第15歩:大事なのはバリエーション。
おかえり、自分。
版権以外で新年一発目ですね。
今年も宜しくお願い致します。
いつもの昼休み。
と、まぁ、いつもと言っても、いつもと違う。
今日はケイスケとダイの二人がいない。
片や部の話し合い、片や職員室への呼び出し。
どちらがどちらかは説明する必要はもはやない。
よって、現在は彼女と二人で屋上にいる。
先に昼食をとってもいいと言われていたので、そこは飢える心配もないんだが・・・。
「き、今日もいい天気だなっ。」
クールなはずの彼女が一人、ハイテンション?キョドってる?なぅ。
なんとなく解ってきた事があって、彼女は突発的な事態に弱い。
更に押しが強いくせに、押しに弱い。
その勢いに波があるという事だ。
そこが彼女の中の、なんつーか、葛藤みたいなヤツなのかも知れない。
個人的には、彼女の押しの勢いは体当たりどころか、特攻レベルなので遠慮したいところだ。
「そんなに二人だと緊張するのか?帰りも二人だろ?」
「帰りは衆人の目があって、厳密には二人ではない。というより、緊張などしてはいない!」
ある意味、これでもかという程明確に緊張していると宣言してるんだが、ここは突っ込まないでおこう。
でないとメシにありつけなさそうだ。
「そういうもんかね。」
オレは今日も彼女が作ってきた弁当の蓋を、いそいそと開く。
「君は緊張しないのか?」
「緊張?緊張ねぇ・・・。」
美味しい弁当のおかずを一口咀嚼して飲み込む。
「するよ。でも、それとそっちが緊張するのとは別だ。」
「どう別なんだ?」
「千鶴さんは美人さんだから、オレ等の側からしてみれば緊張するかも知れんが、オレは月並みのへいぼんぼんだから、そう緊張されるような相手じゃない。」
知的でクールで美人。
スタイルだって悪くない彼女は、クラスでは1,2を争う女子ではある。
最近、知的でクールが剥がれつつあるが、それがなくなっても彼女はモテる側の人間だ。
まぁ、好みはそれぞれだが。
「そんな事はない!」
ずぃっと彼女がオレの方に乗り出してきた。
近いな。
この近さは、緊張をしないのだろうか?
というか、きっとフッ飛んでるんだろうな。
「平凡だなんてとんでもない。君は私にとって特別だ。特別な人なんだ!」
・・・何を以って特別なのか。
しかも、それ程の勢いをつけるくらいの。
どう考えても、そんな付加価値的なものがオレにあるとは思えない。
けれど、彼女は自分の主張をなんとか受け入れてもらおうと奮闘している。
「だから、そんな事を言わないでくれ・・・。」
最後は哀願してきた。
すぐ近くで、黒い髪を揺らしながら・・・それは手の近くにある距離で。
そんなシリアスな(?)状況で、オレの視界に入ってるのはその髪。
なんか随分さらさらしてるな。
やっぱり女性だからか?
それとも使ってるコンディショナーの違い?
などと、非常に場にそぐわない好奇心を持って、特に躊躇いもなく、オレは彼女の髪を撫でてみる。
「なっ?!」
「思った以上にさらさらだわ。」
決して、フェチというわけじゃないぞ・・・多分。
ちなみに彼女は完全に硬直している。
気のせいか、心なしか・・・というか、みるみると赤くなっていく。
「どうした?」
「い、い、いきなり・・・そういう事をされると・・・その、心の準備というものが・・・。」
準備ねぇ・・・。
「準備してたらいいのかよ?」
そりゃ、思わず撫でてしまったオレが悪い。
でも、準備していたらいいという問題なのか?
「少なくともリアクションはとれる。」
芸人じゃないんだから。
「準備といえば、コレ、考えるの大変じゃないか?」
オレは箸で刺したウィンナーを彼女に見せる事で話題を逸らし、自分の愚行を有耶無耶にする事にした。
ウィンナーは、横向きに両端が三つに分かれ、ご丁寧に黒ゴマで目までつけてある。
カニだな、カニ。
その前は確か、タコだった。
一体、レパートリーは幾つあるのか気になる。
ちなみにオレはこの二つ以外は思いつかないし、凄くマイナーなものにしか思えない。
「そうでもない。中学の時に一度ハマってしまってね。その時に色々なバリエーションを試みた事がある。まだまだいけるから、楽しみにしてくれ。」
「大事なんだな、バリエーション。」
よく解らないが、彼女の中では楽しんでやっている事らしい。
労力が大変そうで悪い気もするが、弁当自体は美味しいので断る事もできん。
現金なヤツだな、オレ。
「勿論だ。そうでないと飽きられてしまうかも知れないから。」
「こんなんだったら、飽きないと思うぞ?」
「男性というのは皆、そう言うらしい。大丈夫だ、きちんと毎日そうなった時の為に君の好みの物を身につけているつもりだ。」
「何の話だ!何の!」
何時、話題が切り替わったんだ?
オレはそこまで切り替えたつもりはないぞ、全くな!
ったく、クールな顔して普段はどんな思考してんだ?
「私は私なりに、君の事を考えて生活しているという事だ。」
考えてくれてるのは悪い事じゃないと思うけど・・・いや、もしかしたら、オレが知らないだけで恋愛ごとってのは、そういうものなのかも知れない。
彼女が勢いをつけて体当たりするくらい前向きな姿勢作りも。
もし、オレが彼女に恋をしたら、同じ様になるのだろうか?
まぁ、流石にそこまではないとしても、変わってしまうと考えるとちょっと怖いかも知れない。
だが・・・。
「相手を知るのに、相手の事を考えるのは大事な事なのかもな・・・なぁ?心の準備が出来ていれば、大丈夫なんだよな?」
「こ、ここでか?!なるべく時と場所を選んでもらえると・・・。」
「・・・何か、また突拍子もない事を考えていらっしゃるところ悪いんだが、そうじゃない。」
「む。で、では何だ?」
顔を赤くしたり、青くしたり非常に忙しない。
「以下の二択から選びなさい。A.オレが千鶴さんを自宅まで送る。B.オレが千鶴さんと一緒に遊びに行く。さぁ、どっち?」
「むむっ?!むぅ・・・。」
知るという事は重要なファクターだと認めてやる事にしよう。
オレの選択肢に唸っている間、美味しい弁当を存分に味わう事にした。