第8歩:色々と考えても、君はそこにいる。
あんな事を言っておいて、男というヤツは・・・とか言うと、他の男共に悪いとは思うが、なんとなくでいい・・・。
その、解って欲しい。
唐突に出来た仮免の彼女は、クールで知的で美人だ。
美人か、美人でないかの2つだけに分けるとしたら、そうなるだろう。
でも、オレは昼休みの屋上での出来事に少し後悔し始めていた。
どちらかといえば、早まっただろうか?
けど、彼女自身に何ら悪いところはない。
ないんだから、単純にオレだけの事情で、オレが悪い。
「完全に女に刺されるパターンだな。」
まさか自分がこんなにも優柔不断だったとは思わなかった。
午後の授業に入っても、こんな感じで・・・。
「?」
視線を感じて、ふと彼女の方を見ると目が合った。
合った途端に彼女は頬を染めて、慌てて視線をオレから外し黒板の方を見る。
(今までと全然違うじゃねぇか。)
あれだけアプローチが積極的だったクセに。
その反応は普通、告白する前のもんで、これじゃあアベコベだ。
大体、そんな反応をされてもオレが困る。
・・・ん?
オレが困ってるのは最初からだからな、変わらない。
なんだそれ。
なんか不公平じゃねぇか?
まぁ、それは置いておくとして、仮とはいえ彼女が出来た。
そして、そこではたと気づいた事がある。
"オレはこれから一体どうすればいいんだ?"
彼女、恋人というのがいる男ってのは、普段どういう風に一緒に過ごしてるんだ?
何をすれば?
甚だショボイんじゃないか、俺。
でも、でもだ、オレは彼女がそんな唐突に出来るという、なんていうの?覚悟?態勢?が出来ているわけじゃないんだから、仕方がないだろう?
彼女とどうしたいとか、何したいとか、そういった類のものが浮かんで来なかったとして。
「まてよ・・・?」
じゃあ、逆に彼女、金城 千鶴にはあるのだろうか?
オレと一緒にしたいコトが。
向こうはオレと違って、オレを彼氏にする、なって欲しいって願望があったんだから。
一つくらいそういうのがあっても、おかしくはないはずだ。
・・・・・・で、オレはそれを馬鹿正直に本人に直接聞けと?
「ふぅ・・・。」
なんか、メンドクせぇな、ソレ。
そんな面倒なやりとりを巷のカップルとやらは考えたりするのか?
オレが難しく考え過ぎなんだろうか?
そんな事を考えながら、午後の授業を過ごす事になったんだが、彼女の方は一度目を合わせたっきり、一度もこちらを振り返る事はなかった。
やっぱり、オレが考え過ぎなのかも知れん。
「イツキ、ちょっくら部活行ってくるわ。」
「今日は行くのか?」
「いくらオレ様が天才でも、たまにゃぁ、体動かさねぇとな。行って参る~。」
放課後、ダイは意気揚々と部活に行く、
ちなみにヤツの部活は卓球部だ。
イメージが全く湧いてこないが、あれでもそこそこ強いらしい。
オレは全く興味がないので、あまり深く話しは聞いた事はないが。
本人も趣味気分でやっている。
なのに強いってんだから、本当、ある意味では天才なのかも。
「ダイはムラがあり過ぎるんだよね。」
「ケイスケ?」
ダイが出て行った教室の出入り口と同じ方向を見ながら、オレの所に来たケイスケが呟く。
「ムラというより、大雑把なだけだろ?」
「昔、ダイのお母さんが集中力をつけようとして、ピアノを習わせたりしたらしいよ?」
「ぴ、ピアノぉ?」
そっちの方がミスマッチ限りない。
ダイのイメージからして、ピアノというより尺八の方がまだしっくりうる。
「まぁ、いつまで経っても楽譜が読めるようにならなかったらしいけど。」
「そこからかよ!」
そこはブレずに今のダイのイメージのまんまだな。
「でも、ピアノ先生が音符と鍵盤に番号をつけたら、あっという間に弾けるようになったから、つまんなくなって辞めたって。」
「表現力を別にすれば、数字の組み合わせを順番通りに押していけばいいってか?」
そんな単純な問題じゃない。
「本当、全世界のピアノを頑張っている人に土下座して謝れってカンジだよね。」
こういう事に関しては、ケイスケは本当に容赦が無い。
「それでも出来るってんだから、アレだな。」
「アレだね。」
オレ達に共通して浮かんだのは、"なんちゃらとなんちゃらは紙一重"
これに尽きる。
「と、いうのは置いといて。今日は僕も部活に行こうと思っているんだけど・・・。」
そんなズバッと容赦が無いケイスケが珍しく言い澱む。
ケイスケの部活は陸上部。
これまた線の細い優男のケイスケのイメージとかけ離れている。
「けど?今更気を使うようなもんじゃないだろ?」
毎日毎日一緒にツルんでるわけじゃないし、ずっと一緒にいるってのも気持ち悪い。
「あぁ、うん。ただ、ほら・・・。」
そう言うとケイスケは自分の後を促す。
「ん?」
促されるままにケイスケの後を見ると・・・彼女が立っていた。
鞄を両手で持った彼女は、オレに声をかけるのを逡巡しているようにも見える。
「ケイスケ、悪いな。」
これでもオレに気を遣ってくれたらしい。
ケイスケも彼女も。
昨日、ケイスケが友情の優先順位とかいう話題をしたからな。
「じゃあ、僕はこれで。」
「おぅ、じゃあな。」
どうせ明日も会う顔だ、挨拶なんてこんもんでいい。
で、どうしたものか・・・。
困っているようにも見える表情。
それはオレも同じだ。
「オレはこれから、帰るけど?」
「うむ・・・。」
「じゃ、帰るか。"一緒に"。」
「え?」
じぃっとオレを訝しげに見つめる。
こういう場合は、男の方が折れてやらんといかんだろ?
「帰らないの?」
「帰る!君と一緒ならば何処までも!」
「いや、自分の家にちゃんと帰ってくれ、そこは。」
一緒に帰る。
たったそれだけの事。
それなのに、こんなにも息巻く彼女にオレは心の中で苦笑する。
「じゃ、行くか。」