第五話 旅立ち
朝露が葉を伝い結晶を落とし、湖には朝を迎えた動物達が潤いを求めて訪れていた。
一晩中話していたあみとルキはぐったりと湖のわきに寝ていた。
「ん、頭いたい…水浴びしようかな」
あみはだるい体をゆらりと不気味に起き上がらせると、ルキの顔を覗き込んだ。
「………」
静かに寝息をたてながら、座って木によりかかる様にして寝るルキは、光を浴びて美しい。
「祐希…」
そういえばあっちで最後に会ったのは祐希だったな、等と考えながら物影に移動し服を脱ぐ。
「別に、帰れなくても良いかな…うん」
頭まで水に潜り全身を濡らすと、首に痣があるのに気付く。
「やだこれ」
首をきつく絞められた痕が赤く線を作っていた。
ガサッ
「誰?!!!」
体を水につけて振り返る
「なんだよ、あみか」
「あ、ルキ」
「おはよ」
「ん、おはよう…ってちょっとーーー!!!!!」
「っるせー」
ルキは水浴びをしようと服を脱ぐ
「ひいいいーーーくんなっ」
あみはばしゃばしゃと沖に逃げる、しかし湖は透明度が高くほとんど見えてしまう。
「おい」
「わっ!!!!」
深みに足を取られてあみは水に沈む。
体を長い腕が後ろから包み浅瀬に引かれる。
「コホッ、う…うー死ぬかと思った」
ふと背中の温もりに気付いて振り向く。
「ルキありがと…」
「こちらこそ」
「へ、何言って」
よく見るとルキも全裸で、水中で裸で後ろから抱きつかれている。
「き…」
例のごとく叫ぼうとしたあみの口を長い指が塞ぐ。
「んっ…ねぇル、キ…っふ」
あみは水中で暴れるがしっかりと抱き直されてしまう。
「首、痣になってる」
髪をかき分けると、痣にそっと触れ、なぞる様に口を這わせる。
「ひゃ…やめて、よ!!!!」
肘を全力で腹にめり込ませると、緩んでいた腹部は思い切りへこむ。
「ーーゲホッおい!!!!」
水を掻いてあみは陸につくと、見られまいと草影に入って服を着る。
「盛ってんなばあーか!!!!」
「ったく、かわいくねー」
べーと舌を出して逃げるあみにちぇっと舌打ちする。
「ルキはさ、旅してんの?」
ルキにパンをもらい、もぐもぐと口を動かしながらあみは話す。
「んーまあな」
「なんで?」
「探し物」
「なに?」
「内緒」
「えー」
「内緒」
「けちー」
あみはぶぅと口を尖らせる。
「あたしどうしようかなぁ」
濡れた髪を指に絡めながらあみは話した。
ルキは荷物―と言っても、2本の剣と腰につける小さなポーチ―をまとめると、火を片付け始めた。
「家に帰りたいとは思わないけどさぁ」
「またあいつら来たら嫌だし、んー…」
ルキに向き直ると、火を消し終わった様だった。
「ちょっとー聞いてんの?」
「ん」
適当に返すと、スタスタとルキは歩き出す。
あみは呆然とそれを見ている。
「なにしてんだよ、行くぞ」
「へ?」
思わぬ一言にあみは驚く。
「ほら」
「だけど、あたしといたら危ないし…怪我したばっかだし…」
「別に、どーせ目付けられたっしょ」
「あ、ありがと。ほんとになんか、うん、ありがと」
あみなりの精一杯の言葉を言ったつもりだが、通じただろうか。
「じゃあ、礼してよ」
「もちろん!!!」
あみはかばってくれたルキに感謝の気持ちを示したかった。
「えっと、なにがいいかな…ねえ、なにが」
顔を上げると、そこにはルキの端整な顔があった。
ルキはあみの後頭部に腕を回すと、ぐっと引き寄せて口付ける。
「ん…」
あみは急なことに目をぎゅっとつぶる。
唇を割って、舌が入り込むと温かさが口内に広がる。
「ちょっ…んぁ…っは…」
ちゅっと音を立てて軽く唇をついばむようにして顔が離れる。
あみは顔を真っ赤に染める。
「っにすんのよばかっ」
ぺろっと舌を軽く出してルキはスタスタと歩き出す。
「置いてくぞー」
「ま、まちなさいよっ」
静かな朝の森に騒がしい声が響き渡る。
空からは監視の目が光っていた。