第二話 迷い込んだその先
暴力的及び性的表現が含まれます。閲覧には充分注意してください。
深く緑の生い茂る森の中央には巨大な湖が薄暗い森に命を与えていた
「くっそあちー」
ルキは銀の髪をかき上げ再び冷たい水に身を任せる
「いい加減雨ふれっつーの…」
ぷかぷかと水に浮かびながら太陽を睨んだその時、明らかに太陽光ではない光りが空に広がる
「くっ…?!!!!」
思わず目を閉じ再び開いた瞬間に頭上に巨大な落下物を見る
「っげ」
バシャン
恐ろしい勢いでルキに襲いかかったそれは人型をしていた
深さは2mほどであるためルキたちは底まで沈んでしまった
浮力をたよりに水面に上がったソレをルキは追いかけた
(女…?)
「…はぁっはぁっ…っくゲホッっあー…」
ソレを脇に抱えて陸にあがり息を確かめる
「…ゲホッゴホッはぁ…はぁ…」
「なんだこの格好、こんな民族いたか?」
短いスカート
ピンクのシャツ
ニーハイ
空から降って来たのはあみだった
「ん…」
鼻をくすぐる臭いにあみはゆっくり目を開ける
「起きたか」
「!!!!!!」
ガバッと上半身を起こし声の主を探す
「なっなんだよ」
突然の動きにルキは驚き思わず後ずさる
「あれ…さっきのやつじゃない」
「は?」
「??!ってかどこよここ!!!あたし死んだんじゃ」
「お前何言っ…」
「生きてる?!!!あたし生きてる!!!!よかったあっ…うぅ…ヒック」
あみは安堵から涙を流すがルキは何がなんだかわからず困惑する
「きっとアイツがあたしを此所に捨ててったのをあんたが助けてくれたのね?ありがとっ」
にっこりと満面の笑みを浮かべるあみに、よくわからないが照れくさいルキを顔を反らす
「お礼しなくちゃね、あたしあみ、よろしく」
「あ、俺はルキース、ルキで良いよ」
「変わった名前ね髪も…ハーフ?」
「は?ハーフエルフじゃねえよ、俺は人間」
「なにエルフって…」
「…てかお前誘ってんの?」
「なに言って…」
ルキの視線を追って体を見ると何も着けていない
「いっやああああああ」
甲高い声が昼前の森にこだました
足下にあった薄い布を体に巻いて頭まで被る
「最悪っ変態っくたばれヤリチン!!!!!」
あみは顔を真っ赤にして叫んだ
「ヤリチンてなんだよ…てか変態とは失礼だな、濡れてたから乾かしてやったんだよ」
ルキはあみに寄りしゃがんで視線を同じにする
「さっき礼がどうとか言ってたよな」
「え」
「けっこう良い体してんじゃん、それでもいーよ」
そう言いながらぐんぐん顔が近付いてきた
さっきの男に負けないくらい綺麗な銀髪
綺麗な二重の目は引き込まれそうなスカイブルー
筋の通った鼻
淡いピンクの唇
タンクトップから覗く鍛えられた筋肉質の体
あみは自分の状況も忘れうっとりと見つめた
しかしルキも同様に動きを止める
「…ちょっとは危機感持てよ」
「へっ?あ、そうだっやめろ変態!!!!」
両手でルキの体をぐっと押す
しかしルキはその腕を片手で押さえてあみを押し倒し、頭の上で両手を押さえ込む
「いやっ…」
ぎゅっと目をつぶるあみを目を伏せて見つめ、首にそっと口付ける
「んっ…やだっ」
布に手をかけようとして動きがとまる
「っと、残念だけど一旦終了、お客様だ」
「えっ…?」
「ほらよ服着な」
ルキは服を投げると、湖に向かって構え近くに置いてあった刀を持ち上げた
あみは投げられた服をがっしりと掴み必死で着る
湖に波が立ちあみに見覚えのある人物が空から舞い降りる
「まったく、どこに落ちたかと探し回りましたよ、無事でよかったです」
「あんたっ!!!!!ってかう、浮いて…」
「なんだよあみの知り合いかよ」
「えっちが…」
「あなたが彼女を助けてくれたんですね、ありがとうございます」
金髪の男は水面まで降りるとスッと水面上で歩き出す
「!!!!」
あみとルキは目を丸くしてそれを見つめる
「あんたまさか、空の住民か?」
「おや、地上にもこのくらい出来る方はたくさんいますよ」
「いや、背中になんか隠してんだろ?」
「おっと、眼がよろしいようで」
「そ、そら?」
あみは2人の会話が理解出来ずその場に立ち尽くしたまま目をきょろきょろさせる
バサッ
羽ばたく音が聞こえた瞬間、空に純白の羽が散る
「は…ね?」
金髪の男の背から1mは軽く超える大きな翼が2本現われる
「天使サマにこんな場所で会えるとはな、まさかあみも…」
「へ…あ、あたしは人間よっ」
「いえ、あなたは私達種族の血を体に流していますよ」
男は優しくあみに笑いかける
すでに男は2人との距離をぐんと縮めていた
「なにいってんの…」
「ですが、まだ目覚めていないようですね、時がくるまでは…」
男はそこまで言うとゆっくり振り返る
そこにはしっかりと武装をしたがたいの良い兵士が数人こちらを睨んでいた
「貴方方は…また邪魔をするのですね、ルキースさん後は頼みましたよ」
それだけ言うと男は翼を広げ空高く舞い上がって行った
「なんで俺の名前…」
ルキは手で目をかばいながら空を見上げたが、すぐに兵士の動きに気付き剣を構える
「あみ」
「ふぇ?」
急に声をかけられあみは素頓狂な声を出す
「危ないから俺から離れんなよ」
「う、うん」
なにが始まるのかとあみは不安になるが、とりあえずルキの後ろにすっと隠れる
兵士は勢いよく2人の方へ走り出す
1人が手に持った巨大な棍棒をルキに振り下ろす
「っく」
ルキは剣でそれを受け止めると力強く押し返す
兵士はバランスを崩すとルキが足に切りかかる
「ぎゃああああ」
足下から血が噴き出すと兵士はその場に転がる
息つく間もなく更に3人が剣を手に切りかかる
ルキは瞬時に空いてる手で剣を抜き1本で前の2人を押さえ込み
横から来た男の腹部にもう1本を深々と差し込み、ぐっと横に裂く
「ぐはっ…ゲホッ…」
腹が無惨に引き裂かれた兵士は前屈みになり倒れ、そのまま体をピクピクと痙攣させ事切れた
一瞬の出来ごとに前の2人が唖然としてそれを見ていたがすぐにルキに切りかかる
再びルキが切り付けようと腕に力を込めた瞬間
「いやっ放せ!!!!!やだやだやだ!!!!!!」
あみは潜んでいた巨体の兵士に抱えあげられる
バタバタ抵抗するも片手で抱えられたあみは何の力も持たない
ルキがあみに気を取られた瞬間を兵士は見逃さずに剣を突き刺す
「痛っ」
すぐに1人を受け止めるも、もう1人の剣が右肩をかすめる
「ルキ!!!!」
肩の痛みに顔を歪ませながら2人を薙払いあみへ向き直る
「動くな」
兵士の声がルキを止める
兵士の腕に力がこもりあみの首がきつく絞まる
「うっ…」
「おい!!!!」
「ぐっゲホッゲホッう、おおおおおおお」
兵士は急に苦しみだした
「大事な体を傷付けないようにと言ったでしょう」
ルキは開放されたあみに駆け寄り声の主を探す
「ゲホッ…はぁはぁっはぁ…」
「大丈夫か」
「ん…」
「すいませんねぇ部活がご無礼を」
しゃがれた声の主は不気味な老人だった
オールバックにした肩下までの髪は紫に染められ
骨張った顔には深いしわが刻まれていた
老人はいつ来たのか兵士の横に立ち小柄な体は腰が曲がってるせいでさらに縮んでいる
「っぐ…ゲホッ…ミールさ、まゴホッ」
「ふん、お前のような下級兵士を使わせた私が馬鹿でしたね」
ミールは冷ややかな眼で兵士を見下ろすと指をパチンとならした
「お助…ぎゃああああ」
音を合図に炎に包まれた兵士はあっと言う間に炭と化した
「…ひどい」
「ひどくなんかありませんよ、あなたを傷付けたのですから当然です」
「でも仲間じゃないの…最低だよ!!!」
「おや、人聞きが悪いですね」
じりじりと老人は2人に寄る
ルキは剣を構えてあみの前に立つ
「あなたに用はないのですよ、邪魔しないでください」
ミールが片手を軽く振るとルキは風に飛される
「??!」
ドサッ
ルキは衝撃に一瞬倒れる
「さあ、行きますよ」
「いやっ」
あみは手を掴まれ引張られる
「くそっ」
ルキは再びミールに剣を振りかざすと微かにミールの服をかすった
すると見る見るうちにミールの顔色が変わる
「私に振れるな小僧!!!!!!」
ミールは狂ったように叫ぶと勢いよくルキに手を振りかざす
火花が散りルキの全身に電流が走る
「っく、う…」
激しい衝撃にルキは倒れる
「いや…」
あみは惨い傷を負ったルキに眼を覆う
「はぁ…はぁ…」
「おや、しぶといですね」
『ミール何をしている』
空高くこだました声にミールは今度は恐怖に顔を染める
『何をしているんだ』
「わ、わたしはこの娘を掴まえようと…」
『まだ力を戻していない天使を連れ帰ってどうするつもりだ』
「それは…ですね」
『血を抜いて金にでも変える気だろう』
「ひっそんなことは…」
『まあ良い戻ってこい』
声はそこでおさまると老人も闇に姿を消した
「なんなのよ…」
呆気に取られたあみはその場に崩れる
「あ!!ルキ!!!」
急いでルキに駆け寄るが全身を火傷したルキは身動きも取らない
「ちょっと…起きなよ、ねえ…ねえ!!!!!」
あみの目から涙が溢れ頬を伝う
それが一滴ルキに落ちる
その瞬間ルキは眩い光に包み込まれた