第11歩:爆発よりも土下座は苦行の始まり。
(不気味だ・・・。)
朝のHRから4時限終了時までを過ごしたオレの感想だ。
HR後の時間も含めて、各授業の休み時間を合わせると4回ある。
4回はアプローチのチャンスがあったはず。
だが、彼女からの接触は何一つなかった。
しかも、しかもだ、今までにあったような授業中にオレに視線を送ってくるという事もない。
「いや、まてよ・・・。」
彼女がオレ見ていないという事が言えるだけ、オレは彼女を見ていたという事にもなるわけで・・・。
もしや、これが彼女の策、自分の印象をオレに植え付ける技なのでは?
と、考えると、『げぇ、孔明っ?!』とのたまえばいいのかというと、そういうんでもない気がするな。
一応昼休みには、彼女の方から話しかけてきたわけだし・・・。
「何が待てなの?」
オレのぽつりと漏らした呟きを聞きつけ、ケイスケが反応してきた。
オレは今、昼休みの何時ものルーチンともいうべき屋上での昼食を始めようかとしているところ。
「いや、何だかんだでオマエ等、順応早いな。」
つい一昨日までは昼食といえば男3人で屋上。
これが定番というか、普通だのはずだったのに、コイツ等はプラスアルファに対する順応が早い。
きっとオレよりも。
「順応つーか、友情に関しちゃ当事者だけど、恋愛はこっちにとっちゃ他人事だぜ?恋愛他人事ってオレ等は恋愛弱者かっつーの!リア充土下座しろ!」
「爆発じゃないんだ・・・。」
「オレ様はそんな非現実的じゃない!」
爆発するよりも土下座の方が現実的で、オレにやらせたいらしいよ、この男は。
「というか、自分で言っててアレだよな。恋愛他人事って。ちくしょー恋してぇぇっ!」
そんなにうがぁっと悶えられてもなァ・・・オレだって一方的に来られた側だしな。
ダイのように彼女欲しい~とか、恋してぇ~とかだのの果てにこうなったわけじゃないから。
「ダイの場合は、単純に下心満載でいちゃいちゃしたいだけじゃない。」
「そ、そ、そんなコトはないぞっ!」
(あるんだ・・・。)
うろたえるダイの姿は考えている事を如実に表していて、何と言うか、何を発言してもしなくても滑稽にしか見えん。
「でも、ま、そういう恋愛のある青春てのは、確かに憧れみたいなのはあるよね。」
「ケイスケでもか?」
クールなケイスケが恋だの愛だのを語るってのは、なんていうか意外に思ってしまう。
別に悪気はない。
「でもって、酷い、僕も男の子なんだよ?」
「そりゃそーだな。」
恋せよ男の子ってか?
「・・・何処かに恋の知識とか教科書とか売ってないかな?」
「ケイスケ、オレもあったら欲しいくらいだ。」
「ミートゥー。」
男3人、屋上でする会話としては、甚だ寒い。
寧ろ、誰かに聞かれたら引かれるレベルの会話だ。
「ところで、前に言っていた件はこの場合どうなんだ?オレとしてはオマエ等に合わせるつもりだけど?」
「前の件?・・・ってなんだ?」
「夏休みのハナシだよ。」
何を拘ってると言われるかも知れないが、オレは夏休みの海水浴というフレーズに惹かれているんだ。
ウチはあんまりそういう行事はしないしな。
「あぁ、それか。別に行くのは構わんぞ。つか、オレ様は端っから行く気満点だ!」
あぁ、うん、まぁ、ダイはそうなんだろうし、ケイスケはつきあいがいいから、ダイと一緒に行くだろう。
しかし、この行事の本来の目的は酷く不純な動機なワケだ。
「本来の目的だとな、ほらオレ、一応でも彼女みたいなのがいるワケだし・・・。」
当初の目的で行くとなると、それは彼女に失礼というか、不誠実だ。
「真面目だね、イツキは。じゃあダイ、どうする?」
存外に僕は構わないという風体でケイスケは言う。
付き合いで行くケイスケとしては、なんだろうと構わないのかも知れない。
「ん?来ればいいんじゃね?もう面倒だから彼女付きでよ。とりあえず土下座してから。」
「土下座はするのかよ?!」
根に持つヤツだな、コイツも。
「どういう風の吹き回し?」
ケイスケがダイの発言に裏があると言わんばかりに問うが、オレも全く以って同じ意見だ。
一体どんな心境の変化、方針転換だ?
「いや、彼女付きで、んでもってよぉ、その彼女の友人も一緒にいざ海へ!ってのはどうよ?」
どうよと言われてもなぁ・・・助けを求めてケイスケと顔を合わせる。
「覚えてたのか・・・。」
彼女とオレが付き合えば、彼女から女友達を紹介してもらえるかも知れないという説得でダイは懐柔された事を思い出した。
オレですから記憶の片隅だったというのに、ダイの煩悩恐るべし。
「これが忘れられいでかっ。」
「というか・・・無謀だと思うぞ・・・。」
だって、なぁ・・・。
「無謀?何を言う!古来よりよく言うだろ!やってみなけや解らないとな。諦めたらそこでゲーム終了だよ!熱くなれよ!」
何か・・・すげぇゴタク並べてますけど、それ全部パクリですよね、ダイさん。
つか後ろ2つは古来よりでも何でもねぇよ。
「そういう意味の無謀じゃなくてな、そもそも彼女に紹介出来る友達がいるかどうかも怪しいという話で・・・。」
彼女は昼食もグループで摂っている感じもないし、休み時間も自分から進んで話しかけているようにも見えない。
ただ、それでもイジメとかそういう風ではないのは、このクラスがいいクラスだって事なんだが・・・。
「何だと?!ヲイ、話が違うじゃねぇか!」
「いや、オレに言われても・・・。」
そう言い出したのはオレでなくケイスケだ。
オレは何も悪くない。
「ちゃんと"かも知れないよ?"って僕は言わなかったかなぁ。」
当のケイスケは全く悪びれた様子もない。
「くっそぉ~、ケイスケ!オマエも土下座しろ!」
「ん?それでいいならするけど?」
あっさりがステキだよ、オマエは。
このタイミングの土下座なんて何の意味もないと思っている証拠だ。
「一応・・・チャレンジはしてみるが、多分、無理だと思うぞ。どう見ても友達少なそうだし、千鶴さん。」
アナタは友達いますか?なんてのに等しい質問なんて苦行でしかない。
面倒なコトになってしまったが、ダイの暴走と止めるなら聞いてみる方向性で手を打たないとな。
「私が何だって?」