七美の章 1
廃墟のような道だ。
錆び付いたガードレール。人の手の施しを受けなくなり、ボロボロになったコンクリート。その坂道を覆う木々は、所々倒れ、道にはみ出していた。
2053年、日本の田舎。辺境の地。それが俺の住む町。この町には大人がいない。皆、捨てられ、皆殺される運命にある町。
この町には怪物が住んでいる。その正体が、一体どのようなものなのかは知らない。ただ、この町で行われる怪物の食事、もといミンチ殺人の犠牲者は数しれなく、いずれ俺が犠牲者となってもおかしくはない、ということもわかっている。
ここ、蛹賀原町は、そんな町だ。我々、未成年犯罪者を合法的に殺す町。そのような町に、俺はいる。
今、この町で生きているのは、24名。そのうち、8人は顔見知りでもある。
俺の犯した罪の手助けをして、ここに入れられた幼馴染さえいる。
そんな犯罪者達にも、1つだけ規律はある。それは「生存確認」。俺が今登っている坂道の先にある、加須宮学園高校にて、それは行われる。
「おはよう。金井隆聖。」
「よぅ、門番。」
校門に立っている鳥嶋大地は、家族を全員殺したことでここにいる。ここではそんな素振りさえ見せないような、落ち着いており、真面目な奴にしか見えない、というのは俺の見間違いなのであろうか。
彼はいつも校門にいることから、門番と呼ばれている。
「何か異変はあったか?」
「林の中で女の子が死んでたな。見覚えはないけど。…顔も無かったし。」
「…そうか。後ほど身元の確認はしておく。ありがとう金井。」
「ん。」
おそらく、昨晩の犠牲者は先ほど門番に話した女の子だったのだろう。
俺は生存確認のために、南校舎の1階、2-Bの教室に向かうことにした。
今日は何をして時間を潰そうか、俺はそんな能天気なことを考えながらも、教室へと向かった。
教室に入ると、あまり話したことはないが一応顔見知りの細田猛がいた。彼はなかなか話してくれないので、なぜここに来たのかは知らない。
軽い挨拶すらもなしに俺らはすれ違う。俺は生存確認ノートの自分の名前の欄に今日の日付を書いた。これでよし。
今日も幼馴染みの桜樹七美の欄は空欄だ。別にもう死んでしまったわけではない。ただ、家に籠ってしまってるだけだ。
3日にいっぺん行けばいいくらいの頻度で一応顔は出しているが、そういえばそろそろ顔を出さなければいけない気がしてきた。とりあえずは、七美の家へ向かうとしよう。