第1歩:その男、優良物件につき?
なんか話数の数が新鮮なカンジですw
基本的には一つの話が完結しないと新しいの投稿しないからなぁ。
「とうとう夏がやってくるなぁ、イツキ君。」
「やってきちゃうね、イツキ君?」
学校に来て早々にオレを出迎える二つのニヤニヤ笑い。
「あぁ、そうだな。でも、その前に期末テストというシロモノがあったと思うのだけれどな。」
高校2年生になったがクラス替えもなく、そのままの状態でツルるんでいる二人の友人は、最早夏休みというパラダイスしか目に入っていないようだ。
だが、二人はオレの言葉に真剣に頷く。
「全くだ。ようやっと中間を乗り越えたっつーのに、コレだ。」
「仕方が無いな、ダイ。テストというものは我々を如何に効率良く育成できているかの指針なんだ。」
「相変わらずミもフタもねぇよ、ケイスケ。」
二人でしたり顔で会話続けている。
少々抜けた声で溜め息をついているのが北山田 大。
見るからに体育会系で、刈り上げた短髪をポリポリかくのが癖だ。
白い歯と爽やかスマイルのせいで、肌さえ焼けていればスポーツドリンクかビタミンドリンクのCMに出てきそう。
正直、オツムがアレなので、喋るとそれこそアレなのだが、逆に言えば喋る事さえしなければ、非常に好青年に見える。
「だが、逆に言えばその期末テストさえ乗り越えれば夏休みという白い明日が待っている。」
がっくりと項垂れているダイを宥めているのが東山 慶介だ。
スクウェアのシルバーフレームの眼鏡をした知的な印象のあるヤツで、目にかかるくらいの前髪がうっとうしげにしか見えない。
見た目の印象からして神経質そうに見えるが、オレやダイとツルむだけあって、そんな面は一切ない。
ところで、白い明日ってなんだ?
「で、夏休みがどうしたって?」
オレは仕方なくその不毛な会話に入ってやる事にした。
でないと、オレが自分の席に座れん。
「いや、なにって、オマエ、夏だよ?夏。しーずん・いん・ざ・さん、だ。」
全く説明になってない。
ダイじゃ話にならん。
オレはケイスケに説明を求めるかのように視線を投げる。
「夏。それは魅惑の季節。」
こっちも話にならんかも知れん。
「誰もが重い鎧を脱ぎ去り、開放的になる季節だ。」
キランとケイスケの眼鏡が光った・・・気がする。
「ははぁ・・・。」
回りくどいケイスケ独特の言い回しであったが、オレはなんとか言いたい事を察する事ができたかも知れない。
ちなみにクラスのほかの連中は、またかという目でオレ達を遠巻きに見ている。
相変わらず、優しいクラスメートだことで。
「つまり、夏休みを存分に堪能したい。それか遊ぶ計画を立てたいってところか・・・。」
「それだけじゃねぇっ!!」
「ダイ、人を指さすな、指。」
勢いと台詞を無視して、とりあえず注意。
今時、そんな力強く人を指差す人間なんているのかね、というか、そういう礼儀は幼い時に習ったもんだろ。
コイツはやっぱり人の話を聞かないタイプだな。
「いいか?夏だぞ、夏。」
「それはさっき聞いた。」
「夏ってのはなぁ、頼んでもいないのに、いや、嬉しくてウェルカムだが、お姉ちゃん達が薄着になる季節なんだぞぉ!」
ぞぉって語尾が非常に馬鹿っぷりを醸し出している。
まぁ、そんな事はどうでもいいが、ダイよ、クラスの女子の視線が、"またか"から"こりない"を経て、オレ達の株価が下落しているぞ?
というより、オレを巻き込むな。
「海だ。」
ダイの扱いに困りつつあるオレに対して、結論だけをケイスケが一言で言う。
つーか、じゃあ、さっきの回りくどい説明は何だったんだよ。
どうやら扱いに困るのは、ケイスケもたいして変わらないんじゃ・・・。
「要は、水着のお姉様方と戯れたいと?」
「そうだ!きゃっきゃっきゃの、うっふっふだ!」
うん、楽しそうだが、オレ達の株価はもうすぐ底値だ。
ちなみに現在は男子は苦笑、女子は痛いコを見る目をしている。
注意してもいいのだけれど、ダイは裏表もなく、心からそう思っているのだからどうにもならん。
「いーだろぉ?なぁ?」
・・・ちょっと違うな。
ダイを痛いコ、オレを哀れなコという視線だ。
なんというか、オレがコイツの無茶振りに振りに振り回されてるのをよく解ってらっしゃる。
ケイスケには以前、付き合いの良さを褒められた事はあるけれど・・・正直なところ、なんだかんだコイツ等と遊ぶと楽しい。
そういう意味で自分から巻き込まれに行ってる面もあるんだ。
なによりラクだし。
「そこまで行けば勝ち組、万々歳。とりあえず、きっかけ、出逢いが欲しいといったところだよ。」
「出逢いねぇ・・・。」
出逢わぬのなら 出逢いを作ろう ホトトギス
ダメだ、天下を取れる気がしてこないわ。
その前向きな姿勢は悪くないし、非常にダイらしくはある・・・方向性はまたまたアレだが。
オレだって夏休みは遊びたい。
海へ行くのも久しぶりだし、お姉ちゃんがいなくてもそこそこ楽しめそうでもある。
「何か言いたそうだね?」
オレの反応が気になったのか、ケイスケが問い返してきた。
ケイスケはなんだかんだでオレを気遣ってくれるんだよな。
ダイとケイスケは中学も同じだったから、もう慣れっこだけれど、まだオレは振り回されている感があるからだろう。
イイヤツではあるんだよ。
「前向きなのはいいが、オレ的には出逢いってのはなんつーか、そんな無理矢理にでも作らなきゃいけないもんなのか?」
絶対に作らなきゃってのが、でっちあげているようで、何か嘘くさい。
その証拠にクラスメートの何人かも頷いている・・・って、プライベート皆無の連帯感あるクラスだわ、ホント。
「かぁーっ!何言ってんだよ!じっとしててもしゃーないだろ!」
オレの意見を吐き捨てるかのように首を振り、腕をぶんぶんと振り回す。
おのれは五歳児以下か。
「ふむ。イツキの言い分も一理あるけど、でもダイの言い分にも一理あると思わないかい?」
そして、ケイスケの発言にもクラスメートが頷いている、と。
「そうだぜ!じゃなきゃ、お姉ちゃんと、もー、くんずほぐれずが出来ねぇじゃんか!」
但し、ダイのこの発言だけは賛同者はなく、冷たい視線を一身に集めているがな。
というか、完全に筒抜けだぞ、オマエの声がデケェから。
「それともイツキは夏休みを一緒に過ごすような女性が誰かいるのかな?」
ガタタタッ!
ほぇ?
教室の何ヶ所から盛大な音がして、オレ達への注目度が高まる。
オマエ等なぁ、そんなにオレの赤裸々ロンリー生活を聞きたいのか?
聞いてクラス中が涙したっ!とか、感動の規模がショボ過ぎるだろう!
オレは目立たず日々を平和に過ごしたいタイプなんだが?
「何だとォッ!誰だ?!誰なんだそいつは?!」
一際大きい反応で食ってかかるダイ。
オマエは別れ話を唐突に切り出された妻か恋人かなんかか?
あぁ、クラスから目立ってる、目立つを通り越して浮いている・・・。
「あのな、オレは放課後の大半をオマエ等とツルんでるだろうに・・・。」
彼女が出来ると友情と恋愛の板挟みになるというけど、生憎今のオレは友情を取っていて、友人と遊ぶのに大半の時間を割いている。
完全なアリバイだ。
これで彼女がいるとかだったら、アリバイ工作としても完璧だわな。
だが、現実はそうじゃない。
「確かに。」
「本当なんだな?!彼女とかいないんだな?抜け駆けはしてないんだな?!」
抜け駆けってオマエ・・・。
抜け駆けも何も、こういうのは同時に出来るもんでもないだろうに。
「大体な、彼女が出来たらまずオマエ等に話すだろ?」
一番最初とは言い切れないが、多分、オレはコイツ等に話す。
それくらいにはコイツ等を友人として大切にしているつもり。
「だ、そうですよ?皆さん?」
ニヤリと微笑みながら、一体誰に向かって言ってるのかな?ケイスケくんは?
「おぅ~、やっぱりオマエは心の友よ~。」
ジャ○アンか、オマエは。
抱きつこうとするな、うっとぉしい。
全く本題の海は何処へ・・・?
「って、オイ、ケイスケ?」
「ん?」
「オマエはさっきから何処を見ているんだ?キョロキョロして。」
「いや、今がチャンスなのだがと思ってね。」
チャンス?
何を言ってんだ、コイツ?
オレより付き合いの長いダイが困惑している様子を見ると、コイツにもケイスケの言動の意味が解らんらしい。
「何の事だ?」
全く意味が解らない以上、本人に聞き続けるしかない。
「いや、ここまでの優良物件は滅多にないのにな、と。」
ますます以って解らん。
謎極まれり。
「ならば、そのチャンス私が貰おう。」 「?」
割って入って投げかけられたのは、オレ等以外の声。
その主を探すと、悠然とオレ達に向かって来る女子がいる。
まるでモーゼの十戒のようにクラスの女子が、彼女に道を譲り、そのままずんずんとオレ達の前まで歩み出て・・・。
「鳴瀬 斎くん・・・私と付き合ってくれッ!」