれ、付き合わされる義理はない」
「な、どうしてだ! それなら、俺たちを手伝ってくれ」
「却下だ。それこそ義理はない」
「何でだ! クラスメイトだろ!」
「そんなもの、学校が勝手に決めた枠組みの中で偶々同じクラスだった、赤の他人だ。それに、クラスメイトだ何だと言うが、俺はお前たちと今日、初めて会話したぞ」
「っ、それは……!」
「良いじゃん悠哉、そんなやつほっときなよ」
「ともかく、俺は一人で行く」
そう切り捨てて、玉座の間を足早に出ていく。
ーーさて、まずは冒険者にでもなるかな。
黒人は先程見た自分のステータスを思い出しながら城下町へと向かった。
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名前:朱崎 黒人
性別:♂
年齢:17
HP:8000
MP:5000
称号:邪神の加護、異世界人、朱と黒の王
スキル:|《万魔殿》《パンデモニウム》、|《魔導書》《グリモアール》、|《魔喚書》《ネクロノミコン》、|《倉庫》《インベントリ》、剣術LV.5、軽業、身体強化、火魔法LV.5、闇魔法LV.5、威圧LV.5
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