第14歩:問題・問題・大問題!(金城 千鶴の場合)
ゆ、ゆ、由々しき事態になってしまった!
私の脳裏に今日一日の出来事が走馬灯のように走る。
思い出すと意識が遠のきそうになるから、走馬灯で間違いない。
まず、深呼吸。
そして順番に整理していこう。
最初に夏の予定。
確か、彼等は夏休みには海に行くと・・・。
「海だと?!という事は・・・水着か。」
自慢じゃないけれど、私は水着なんていうものはスクール水着しかない。
しかも、中学校の。
今着たとしても、きゅうくつでとてもじゃないが着られないし、着たら色々と大変な・・・。
いや、着る事を前提に考えてどうする。
「しかし、水着か・・・買わねばならないな。」
それは構わない。
彼と夏休みを過ごせるというのなら、水着だろうと何だろうと着てみせる。
だが、彼の好みの水着というのは、どういったモノなのだろう?
私の付け焼刃の知識を総動員してみると・・・む?案外スクール水着もアリなのか?
そういう類いの趣味の人間もいるというし。
問題は彼がそういう類いの趣味か否かだ。
周りの人間に水着を見られるというのは、余り良いものではないけれど、彼にはきちんと見てもらってアピールはしたい。
彼の好みに合うものを着て。
これはリサーチをすべき事案だ。
「あとは・・・。」
自宅の自分の部屋にある姿見の前で自分を見る。
一般的な男性の好みと比べて、私は細い気がする。
それに胸もそれ程大きくはない。
男性は大きい方が大きい程良いと聞く。
果物だって大きい方がいいし。
こればかりはどうにもならない。
とにかく落胆だけはさせないようにしたいところだ。
あとは"友人"の問題・・・ダメだ、どうにもならない。
私の周りの友人はクセがあり過ぎて、初対面でしかも水着で遊ぶというイベントには向かない。
もっとも彼ならば、心が広いから或いは・・・。
「やっぱり莉子に・・・。」
唯一マトモに近い妹の反応を想像して、それが自殺行為に他ならないのは間違いないので、これは最終手段だ。
正直、彼にも会わせたくない。
というより、姉の見栄と矜持だ。
・・・これ以上考えても進展はなさそうなので、次の事を考える。
先程の問題より、次の問題の方が重要で大問題だ。
私は自分の部屋を見回す。
「こ、こ、こんな部屋に彼を入れられるかっ!!」
・・・。
・・・・・・。
取り乱してしまった。
しかし、ダメだ、絶対にダメだ。
彼をこの部屋に入れるなんて、きっと引かれるに決まっている。
呆れられる。
回避するには部屋を大改造するしかない。
彼の見れない場所、クローゼットか何かに。
見られたらマズそうな物を片端から放り込めば。
それより、私の家族に目撃される方が大問題だ。
妹の莉子だけじゃない、母にも。
「やはり、彼が来る事自体が無理なのでは・・・。」
地雷だ。
この家は地雷に満ちている。
しかも、この地雷は踏まなくても起爆する。
危険極まりない。
しかし、彼が部屋に来るのも、彼の部屋に行くのも一大イベント。
逃すわけにはいかないのだ。
お部屋訪問は恋人同士のステップアップの必須条件。
互いの部屋に行き来するのは重要案件。
そうだ、彼の部屋に行ったならば、色々とリサーチをしなければ。
・・・ベットの下だけは武士の情けとしなければならないらしいが・・・まぁ、言わなければ、彼の名誉が傷つく事はないだろう。
「となると・・・となるとだ・・・。」
再び姿見を、そこに映った自分自身の下腹部を見つめる。
制服の下、女子の決戦兵器(と、妹は言ってた)。
勝負下着。
淑女の嗜み。
様々な言い方がある。
どんなに外見が可愛く着飾ろうが、中身の下着が悪いと途端に白けてしまうそうだ。
だが! 我に勝算あり!!
彼の好みは、彼の友人達から聞いた事がある。
これに関しては、私に分があるだろう。
いつでも胸を張って彼とまみえる事が出来るだろう・・・まみえる?
そして・・・?
「い、いかん、ヨダレがっ。」
「・・・お姉ちゃん、何やってんの?ドア開けてまま鏡の前で・・・睨めっこ?」
「り、り、莉子?!」
何たる失態。
私と同じく制服姿の妹が部屋の前で首を傾げている。
可愛らしい小首の傾げ方、私より小さくふっくらした可憐な少女。
あまり似ていると言われた事のない、可愛い妹。
「悶えててちょっと気持ち悪かった。最近お姉ちゃん、変。病気?」
「病気じゃない。」
ある意味、恋の病というものにかかっているが。
「ふ~ん・・・。」
「・・・何?」
「べっつにぃ~。」
含みを持たせた如何にも意味あり気な視線をしながら、隣の自分の部屋に戻って行った。
・・・バレるのも時間の問題かも知れない。
他にも細々とした疑問・問題点を挙げて、私は着替える。
妹がいない時を見計らって、試しに私か妹が彼氏を連れてきたらどうするかと聞いたら、母は案の定、『お赤飯炊かないとね♪』と満面の笑みで答えられてしまった。
やはり、我が家に彼を呼ぶのは時期尚早なのかも知れない。