プロローグ~一章め①
どうも、ヒコサクです。
ちょびちょびと連載していきたいと思います、よろしくお願いします!
平凡は、非凡にささやかな憧れを持ち
非凡は、平凡にひそやかに憧れを持つ
だが
平凡が非凡に変わり、それをふと認識してしまうと、さらなる非凡へ手を伸ばす
また
非凡が非凡であることに、貪欲を見出したとしても、さらなる非凡へ手を伸ばす
何が平凡で、何が非凡なのか――
それは誰の基準で成されているのか――
自分以外が平凡、非凡とみなされるのか――
答えなんてない? 基準なんてない? 差別ではない? 全てではない? わかっている
それでも、誰か教えてほしい
俺は、非凡でなければいけないのですか?
Ⅰ
拒絶――
それは、余程のMか、孤独を愛する人間しか受け止められない、衝撃的な態度。
特に、自分が「かわいい」だとか「気に入られたい」だとか、そういう「ドキドキ感」を感じた者にされると、その攻撃力は遥か宇宙の彼方から降ってきた隕石に等しい。
つまり例を挙げると、ふれあい牧場でウサギを撫でようとしたら全力で噛まれた、という具合だ。そんな時、大半の人が「痛い」だとか「この野郎」だとかよりも、「何で!?」と感じるはず。「何もしてないのに何で!?」と。
俺は今、そんな心境だ。「初めまして、初狩築です。よろしく」と、普通に自己紹介をしただけなのに。相手の十つほどの少女(幼女?)は永歌の後ろに隠れてしまった。あの驚きと恐怖の混じった表情を、俺はきっと一生忘れないだろう。
ああ、誰か俺の心を癒してくれ。ガラスのハートはパリンパリンさ。
永歌に目で訴えたが、彼女は困ったような笑み(作り笑い)を見せるだけだった。
別に、目つきが悪い訳でもなく、ごついマッチョでもなく、金髪でもなく、温泉は入れないからタトゥもしていないしごつい指輪もしてないし煙草も未成年だから吸っていないし睨んでもいないし笑顔だったのに……何でだよッ! ピアスがいけないのか! 茶髪がいけないのか! シルバーアクセがいけないのか! 服か、髪型か、全部か! 俺の外見を否定するなぁッ!!!!
「ツヅリさん、こんなチャラチャラと自己主張の激しい容姿ですが、築様は意外にも心優しく真面目で節操のあるお方です。安心して付いていっても大丈夫です、この永歌が保証いたします。女性を襲うなどという根性はないただのチキンな野郎ですから。ね?」
永歌、あんたは人を褒めて落とすのが巧いな。昔からそうだよな。俺の二十一点のテストを称えて、自分の満点のテストを出すんだもんな。やべ、泣きっ面に蜂攻撃がキツすぎて泣けてきた。
「ちきん? ……えっと、あの人、おねえちゃんの上司だよね? 鶏なの?」
はうっ、超かわええ! と騒ぐ心を抑え、俺はあくまでも紳士的な笑顔を作る。
〝ツヅリさん〟――そうだ、思い出した、彼女の名前は神澤続理ちゃんだった――が、永歌の後ろから顔を半分だけ出した。
まん丸で大きいきらきらな瞳が、やけに眩しい。純真無垢が溢れ出るような目だ。ああ、あと十年経たないうちにすごいべっぴんさんになりそうだ。将来が楽しみな子ってこういう子のことでしょ? うん。
「上司ですか……酷なことに、そんな感じですね」
「酷って、あんた!」
「告って、あんた? 全身全霊で拒否させていただきます。ああ、我ながら面白くないですね……」
「永歌、あんたはいつからそんな冷たいメイドになったんだ?」
「メイド? ふふ、ご冗談を。貴方の理想を私に押し付けないでください、気持ち悪いッ」
「メイド服常時着用のくせに! しかもヴァリエーション半端ないじゃん!」
「んふふふ、変態ですね。そんな下衆な目で私を見ていたのですか? 生きていて恥ずかしくありませんか?」
「昔の、昔の、優しかった永歌さんはどこですかぁぁぁッ!?」
「あら、築様。私は昔からこんなでしたが」
「ああ、そういえばそうだったな」
「……………………続理さん、ご覧のように築様は心優しく真面目で節操のあるお方です」
慈母のような微笑みで続理ちゃんの頭を撫でた永歌は、何事もなかったようにそう言った。
何故か敗北感がある俺は、膝と肘を畳についた。チックショォォォ!
「ふぇ!? ん、へ、え? あーうん、んんんんん?」
困惑する続理の声。どう反応していいのか解らないのだろう。解んなくていい、つーかどっちにしろ反応しないで。むなしさ百倍になるからね。
「築様、顔をお上げください。そんなみっともない格好、わざとらしく見せ付けないで欲しいものです」
「……すいません」
「――あ、そういえば築様。私の人生の中でどうでもいいことなので忘れていましたけど……」
顔を上げると、永歌が細長い食指をあごに当てて笑っていた。先ほどの微笑みからは想像できない、残忍な笑いだ。
嫌な予感がして、彼女を睨みつける。
「破繰様がお呼びでしたよ。絶対に来るように、とのことで」
「あ? 嘘だろ……はぁ、ああ、そうか」
「嫌ならば、私のほうから後で『築様は恐怖で泣きじゃくりながら、逃げるようにお帰りになりました』と報告しておきますけれども」
「馬鹿いうな。この初狩築もそこまで腐ってはいないさ」
溜息を吐きながら、ゆっくりと立ち上がると、ジャラリ、と身体のあちこちでチェーンが鳴った。
「ふっ、失礼いたしました」
申し訳ない気持ちが全く現れない声で、彼女は頭を下げた。五センチだけ。
「んじゃ、続理ちゃん、また後でね♪」
顔だけではなく全身を永歌の後ろから現れた小さな少女に手を振って、ジャラジャラとうるさく俺は廊下に出る。うるさいなぁ、と自覚はしているのだが、この音があると不思議と落ち着くのだ。
はっとしたように口を開け、戸惑いながらも控えめに手を振り返す続理ちゃんの姿を一瞥。その時のはにかむような笑顔は、ロリコンでない俺でも心を鷲摑みした。
「変態が」
永歌の呟きは聞こえなかったことにしよう。
☆
さてさて
破繰の囚われている離れまでは距離があるので、今までの経緯を少しお話しするとしよう。
閲覧、ありがとうございました。
感想等ありましたら、一言でもいいのでいただけると嬉しいです。