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第3歩:アレやソレやの昼食会議。

 金城きんじょう 千鶴ちづる

それが彼女の名前だ。

外見的な特徴と言えば、ふんわりとした髪型と眼鏡。

白い肌・・・クラスの女子の中でもとびきりに細い腰・・・あぁ、胸は意外と控えめ?

オレが認識出来る範囲の中では、それくらいだ。

内面となったら、輪をかけて知らない。

さっきの会話から推測すると、思い込んだらブレない性格?

ちょっとズレてて、人の話を聞かないどころか、誤変換が得意な事ぐらいか・・・。

あとは品行方正で秀才。

こんなのはクラスの誰もが知る事実。

確か、前回の中間では学年トップだったとか何とかをケイスケが言っていたな。

学業と性格ってのは、特に関係ないって事だ。

かく言うケイスケだって、前回はしれっと学年4位だったりするからそういうもんなのかも知れない。


「ん?」


 授業中のオレはそんな事をつらつらと考えていたんだが。・・・。

オレの席の斜め前、そこからしせんを感じて顔を向けると、案の定金城さんがオレを見つめていた。

流石、秀才。

授業なんざ聞かんでも余裕ってワケですねとか感心すればいいんだろか?

数秒、彼女と目が合うと、彼女は声には出さず、オレに見えるようにゆっくりと唇を動かし始めた。

勿論、オレを見つめたままで。

どう考えても、オレに向けて発信している事は間違いない。


(なになに・・・?)


(ア・イ・シ・テ・ル)


 うぉぅっ!!

な、なんかゾクっときたぁっ。

恐しいなんてもんじゃなく、背中にゾクっと!

頑張って唇を読んだオレの貴重な学習時間を返しやがれ。

オレの反応で、自分の言いたい事が伝わったのが解ったようで、満足した(?)彼女はすぐに顔を板書へと向けた。

ちなみにこの直後に彼女は授業している教師に指されて、板書の問題を解かせられたのだが、すらすらと澱みなく回答して、当然のように正解していった。

・・・なんか、もう、土台からオレとは出来が違う気がする。

しかし、その授業の休み時間に彼女のある一面を知った。

授業の休み時間、彼女が真っ先にオレに話しかけてくる・・・なんて事はなかった。

次の休み時間も、その次も。

但し、授業中に必ず一度は熱視線を受けたが。


『少し考えてみよう。』


そう言った彼女は、一応その言葉通りに間を空けてくれたみたいだ。

猪突猛進的に告白してきた彼女だが、最低限の律儀さはあるらしい。


「鳴瀬 斎くん。」


 その時間とやらも昼休みが始まるまでだったが・・・まぁ、4時限分の時間はちゃんとあった。


「金城さん、悪いけど、昼休みは僕達がイツキを借りてっても良いかな?」


 割り込んできたのはケイスケだ。

その横にはダイもいる。

オレ達は昼は大体一緒に食べている。

そんな毎日のルーチンをこっちもこっちで律儀にこなしに来てくれたと。


「そーだ、そーだ、女はあっちに行けや。」


 ダイ・・・オマエは小学生か・・・しかも、低学年レベル。

下手したら、ぺっぺっと唾を吐きかねない。


「いや、しかし・・・。」


 当然、先に声をかけた金城さんは不満げ・・・だよな?

な、顔をする。


「男同士の友情を重視するのも、良き恋人の心得だよ?」


「む。そ、そうなのか?・・・解った。」


「ありがとう。」


「いや・・・。」


 す、すげー!ダイスケすげー!

もう彼女のリズムを掴み始めてやがる。

ケイスケ・・・恐ろしいコ・・・て、恋人ってなんじゃいっ!!


「オマエ、あのなぁ・・・。」


「イツキ、ダイ、屋上行くよ。」


 オレが抗議の声をあげ終わるより早くケイスケが光の如く促す。

あたかもオレが反論するのを予測していたかのようだ。

だが、わざわざケイスケが割り込んで来てくれたし、彼女も引き下がってくれたんだから、是非もない。

オレ達は購買でパンを買い屋上へ行く。




「で、どうするの?」


 他の生徒との間を縫って適当なスペースに腰を下ろすと、開口一番にケイスケが聞いてくる。


「ど、どうするって言われてもなぁ・・・。」


 本当に唐突過ぎて時間が足りない。

足らなさ過ぎる。


「そんなのは断ってしまえ!そしてオレ達と夏の海へ行くのだ!」


 海へ行く本来の意味を崩壊させながらダイが叫ぶ。

おんにゃのコとイチャイチャするのが本来の目的なんだから、これはこれで一つの目的達成と言えなくもない。


「僕はいいと思うよ?」


「は?」


「だから、付き合っても。」


「誰と誰が?」


「イツキと金城さん。」


 冷静なケイスケがこんな事を言うのは意外だけれど、言うからにはちゃんと意味があるはずなんだ。

そうに違いない。


「ケイスケ、そりゃねぇだろ!」


「ダイ、落ち着いて。そもそも公衆の面前であれだけの事を言うんだ。僕は彼女の勇気と英断。そしてイツキへの評価に拍手したいね。」


 何時からオレの彼女には、【スキル:勇気】が必要になったんだ?

いや、勇気は確かに必要っちゃ必要かも知れんが、勇者になる必要がないんだから、そんなのは余計だ。


「僕が教室であれだけ焚き付けても、ちゃんと声を挙げたのは彼女だけだったし。」


「あ・・・あの時の・・・。」


 ケイスケの不可思議な言動の意図をようやく理解出来た。

つーか、今のオレがこんな有り様になった発端はケイスケってコトじゃねぇか。


「オマエな、全くヒトゴトだと思って・・・。」


 被害に合うのはオレなんだぞ?


「何?僕のせい?違うよ、イツキが鈍感なのがいけないんだよ。イツキ、自分が女子にモテる人間だって自覚ある?」


「は?」


 とうとうケイスケまでもがダイのように脳ミソ沸いたか?

最近、暑くなってきたもんなぁ。


「ほぅら、鈍感。知らなかったでしょう?大体、僕とダイの両極端なのに振り回されても動じないし、許してくれてるし。そういうのってたいした包容力だと思うんだけど?」


「ほ・・・あのなぁ、フツー友達と一緒にいるのにそんな事をいちいち考えないだろ。」


 それが友達ってもんだとオレは思う。

利益のあるなしなんてクールに割り切れないし、割り切りたくない。


「オレはちゃんと自分で友達を選んでる。後悔も迷惑も感じてない。」


「うん、解ってる。だから、僕達もイツキに彼女が出来るのは歓迎するし、出来る事なら良い彼女を持ってもらいたいと思うのさ。」


「ちょっと待てよ・・・?」


 オレはこめかみを揉みながらケイスケを見る。

どう考えてもあれだ、丸め込まれてるよな?


「非常に友情に溢れた友人の良い台詞を言っているように思うんだが、事の発端はオマエで、そんで強制的にオレに彼女を作らせる事とは何のつながりもないよな?」


「チッ。」


 今、舌打ちしただろ?したよな?舌打ち。

しかも、何だ、その気づきやがったかこの野郎的な視線は。


「それはアレだよ。あれで誰も来なければ来なかったで良かったし、来たら来たで、その勇気は褒めてあげたいじゃない?」


 確かに一理ある部分はある。

あるし、言いたい事もなんとなくだが解る気がする。

ひっじょ~にっ、不本意ではあるが。


「で、来たのはアレか・・・。」


 直球剛速球がいらっしゃいましたと。


「彼女は彼女で本気でイツキの事を好きみたいだし?その点に関しては悪くないかと思う。」


「・・・本当にそう思ってるのか?あの性格を見て?」


 ケイスケの目をじぃ~っと見つめて聞き返す。


「目ェ、逸らすなや、ヲイ。」


 露骨に視線を逸らしやがったぞ。

絶対楽しんでんだろ、コイツ。

何が友情だ。


「まぁ、それはそれで慣れもあるし、どう転ぶか解らないじゃない?僕とダイの性格だって大概なんだし。」


 そういえば、この件に関して一番鼻息荒く息巻いていたダイは・・・?


「心の友よォ・・・。」


 鼻水垂らしながら号泣していた。

心の友というフレーズは、お決まりになったのか?


「ケイスケ、何、アレ?」


「ん~、多分、イツキの言葉に感動しちゃったんじゃないかん、アレ。」


「そういう類のアレなのか?」


「そういうアレかと。」


 中学時代からの同級生のケイスケが言うなら、そういう事なんだろう。

結局、そんなこんなをアレして昼休みは幕を閉じたワケだが、オレは依然として彼女に対する答えを出せずにいた・・・。

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