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第7歩:目と目が合ったら・・・。(金城 千鶴の場合)

 何が起きているのか全くといっていい程、把握出来ていない。

これが属に言う、"舞い上がる"というものなのだろうか。

そうやって冷静に分析しようと思っても、考えがまとまらないのだから、私にはどうもしようがない。

彼の友人も一緒に昼食だというのにこれだ。

これでは二人きり・・・二人きりだと?!

そ、そんな事になったら私はきっと・・・。

・・・・・・鼻血を出すな。

鼻血ではないとしても、なんというのだろう、きっと何かが噴き出す。

出てしまう。

彼が私を見る、私を瞳に映すだけでこれとは・・・。


「これが"恋は盲目"というものか。」


 こんな私の狼狽ぶりを家族が見た日にはきっと悶絶するだろう。

しかも、腹を抱えて。

いや、母なら赤飯を炊きかねない。


「何か言ったか?」


 私の呟きにすら答える彼は、非常に律儀で誠実だと思う。

この瞬間だけは、彼は私の事を見、私の事だけを考えている・・・いかんな、これは冗談ではなく噴き出しそうだ。


「いや、気にしないでくれ。ちょっと考え事をしていただけ。」


 ここまでで私が思うに、彼はきっと私に悪いイメージは持っていないはずだ。

でなければこんな状況にはならない。

し、しかし、迷惑ではないのだろうかと心配にはなる。

彼はクラスの人気者とまでは言わないが、人当たりがいい。

その性格と相まってクラスで彼を悪く思う者はいない。

女子にはそれなりの人気を博していて、ライバルが多く、しかも皆、私より可愛くて愛嬌のある者ばかり。

それに対して、私は正直"つまらない女"のはずだ、自覚はある。

その証拠に、さっきから話題がなかなか見つからない。

ほぼ皆無だ。

こんな事ではすぐに飽きられてしまう・・・飽きられる?!


「いかん、それはいかん。」


「へ?何が?オレ、今なんかしたか?」


「あ、いや・・・。」


 飽きれらない為には・・・どうすれば・・・。

打開策がない。

女として飽きられるのは・・・。


「鳴瀬 斎くん、君は何色が好きかな?今は、体育もあるから、その、白なのだが・・・。」


「は?何の話だ?」


「イツキはね、多分、派手じゃなくて、可愛い系が好きだと思うよ。」


「水玉とシマシマは青春だ!」


 私の質問に対して、彼はきょとんとしたままだったが、彼の友人達が横合いから口を開く。

彼等は同学年の男子だし、何より彼の親しい友人。

彼等の言い分はきっと一理あるのだと思う。


「解った、覚えておく。」


「ちょ、ちょっとマテ、オマエ等、何の話だ!つーか、何を納得してんだ、あぁんっ?!」


 頭の中のメモ帳にきっちりと記して、買っておいた緑茶を飲む。

慌てるところを見ると、あながち的外れではないようだ。


「はぁ、全く。」


 声を荒げても、怒らないところが彼は優しい。

昼食をあらかた終えて片付ける。

これで、昼休みも終わりか・・・。


「あ~悪ィ、ケイスケ、ダイ、先に戻っててくれないか?オレは金城さんと話があるから。」


「なっ?!」


 ふ、ふ、二人きりでだと?!


「は~い。」 「うぃうぃ。」


 あっさりと屋上から去る二人と、残された私達。

ダメだ!無理だ!

すでにこの状況だけで、私の心拍数は異常値になっている。

これ以上、この状況に晒されたら、私はきっとダメになってしまう!


「ん~。」


 二人きりになって、まず彼はおもむろに屋上と階段を隔てている扉を蹴とばす。


「?」


「おし、盗み聞きはなしと。ヤケにあっさりと引き下がったからな。」


 ・・・彼の友人は、そういう友人らしい。

障子にメアリーというし。


「で、だ。」


「う、うむ。」


 これから私は一体どうなるのだ?

当然ながら、誰も答えてはくれない。

立ち尽くした私に対して、同じように正面に立つ彼。


「オレもさ、色々と考えたんだよ。」


 考えた。

それは私だってそうだ。

ずっと君の事を考えていた、想っていた。

機会を逃したくはなかった。


「金城さんだって、色々と考えたと思うしさ。」


「う、うむ。」


「で、オレも同じとは言えないだろうけど、まぁ、それなりに考えて・・・。」


「考えて・・・?」


 ゴクリと息を呑む。

早く、何でもいいから先を言ってくれ!


「考えて・・・結局、答えが出せなかった。」


「は?」


「だって、考えてもみろ?オレは全然、金城さんがどういう人間なのか知らないんだぜ?それこそ、さっきの会話じゃないけれど、好きな色すら知らないし。」


「あ・・・。」


 それは確かに、私も彼の好きな色は知らない。

よく青系のシャツや、身の回りのものもその色が多いからという推測はするが、でもそれは私の推測の域を出ない。


「それで答えを出すのって、すっげぇ難しいというか、オレには難易度が高過ぎました。」


 だからといって、断られるのは嫌だ。

この昼食ような時をもっと過ごしたい。

私は欲深過ぎるだろうか?


「確かに、解り合う時間は必要かも知れない。」


 だが、付き合う者同士の全てが互いをよく解り合ってから恋に落ちるのか。

それは否だろう。


「では、どうだろう"お試し期間"を設けるというのは?」


「お試し期間?」


「そうだ、互いに"感じ合えない"というのは、私も望むところではない。」


「・・・"解り合えない"な。全然違う意味になってるぞ。」


 どちらも、私にとっては変わらない。


「3カ月・・・は、長いな。1カ月と夏休みを合わせて。というのはどうだろう?」


「・・・・・・オレはいいけど、金城さんはいいの?」


 中途半端かも知れない。

でも、この夏休みの間だけでも恋人同士でいられれば・・・。


「君がその間、仮免とはいえ、私を恋人のように扱ってくれるというのなら。」


 どんなに幸せな事だろう。


「・・・解った。」


「では、今日から夏の終わりまで"お楽しみ期間"という事で。」


「"お試し"な。」


 それこそ、どちらも変わらない・・・しかし・・・。


「呼び方は・・・そのままなのだろうか?」


 とても重要な事だ。

見逃す事は出来ない程に。


「・・・千鶴・・・さん。」


「さんはいらない。」


 やはり、親しみや距離感が違う。


「・・・・・・千鶴。」


「・・・。」


「どうした?」


「正直・・・。」


「ん?」


「鼻血か何かを噴き出してしまうかと思ったんだが・・・。」


「鼻血?」


「それとは違う位置からというか、何というか、ぬれっ・・・。」 「ヤメいッ!!」


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